特集 2012年6月17日

魚の唇が美味しいって本当?

希少部位
希少部位
幼い頃に父から聞いた話だが、
「魚の一番美味しい箇所は目の下。次が唇」
なのだそうだ。

目の下はなんとなく分かるが、唇となると理解が及ばない。本当だろうか。
石川県出身。以前は普通の会社員。現在は透明樹脂を用いたアクセサリーを作る人。好きな色は青。好きな石はサファイア。好きな犬はウェルシュ・コーギー。

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アジの唇を食べる

魚は唇が美味い。
そう教えられた記憶はあっても、実際に食べてみた記憶が無い。

恐らく子供心に「やだよ気持ち悪いし…」と思ったんだろう。
もしくは「やだよそんな食べるとこ少なそうなの…」だ。
食いしん坊か。

それにしても唇。唇って。
どんな味だか全く想像がつかない。とにかく食べてみないことには。
とりあえず魚を物色してこよう
とりあえず魚を物色してこよう
唇が大きな魚の方がよいのだろうか
唇が大きな魚の方がよいのだろうか
ちなみに「魚 唇」でweb検索を掛けてみても、得られるのは「魚唇(ユイチェン)」とかいう高級食材の情報ばかりである。これはフカヒレの一部分だそうで今回求める唇とはあまり関係がない。 こっちが今注目しているのはあくまで文字通りの、魚の唇そのものである。
悩んだ末、手頃そうなアジを購入。特売で一匹98円。
悩んだ末、手頃そうなアジを購入。特売で一匹98円。
唇…
唇…
薄いが、ちゃんと唇はある。触った感じはぷにぷにしていて美味しそうと言えなくもない。
しかし、どう調理したらよいのか。このまま醤油で食べてもいいのだろうか。いやさすがにそれはちょっとワイルドすぎではなかろうか。
ともかく、唇だけを包丁でこそげ取ってみよう
ともかく、唇だけを包丁でこそげ取ってみよう
取れた。アジ本体も驚いているように見える。「え、唇、取られちゃうの!?」的な。
取れた。アジ本体も驚いているように見える。「え、唇、取られちゃうの!?」的な。
半透明の唇。意外にもがっちりとくっついていて、剥がし取るのに苦労した。

その苦労の末がこの量。マグロの大トロどころではない。砂金レベルの希少性だ。
爪先に乗るほどしかない
爪先に乗るほどしかない
悩んだ末、さっと湯通しして醤油で食べることにした。要はしゃぶしゃぶである。僅か、シラス2匹分ほどのアジの唇。下手に焼いたり茹でたりしたら消えてなくなりそうで恐ろしいので、ここは慎重になりたい。
お湯に通したらいっそう縮んでしまった
お湯に通したらいっそう縮んでしまった
さあ、いよいよ箸で摘んで口に運ぶ。なんといってもこの量。ちゃんと味わうことができるだろうか。食べてみたけどよく分からなかった、という結果になったらどうしよう。どこまでも緊張させる食べ物だ。
ところが…美味しい! これ美味しいぞ!
ところが…美味しい! これ美味しいぞ!
びっくりした。美味しいのだ。

味というよりその食感。普段食べている胴体部分とは、もう全くの別物だ。不思議な事に魚というよりむしろ貝に似ている。ぷりぷりした歯ごたえがあって若干のぬめりもあって、これはあれだ。サザエの刺身だ。

唇、この量でもちゃんと味わえる。しかも予想外に好みの味。嬉しい事態に頬が緩むが、しかし。
当たり前だが、一瞬で無くなってしまった
当たり前だが、一瞬で無くなってしまった
不満
不満
もっと食べたかった。もし唇が増えるポケットがあったら、きっと今頃これでもかという勢いでバシバシ叩いているだろう。しかし現実にあるのは空の皿。どれだけ見つめても、唇はもうない。

