特集 2012年4月4日

公式にパパラッチされてみた

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スターや有名人のスクープ現場を追いかけるパパラッチ。
一度は決定的瞬間なスクープ写真を撮ってみたいものである。
しかし、街中で赤の他人を撮るのって躊躇する。知らないひとの日常を切り取ることは、ある種の背徳感を生む。それはもちろんマナーとして許されない場合もあるし、下手をすりゃ、肖像権だ犯罪 だ、とお叱りを受けることになる。
でも撮られる側がそれを承諾していたならば、パパラッチは「遊び」になるのではないか。みんなパパラッチになってみたらいい。僕を公式にパパラッチしてみたらいい。

「3/20(火)祝日。東京の街を赤い帽子を被って歩きます。みなさんは赤い帽子の男にバレないように、そっと彼の日常を切り取ってください。当日の行動はTwitterにて更新されていきますので、Twitterを確認しながら赤い帽子の男を追って下さい。決定的な瞬間や、密会の現場など、一面を飾るスクープ写真を撮ったパパラッチには素敵なプレゼントも。」
こうして事前告知した公式パパラッチ。果たして僕は本当にパパラッチしてもらえるのだろうか。

81年横浜生まれ。WEBディレクターを経て編集、ライター、構成作家をしています。モノヅクリユニット「mochrom」、コンテンツメーカー「ノオト」所属。Twitterではいろんなbotの中の人。かわいいハリネズミを飼っています。


> 個人サイト モクロム

渋谷ハチ公前「戦いのはじまり」

渋谷ハチ公前。朝11時に公式パパラッチをスタートさせる。これから8時間、僕はパパラッチ達の目を気にしながらこのぽかぽか陽気の東京を満喫する事になる。
撮られているかどうかリアルタイムでチェックしつつ
撮られているかどうかリアルタイムでチェックしつつ
パンとコーヒーを口に運びながら、情けない瞬間を撮られることがないよう、いつもより少しだけかっこつけてパンを食べる。今を撮れ、という瞬間も必死に作った。

ハチ公前は休日ということもあり多くの若者でごった返す。ほとんどの人々がスマートフォンや携帯電話をいじっており、そこには小型カメラが間違いなくくっついている。
当然のことながら、「誰がパパラッチで、誰がパパラッチではないか」という疑心暗鬼に陥る。
あっという間に右からやられた
あっという間に右からやられた
ほどなくしてTwitterに僕がパンをかじる姿がパパラッチ投稿される。いつの間に。
この企画の内容からして、パパラッチされないと話にならず、ライターとしての「僕」の心の奥底では「撮ってくれ」という気持ちがある。しかし同時にそのもう少し奥にいる「僕」が「怖い」と感じている。

Twitterにアップされたパパラッチ画像:7枚

原宿表参道「移動型パパラッチ」

さあ、撮っていいんだよ
さあ、撮っていいんだよ
徒歩で原宿に向かう際、パパラッチ達へのサービスカットとしてウィンドウショッピングしてる風な行動もしたのだが、そんな写真は誰も撮ってはくれない。代わりに後頭部を思い切りパパラッチされる。世の中における僕の後頭部の需要について考える。僕にはわからない。しかしそれがパパラッチなんだろうと思う。
僕が撮られたいものと彼らが撮りたいものは違う
僕が撮られたいものと彼らが撮りたいものは違う
Twitterにアップされたパパラッチ画像:3枚

新宿アルタ前「大量なパパラッチとの接近戦」

アルタ前に来るとパイナップルが食べたくなります
アルタ前に来るとパイナップルが食べたくなります
新宿駅アルタ前に着いた僕は、気分を落ち着かせるために煙草を吸う事にした。灰皿の前で火をつける。すると若い男性が僕に近づき、火を貸してほしいと声をかけてくる。パパラッチだろうか?
僕は日頃から道を尋ねられたり、火を貸してほしいと言われたりすることが多い。隙だらけの間の抜けた顔がそうさせるのだろうか、とにかく人々は目的地や火を求めて僕に話しかけてくるのだ。

