2012年、実家は竹やぶに覆われた
2012年、僕のゴールデンウィークは竹刈りに始まり、竹刈りに終わったと言ってよい。
刈られた大量の竹。
僕は庭の無いアパート暮らしなのに、なぜ竹刈りに終始することとなったのか。
それには深い理由がある。
僕の実家には小さな庭があり、もとは普通の庭だったのだが、祖母がここ10年ほど竹に妙な執着を示すようになって、竹を切るのを禁じたのである。
竹は狭い庭にびっしりと生えそろい、住環境を著しく圧迫した。いわば「竹類憐みの令」である。
右半分が全て竹に覆われた庭。
それでも叔父が存命の頃は、祖母を無視して伐採していたのだが、叔父が逝去して祖母の独り暮らしになってからは、切る者がいなくなった。
下の写真は叔父が亡くなってから最初の6月、竹の子が生え始めた庭の様子である。
粗い写メールで申し訳ないが、建て際に竹の子が20本ぐらい並んで、家を包囲していた。悪夢で見る光景に近い。
この年は敷地全部で40本以上の竹と竹の子を伐採して廃棄した。
ゴミ袋20袋分ぐらいに達します。
なぜ切らなければいけないのか
竹の子など放置しておけばいいような気もするが、そうもいかない。じつは実家は、敷地の半分をアパートにして他人に貸しているので、うちだけの問題ではないのだ。
事実、不動産屋からは僕の元へガンガン苦情が入りまくり、僕は6月の休日を全てつぶして、激怒する祖母をなだめつつ、竹を黙々と切り倒した。
毎年6月、祖母の怒りと地味な作業が僕の精神を追いつめた。
だが今年、事態は転機を迎えた。祖母が実家から引っ越したのである。健康面で不安が生じたので、ちょっと実家を離れることになったのだ。
6月になればまた竹の子は生えてくる。やるなら今しかない。
僕は地元の仲間に応援を依頼し、竹刈りチームを編成して、一気呵成に勝負を決することにした。
竹刈り・初日
ざっと数えて竹は100本以上ある。
空を見上げても光は見えず、庭は森の中のように暗い。とりあえず僕らはこれを片っぱしから50本ほど切り倒した。
なんとなく集まってくれた地元の友人たち。感謝。
安かったので電動ノコギリを購入。
刈ったそばから、どんどん細断。
昼飯は、出前のおすし&缶ビールで乾杯!
仲間というのはすばらしいものだ。
毎年6月、僕の精神をギリギリのところまで追いつめた竹刈りが、こんなにも楽しく軽快に進んでいく。
誰からも理解されなかった、僕の竹刈り。
誰からも感謝されなかった、6月の地獄。
あの孤独の日々がまるで嘘のようで、和やかな笑顔とともにこの日の竹刈りは進んだ。(しかし翌日は全員筋肉痛)
竹やりごっこに興じる33歳男性たち。
竹刈り・二日目
全体の6割ぐらいが終わったので、GW後半、今度は一人で残りの作業を行った。
おもに細断という地味な作業です。
一人はつらい。
笑顔もなく、話す相手もいない。竹につまづいて転んでも、笑ってくれる人はいない。痛くて寂しいだけだ。
というか、なぜ僕は晴れたゴールデンウィークに、こんな地味な作業をしているのか。
答えは分かっている。ううちの父親が何もしない
からだ。
定年して毎日ヒマでぴんぴんしてるのに、面倒くさがって何もやらないのである。そしていつのまにか、竹刈りの責任者が僕に回ってきたのだ。
「一刀両断にした。むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない」
処理を業者に頼むという案もあったが、見積もりを取ったら、「廃棄だけでも最低10万円」と言われた。アパートの経営は厳しく、そんな余裕は無い。僕のこの作業に対してすら、1円の小遣いも出てないのだ。
仕方ない。
僕がやることは、仕方がないんだ。
自らの気持ちをなだめつつ竹を細断していたら、ぺっきーん!
