
まずは入門編「新堀 meets 黒沼用水路」
そういうわけでやってきて、埼玉県の白岡町。観光協会のサイトによると、梨の栽培が盛んで、水や緑が豊かな歴史のある町だそうだ。


田んぼもそこかしこに広がる白岡町

そういうわけでやってきて、埼玉県の白岡町。観光協会のサイトによると、梨の栽培が盛んで、水や緑が豊かな歴史のある町だそうだ。町内にはたくさんの川が流れ、約5km四方という面積にも関わらず、川の立体交差が9カ所もある。全国的にも珍しいそうで、これまでの河川改修の歴史を物語っていると言えるようだ。
水と人間の関わりの軌跡とも言える「川の立体交差」。すごそうだと思いつつ、今ひとつピンと来ない。ならば実際に見てみるしかないだろう。
水と人間の関わりの軌跡とも言える「川の立体交差」。すごそうだと思いつつ、今ひとつピンと来ない。ならば実際に見てみるしかないだろう。


観光協会のサイト内にある、川の交差マップを参考に訪れてみよう。まずは新堀と黒沼用水路の交差地点だ。


改めて掲示板になってるとかっこいい


イメージ図としてはこういうことだ

しっかりと町が説明図を設置してくれているのでよくわかる。確かに川の下を川が通っているのがイメージ図から読み取れる。では実際にその様子を見てみよう。


黒沼用水路の吸い込み口から入る水が…


手前に見える新堀の下を通って…


こちら側に出てくる!


そういうわけだ

どうだろうか。様々な受容のかたちがあると思うが、まず予想される反応としては「わかりづらいよ」というところだろうか。
あるいは「へー」とか「そうなんだー」という感じだろう。これは実際に現地に赴いた私にもやってきた気持ちなので、容易に共感することができる。名作とされるクラシック音楽や古典小説は、決していきなりわかりやすいわけではないのと似ているんだと思う。
あるいは「へー」とか「そうなんだー」という感じだろう。これは実際に現地に赴いた私にもやってきた気持ちなので、容易に共感することができる。名作とされるクラシック音楽や古典小説は、決していきなりわかりやすいわけではないのと似ているんだと思う。


なるほど、そういうことか


仕組みがわかると見る目も変わるか

ところでこの川の立体交差、水が淀みなく流れるのはサイフォンの原理を用いているからだ。
灯油ポンプで液体を移し替えるとき、管に一度液を満たすとどんどん流れていくことで知られているサイフォン。川の場合は下を通る流れがそれに当たるので、灯油ポンプと管の向きが上下反対になる逆サイフォンだ。
こう聞いて「なるほど、逆サイフォンか!」とエキサイティングな気持ちになれればいいが、個人的にはまだピンと来ない。頭でわかっても、気持ちがついてこないのだ。
灯油ポンプで液体を移し替えるとき、管に一度液を満たすとどんどん流れていくことで知られているサイフォン。川の場合は下を通る流れがそれに当たるので、灯油ポンプと管の向きが上下反対になる逆サイフォンだ。
こう聞いて「なるほど、逆サイフォンか!」とエキサイティングな気持ちになれればいいが、個人的にはまだピンと来ない。頭でわかっても、気持ちがついてこないのだ。



広がるパースペクティブ「黒沼用水路 with 三ケ村落」
続いてやってきたのは、黒沼用水路と三ケ村落の交差地点だ。


ふむふむ


なるほどなるほど

一つ目の交差地点を訪れたとき、今ひとつ気持ちの盛り上がりに欠けたのは、地形の都合上、交差している両方の川が同時に視野に入らなかったからだろう。それゆえ理解がどうしても頭でっかちになりがちなのだ。
その点、黒沼用水路と三ケ村落の場合は異なる。はっきりと交差が一目で確認できるからだ。
その点、黒沼用水路と三ケ村落の場合は異なる。はっきりと交差が一目で確認できるからだ。


明らかに方向の違う流れ方をしている2つの水路

どうだろうか。頭だけでわかっていたことを一枚の写真内で確認できて、川の立体交差の魅力が、予想よりもゆっくりだけど、じんわりとにじりよって来てくれているだろうか。


掲示板のイメージ図で興奮を加速させよう


理解と実感の一致を求めて



静かなるせせらぎ「姫宮落 feat.百間用水路」
続いては、姫宮落と百間用水路との交差地点。近くにある堰は緑に囲まれた様子が美しい。


堰の上を渡れるのも楽しい

この堰の少し下流に交差地点がある。


百間用水路の上流側


それがこの姫宮落を潜って…


下流へと放たれる


イメージ図で念押し

ここはクロスする様子が一望できないタイプだが、堰の写真からもわかるように、付近の様子がとても美しい。川の立体交差のことは少し忘れて、純粋に散歩を楽しんでもいいのではないだろうか。初夏の若々しい緑と光とが、もうそれだけで美しいのだ。



電気ビリビリ「百間用水路 loves 高岩落」
次は百間用水路と高岩落の交差地点。ここはまず近くに大きな変電所があるのがかっこいい。


移動中の車窓からの景色


高岩落と変電所のコラボ

たくさんの鉄塔や碍子の密度に、うっかり本日の興奮がマックスになったのはなかったことにして、他の要素に気を取られないようにして立体交差に向き合おう。


南北と東西の流れがクロスする


交差が一つの視野に入るタイプではある

向き合った。そして胸に訪れる何かを見逃すことのないよう、じっと心の目で見つめる。
しばらく待ってわかったのは、何も訪れてこないということだ。強いて言葉にすれば「なんか落ち着く」というくらいだろうか。僕は自分の感性を立体交差に試されているのかも知れない。
しばらく待ってわかったのは、何も訪れてこないということだ。強いて言葉にすれば「なんか落ち着く」というくらいだろうか。僕は自分の感性を立体交差に試されているのかも知れない。