僕の貸した火でうまそうに煙を吸った彼は、僕にライターを返すと「ありがとうございます、エヒタさん」とにやりと笑って消えた。数秒後、僕の隙だらけの間の抜けた顔がTwitterにアップされた。
「火貸してください」パパラッチさんの作品
「火貸してください」パパラッチさんの作品
アルタ前のパパラッチの数は10人以上いるようだ。中には同行者のウェブマスター林さんの背中をパパラッチする猛者もいた。「僕の企画のせいで関係のない林さんまでパパラッチされている」この事実に妙な責任感を感じ始める。平穏な他人の人生を僕の勝手が歪ませていく。「林さんも覚悟してください」僕はそう伝える事しかできない。僕は何人の人生を歪ませれば気が済むのだろう。いつだって気付くのは大切な人を泣かせた後だった。
奪われた林さんの背中。しかし林さんなんだってこんなピンクなんだろう
奪われた林さんの背中。しかし林さんなんだってこんなピンクなんだろう
Twitterにアップされたパパラッチ画像:19枚

池袋ウエストゲートパーク「演技するパパラッチとの心理戦」

池袋の戦場はウエストゲートパーク。休日の広場は平和そのものだ。ダンスの練習に励む女子大生たち。スポーツ新聞を読みふける初老の男性。東京の昼下がり。しかし僕にはそのすべてが「演技」に見えて仕方がない。いつ彼らは懐に隠したカメラで僕を隙を奪うのだろうか。
なにげないこんな平和な風景にも
なにげないこんな平和な風景にも
すぐそこにパパラッチ
すぐそこにパパラッチ
2人組の女性がこちらをちらちらと見ている。僕はたまらず彼女達に声をかける。
「パパラッチですか?」
すると彼女達は不思議そうな顔をして「え?なんですか?」と僕に返した。
僕は己の自意識過剰っぷりに恥ずかしくなった。「なんでもないです」と答えすぐに彼女達から離れた。恥ずかしい。僕はすべての人が僕を見ていると勘違いし始めていた。なんて愚かなんだろう。

数分後、「エヒタさんに話しかけられた」とTwitterでつぶやかれた。もう誰も信じる事ができない。
Twitterにアップされたパパラッチ画像:10枚

巣鴨とげぬき地蔵「本格パパラッチとの戦い」

企画以外で来た事がない街、巣鴨
企画以外で来た事がない街、巣鴨
巣鴨ではお年寄りが闊歩しており、たまに歩く若者すべてがパパラッチに見える。
そんな時、僕はTwitterにアップされるある人物の投稿が気になっていた。それは確実にスマートフォンのようなカメラではなく、高画質のカメラで撮っているであろう写真たち。中には写り込んだ関係のない人の顔にその場でモザイク処理まで施している。
その気の使いようは素敵だが僕には恐怖でしかない
その気の使いようは素敵だが僕には恐怖でしかない
Photoshop?PCまで持っている?悪ふざけからはじまったこの公式パパラッチが、参加者達の「パパラッチ欲」を本格的に沸き上がらせている事は確実だった。「撮らせてあげよう」という気持ちから「撮られたくない」に変化したのもこの巣鴨あたりからだ。
林さんこれでも気付かなかったらしい
林さんこれでも気付かなかったらしい
Twitterにアップされたパパラッチ画像:6枚

上野アメ横「人ごみの中でのパパラッチ」

林さんが「そこに…いる」とか言い出した
林さんが「そこに…いる」とか言い出した
上野アメ横に場所を移す。休日のアメ横はたくさんの人で溢れかえり、僕と同行者の林さんははぐれてしまった。焦りながらも、僕は情報を求めTwitterを確認すると、すでに情けない僕の顔がパパラッチされていた。そしてはぐれた林さんもパパラッチされている。教えてよ。
はぐれてる最中、上からパパラッチされてる
はぐれてる最中、上からパパラッチされてる
その後林さんと合流したが、その合流したシーンすらパパラッチされており、「合流できたようです」と安心までされている。監視社会の冷たさと温かさを感じた。
パパラッチ達に心配される大人2人
パパラッチ達に心配される大人2人
Twitterにアップされたパパラッチ画像:12枚