電ノコの刃が折れた。
10時間以上ずっと運転して、さすがにガタが来たのだろう。
刃とともに、僕の心も砕け散った。手でノコを引く気力もない。
もう、どうでもいいんじゃないか。
竹だってそりゃ、生えるさ。
ここまで俺は充分に、親孝行したじゃないか。
きっと神様は見ていた。
何かいいことがあるはずだ。
そう思って、さっき切った竹を手に取ったら……
酒が湧きだしていた。
すごい、竹から酒が無限に湧きだす!!
何だろうこれ、本当に酒だろうか。
匂いは完全に酒だが、竹の中に湧いてくるなんてありえない。神様が僕を憐れんでくれたのだろうか。
本物だろうか。おそるおそる一口飲んでみた。
竹の樹液かな……
やっぱ酒だ!! これ酒!
酒だった!
竹筒の中に、なんと酒が湧き出したのだ!
しかも驚くことに、飲み干すとまた酒がいくらでも湧きだしてきた。
下の動画を見てほしい。
いくらでも酒が湧きだす竹筒!
ありがとう神様! 親孝行な僕へのご褒美ですね!
こうしてこの日、僕はぶっ倒れるまで酒を飲んだ。
竹酒すげーな!竹の上に座って飲んじまうよ!
茶番はこれぐらいにしようか
さて、種明かしをしよう。
8割ぐらいの人が気付いていると思うが、酒は背中のリュックに入っている。
こういう装置が、
背中に入っています
ペットボトルと竹筒はチューブでつながっていて、栓を開けると酒は竹筒の底へ泉のごとく湧き出す。
元がペットボトルなので、「無限に」という記事タイトルに多少の語弊があるが、2合しか飲めない僕にとって、2リットルの酒はほぼ無限に近い。
あと、竹筒はリュックより低い位置に置く必要があります。
ところで、生まれて初めて竹筒で酒を飲んだが、とてもうまい。
竹のさわやかな香りが酒に移って、長生きできそうなありがたい味になる。
結婚式なんかの樽酒を飲むと、木の香りがほどよく酒に移って大変おいしいが、あれと同じだ。意外な発見に得した気分である。
中身は「鬼ころし」なのに、すごくうまい。
さらに、二人用に装置をいじっているうちに、想定外の革命的な活用法も発見した。
面倒臭い上司との飲みも、これでやり過ごせる超ライフハックだ。ぜひ読んでほしい。
注がれても、勝手に上司が飲んでくれる!
この装置を2人用にして「底から酒が湧く竹筒です!」と紹介して飲み始めれば、注ぎ合いに気を使う必要がないのでは?と思い、チューブを分岐させてみた。
そして二つの竹筒に酒を湧出させたところ、一つの発見があった。両方の水位が自然と同じになるのである。
分岐を付けて二又にすると……
あ、水位が同じになる!!
当然だ、二つのコップは底でつながっているのだ。
図で書くと、こんな感じで水位が低い方の竹筒に酒が移動していくのである。
ということは、あれだ。
このコップをうまく使って上司とサシで飲むと、こういうことになるのではないか。
おー猫山君、グラスが空じゃないか! 注いでやろう!
あ、加藤課長、どうもありがとうございます。
(とくとくとくとく)
おー飲め飲め!俺が若い頃なんかはな、今の若手の倍は飲んだもんだよ!
(ぐいっ!)
やー、課長今でも、充分強いじゃないですか。
(キュッ!)
いやー、昔は二日酔いなんかしなかったけど最近はだめだなー。
(ぐいぐいっ!!)
いやー課長はまだまだですよー。
いや、もう今日なんかは1杯飲んだだけなのに、3杯ぐらい飲んだような……むにゃ……
てな具合である。
あなたが酒に弱い新入社員でも、これがあれば上司に注がれて困ることもないし、注がれた酒を勝手に上司が飲んでくれて一石二鳥である。
豊かな現代において、酒が湧いてくる竹筒よりも有効なのではないだろうか。
「奇跡の竹筒」、商品化していきたいです。
竹を切りながら、これはデイリーの記事にならないかと夢想していたところ、とんでもない便利グッズの発明に至った。
1人用では底から長寿の酒が湧いてくる「奇跡の竹筒」。
2人用では上司との飲みをやり過ごす「奇跡の竹筒」である。
現在、実家の庭には2トントラック一杯分ぐらいの竹があるが、これを材料に製品化して、一儲けしていきたい。