Back to the 過去「隼人堀川 respects 黒沼用水路」
隼人堀川と黒沼用水路の交差点は、これまでにない規模のアピールにまず度肝を抜かれる。


巨大な記念碑


カラーでわかりやすい解説板

まあ実のところ「度肝を抜かれる」というのは言い過ぎだ。記念碑や説明図に「ほほう」となったというくらいが正直なところだ。
そして解説板の図は改修前の平成6年までのもの。現在は黒沼用水路は、この絵の通りではなく、隼人堀川の下を潜っている。
そして解説板の図は改修前の平成6年までのもの。現在は黒沼用水路は、この絵の通りではなく、隼人堀川の下を潜っている。


この隼人堀川の下を通る用水路がある

「あー、もしかしたら改修前の方が立体交差感があって面白かったかもな…」という予感に気づかないふりをしつつ、現在の状況を確かめてみよう。


潜りゆく黒沼用水路


出てくる黒沼用水路

ここで一度、「川の立体交差」という言葉に感じた「すごい!」という印象は、忘れた方がいいのかもしれない。いや、もうそれは何度も忘れようとした気もする。



埼玉のパルテノン「星川 inspired by 隼人堀川」
先ほどの地点から、隼人堀川に沿って移動しよう。


もう十分だ


奥から手前に流れてくる構図で

川岸は緑豊かで、歩いていても気持ちがいい。ダイナミズムばかりを求めていた私が、今となっては愚かしくも思える。
そんな隼人堀川、右上の写真は奥から手前に水が流れてきている構図なのだが、その先はこうなっている。
そんな隼人堀川、右上の写真は奥から手前に水が流れてきている構図なのだが、その先はこうなっている。


埼玉にあったパルテノン

夢をあきらめかけたところで出会ったこの光景。今回の旅で初めて「おおーっ!」と声が出た。素直に感動。感動のハードルが下がり気味だったのは否めないが、ここはなかなかインパクトがある。
川の行き止まりのようにも見える不思議や景色。だが、この先も水の流れは地下を通って続いているのだ。
川の行き止まりのようにも見える不思議や景色。だが、この先も水の流れは地下を通って続いているのだ。


パルテノンの位置が「現在地」


この星川の下に続いているなんて…

ここは結構素直にロマンということでいいだろう。それでも、これまで見てきたところからすると、もしかしたらこれが今回のマックスかもしれないと微妙な予感がよぎる。



交差界のスーパースター「元荒川 VS 見沼代用水路」
町の観光協会イチオシと思われるのが、続いての元荒川と見沼代用水路との交差点。規模的に最も大きい交差であるようだ。「柴山伏越」という名前も付いている。


毛筆体の「元荒川」が期待を高める


空撮写真の掲示もあり

交差点近くにある掲示も、今回の中で最も力が入っていて、詳しく様子がわかる。実際に近寄って見てみよう。


ここから潜る見沼代用水


この元荒川を潜って


再び地上に出てくる見沼代用水


本気を感じる掲示

写真から読み取れるモヤり具合がそろそろ楽しめる頃合いになってきただろう。規模が大きいだけあってか柵などのガードが固く、かぶりつきで見られないのだ。


この迫力が現実にも欲しい

歴史ある交差点らしく、江戸時代の様子を描いた絵も掲示してあった。現在はすっかりおとなしくなってしまったが、このころはエネルギッシュ。だまし絵のような面白さもあると思う。



立体交差二重奏「隼人堀川+mix見沼代用水路&野通川」
ここまで7カ所紹介してきたので、残りは2カ所。実はそれはいっぺんに見られるようになっている。2本の川をいっぺんに潜って通っているからだ。


事前準備した地図にも「×2」の目印が

一粒で二度おいしいとはこのことか。地図でもはっきりと奇跡のダブルクロスが読み取れる。最終地点にふさわしいクライマックスだ。


おなじみ隼人堀川が…


この野通川をくぐり、


そのまま見沼代用水路もスルー


そして再登場する隼人堀川

と言っても、地味なテイストはこれまで通り。地元の人でもダブル立体交差に気づいてない人が多そうな雰囲気が漂う。
ともあれ、これで白岡町の川の立体交差は完全制覇だ。テンション高めの言葉を使うほど、写真から読みとれるムードのギャップに上すべりする気はするが、どこものどかで気持ちのよい初夏の一日だった。
ともあれ、これで白岡町の川の立体交差は完全制覇だ。テンション高めの言葉を使うほど、写真から読みとれるムードのギャップに上すべりする気はするが、どこものどかで気持ちのよい初夏の一日だった。







地元で人気のそば屋にあった「わかめ丼」



「こうなるよね」というのが出てきて安心


「川の立体交差」という言葉の響きから受ける印象よりは、どこもずっと穏やかだった現実。それでも、行き過ぎる人が全く気にかけてないようなのを見ると、自分だけ秘密を知っているような気にもなって楽しかった。
上の写真は町内で人気のそば屋さんで見かけた気になるメニュー。そばを食べに来たのに…と思いながらも注文してみました。
上の写真は町内で人気のそば屋さんで見かけた気になるメニュー。そばを食べに来たのに…と思いながらも注文してみました。