品川駅前「望遠パパラッチとの戦い」

さあどっからでもこい
さあどっからでもこい
品川駅前での攻防は、障害物のない広場の中心に立った僕を、パパラッチ達は隠れながら撮る事になった。あとから聞いた話によると、この時点ですでにパパラッチ達は徒党を組み始めていたらしい。遠い陸橋の上に望遠を構えたパパラッチが見える。僕は指を指す。「やばい、バレた」とつぶやきがアップされる。僕だって撮られてばかりではないのだ。そしてパパラッチを見付け、嬉しそうに笑う僕が後方からパパラッチされる。
パパラッチを見つけた姿をパパラッチされる
パパラッチを見つけた姿をパパラッチされる
Twitterにアップされたパパラッチ画像:20枚

五反田駅前立ち食い寿司「店内のパパラッチ」

一回来てみたかったんだよここ
一回来てみたかったんだよここ
五反田での戦いはこれまでのような広域なフィールドとは違い、限定的な場所での戦いとなった。
立ち食い寿司を食う僕をパパラッチ達が外から狙うというものだ。これにはパパラッチ達も相当手を焼いたらしく、アップされる僕の姿もぼやけていたり、はっきり写っていなかったり。密談や取引はやはり室内のほうがパパラッチ対策できる。しかしホッキ貝がうまかった。
DPZライター大北さんも参加。インカメラを使う戦法
DPZライター大北さんも参加。インカメラを使う戦法
Twitterにアップされたパパラッチ画像:9枚

渋谷モヤイ像「パパラッチとの答え合わせ」

モヤイ像前にいる約半分はパパラッチというカオス
モヤイ像前にいる約半分はパパラッチというカオス
渋谷モヤイ像にはすでにパパラッチが複数人潜んでいるようだった。Twitter上には「まだ来ないな」とパパラッチ達の恐ろしい言葉が並ぶ。モヤイ像では見つけ次第声をかけていく事にした。この時点ですでに、自らがパパラッチである事を伝えたがっていた方も多かったし、なにしろ僕が一番答え合わせしたかったのだ。
ニセモノまで登場
ニセモノまで登場
5名程のパパラッチに声をかけて周っていると、大きなレンズが僕を狙っているのに気付いた。あの望遠パパラッチだった。
品川駅前での攻防に使われた望遠レンズ
品川駅前での攻防に使われた望遠レンズ
午後19時15分。公式パパラッチは終了した。
パパラッチのみなさんと記念写真
パパラッチのみなさんと記念写真
Twitterにアップされたこの日のパパラッチ画像:112枚
当日の様子はこちら
「公式パパラッチされたい」

8時間限定の公式パパラッチ。112枚の切り抜かれた僕の日常。想像以上に疲れたのが正直なところだ。いつ撮られているのかわからない恐怖は日常で使うことのない筋肉や神経を使っている事に気付く。事実、僕はパパラッチした日、家に入る際もきょろきょろと見回したぐらいだった。しかし第三者の目が常に光っているということは、自制心に心強い味方がいるとも言える。いつもより「善人であれ」と行動していた自分がいた。そう思いながらも、スリルを味わうべく鼻を2回程ほじくっていたのは僕の胸の中だけに留めておく。 みなさん有名人など見かけた際には、隠れてとったりせずにちゃんと声をかけてから撮りましょうね。
写真集のようにイケメンに撮ってくれた@Circocco_さんにパパラッチ賞(サトウのごはん)を差し上げたいと思います。みなさんありがとうございました。
写真集のようにイケメンに撮ってくれた@Circocco_さんにパパラッチ賞(サトウのごはん)を差し上げたいと思います。みなさんありがとうございました。
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