タイの唇の煮付け

唇が美味しいということは理解したので、ここはひとつ、他の魚も食べてみたい。今度はできるだけ大きなものが狙いだ。
とはいえ唇のためだけに尻尾まで一匹まるごと買うのは気が引ける。頭だけあればよいのだ。上手いこと頭部だけ買えないだろうか。
そう思っていたら、まさにうってつけのものが売っていた
そう思っていたら、まさにうってつけのものが売っていた
手のひら大
手のひら大
真鯛と金目鯛の、頭部である。見つけたときはスーパーの店頭で小躍りしそうになるくらいテンションが上がった。唇を食べたい方向けの商品です、と言われても信じる。こんな良い物をたった200円で売って下さってありがとうございます。
立派な唇ですね
立派な唇ですね
食べごたえがありそうですね
食べごたえがありそうですね
もう唇のことは完全に食材として認識している。
さてこれも唇だけ剥がし取ろうかと思ったのだが、なぜか上手くいかない。アジ以上にしっかりと密着しているようだ。面積の差だろうか。
触ってみた感じ、見た目ほど分厚くはないようにも思える
触ってみた感じ、見た目ほど分厚くはないようにも思える
すぐ下に硬い骨があって、そこに薄い唇がへばりついているような感触。無理に剥がそうとすればちぎれてしまいそうだ。せっかく入手した唇、どうせなら綺麗な形でいただきたい。
仕方ないので思い切って頭ごと煮てみることにした
仕方ないので思い切って頭ごと煮てみることにした
いわゆるかぶと煮だ。
これだけ大きければ、まあ唇だけ溶けてなくなることはないだろう。
ことこと煮込んで完成。唇は若干しぼんだような気もするが…
ことこと煮込んで完成。唇は若干しぼんだような気もするが…
そんなことより歯が飛び出していて戸惑う。鯛の前歯ってこんな感じなのか。
そんなことより歯が飛び出していて戸惑う。鯛の前歯ってこんな感じなのか。
唇を剥がす。くいしばっている感がちょっと怖い。
唇を剥がす。くいしばっている感がちょっと怖い。
煮付けにする前の頑丈さがウソのように、あっさりと剥がれた。ぷるぷるした感触が箸を通して伝わってくる。
金目鯛の方も、じっくり煮込みました
金目鯛の方も、じっくり煮込みました
あっかんべー、ではない
あっかんべー、ではない
こちらもするりと剥がれる。真鯛以上のぷりぷり感。
こちらもするりと剥がれる。真鯛以上のぷりぷり感。

唇=わらび餅

まず、真鯛の唇。上唇と下唇。
まず、真鯛の唇。上唇と下唇。
口に入れて思う。やっぱり貝に似ている。少なくとも魚の身ではない。 アジよりもちもち感が強く、煮付けたおかげか、ぬめりもほとんど感じられない。

ぷよっとしていて、いかにもコラーゲン豊富ですよ、という食感。なんとなくお肌によさそうな気がしてきた(思い込みかもしれない)。
そしてこちらが金目鯛。下唇のほうがだいぶ分厚い。
そしてこちらが金目鯛。下唇のほうがだいぶ分厚い。
笑ってしまった。真鯛よりもさらにもっちりなのだ。
金目鯛>真鯛>アジというもちもちヒエラルキーがここに完成した。

これ単体で食べたら魚の一部だとはまず思わないだろう。食感はもう貝すら通り越し、和菓子の域に達している気がする。あれだ、わらび餅だ。あのもっちり感にとても似ている。まさか魚を食べてわらび餅を連想する日が来ようとは思わなかった。

そして相変わらず、一口で無くなってしまった。これはもう唇という部位の特性上、仕方ないのだと諦めるしか無いのだろう。

今後魚の頭部を食べる機会に恵まれたら、忘れずに唇も食べることにしよう。おかしらつき、という言葉のありがたみが自分の中で一気に倍増した。

唇との出会いを大切にしていこう

さて魚の唇。美味しいかどうかと聞かれれば間違いなく美味しかった。とても好みの食べ物だった。父は正しかったのだ。今後も機会があれば積極的に食べていきたいと思う。
「たいかぶと」という魚のあらが売っていたので喜んで買ってきたが
「たいかぶと」という魚のあらが売っていたので喜んで買ってきたが
まさかの唇不在
まさかの唇不在
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