特集 2011年9月5日

大人が味わうほろ苦すべり台

大人が遊ぶと楽しいだけでは済まされないすべり台
大人が遊ぶと楽しいだけでは済まされないすべり台
「子供の心を忘れない大人」という言い回しがある。プラスの意味で使われるその言葉は、童心に帰って無邪気に遊びを楽しめる大人を評したものだろう。 自分の問題として言えば、それは「すっかりいい大人だけど、実はすべり台で遊びたい」ということになる。冒頭の言い回しのプラスの響きが、一気に台無しになる告白だ。

実際に大人が遊んでみると、子供の頃の楽しい思い出以外のものも胸に去来するすべり台。いろいろ回ってみた。
1973年東京生まれ。今は埼玉県暮らし。写真は勝手にキャベツ太郎になったときのもので、こういう髪型というわけではなく、脳がむき出しになってるわけでもありません。→「俺がキャベツ太郎だ!」

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真夏こそ大人のすべり台シーズン

公園の遊具の中でも、すべり台は人気の高いものの一つだろう。考えてみれば簡易型のジェットコースターとも言えるすべり台。それが体力の続く限り遊び放題なのだから、こんなに楽しいものはない。
大人も遊びたい でしょ、これ
大人も遊びたい でしょ、これ
こちらは渋谷区の公園で見つけたすべり台。ロケットのような外観に、螺旋状のスロープ部。元男の子である私には、大人であることを超えて遊びたくなる魅力にあふれている。

きっと子供たちにも大人気の遊具だろう。しかし、人影は全く見えない。
激アツ!夏のすべり台
激アツ!夏のすべり台
今こそチャンスだ
今こそチャンスだ
スロープ部に手を当ててみると、かなりの熱さ。気温も相当高く、そもそも子供たちの姿は公園に見当たらないのだ。

春や秋といった過ごしやすいシーズンは子供に占拠されがちなすべり台。元気な子供は冬でもへっちゃらで遊んでいるものだが、夏は穴場。子供が暑さを回避している隙に、大人が安心して楽しめるチャンスなのだ。
新しい感覚「せま楽しい」
新しい感覚「せま楽しい」
なんかいろいろとやばいわ
なんかいろいろとやばいわ
独占状態で楽しめるすべり台。塔の内部を登っていくのはかなり狭く感じられて、子供の頃の感覚とはずいぶん違う。

意外な角度から大人になったと実感したわけだが、上から下を見下ろしたときにも感じるものがあった。思ってたより高くてやばいな、と思ったのだ。

高さに浮かれてばかりいられない大人の感覚。そしてそこにいる自分の写真も、場違いでなんだかやばさが漂う。
夢への入り口みたいに見える
夢への入り口みたいに見える
夢から出てきた大人
夢から出てきた大人
思った以上の緊張感が湧いていくるのは意外だが、ここでまたはしごを降りるのはさすがにかっこ悪い。スロープ部に長座して、すべり降りよう。行くぞ。

モソ、モソモソモソモソ…。

スピード感がまるでない。のろのろとじんわり進んでいく。体が大きくなり、スロープが窮屈なのだ。体重が重くなったのも関係しているだろう。

あの頃の爽快感がないすべり台。心にやってくるのは楽しさよりも苦味。

こんなはずじゃない。大人だって楽しくすべり台で遊びたい。ならば、もっとあからさまに楽しさが前面に出たすべり台を訪れよう。
嘘くさいくらいに赤いタコ
嘘くさいくらいに赤いタコ
赤いにも程があるタコのすべり台。東京・品川区の神明児童遊園にあるものだ。

色こそやりすぎ感があるが、造形的にはグネグネとリアル蛸の雰囲気をしっかり残している。子供が初めて触れるタコとしても好ましいことだと思う。
保護者はいないけど大丈夫
保護者はいないけど大丈夫
俺のタコタイム
俺のタコタイム
普段は子供たちであふれるすべり台であるようだが、猛暑のためか人影は皆無。今こそ大人がタコプレジャーを独占できるチャンスなのだ。
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アニマルと大人が一体化するモーメント

正面から見ると、頭部が向かって右にややくねっているのがいじらしい。本物蛸のぐにゃぐにゃした質感がこんなところにもよく出ている。

造形だけでも楽しいが、すべり台はやはり遊んでこそのもの。搭乗口に乗り込んで、すべってみよう。
夏の日差しにテカるタコ
夏の日差しにテカるタコ
モサーッ!
モサーッ!
まずはセンタースロープから下りてみる。なんか、短い。

裏から登ることによって得た位置エネルギーが、一瞬のうちに消費される。「あのはしごを登った報いがこれだけか…」という切なさが去来するのは否めない。

そして搭乗してみるとわかるが、このタコはただファニーなだけではない。
結構な角度
結構な角度
傾斜が思ったよりもきついのだ。これが大人には厳しい。

写真の頭上で光が星のようにきらめいているのは夏のいたずらか。全体的に「何やってんだ」という雰囲気が漂う一枚において、意味を見出しづらい輝きを放っている。
ショアーッ!
ショアーッ!
シャーッ!
シャーッ!
ツァーッ!
ツァーッ!
本当はそんないい音しません
本当はそんないい音しません
複雑な形をしたこのタコは、スロープが何本もあるのが特徴。ここにもある、こっちにもか、と登って初めてわかる発見がある。

他に子供が誰もいない故に、どのスロープでも選び放題。そしてそれが虚しい。

そうだ、すべり台というのは、そこにいる他の子と先を競ったり譲りあったりして遊ぶのも楽しさの要素の一つなのだ。大人のすべり台遊びにはそれがな い。ただただ一人すべり台と向き合うのが苦い。
おもしろまじめ
おもしろまじめ
タコを見つめるタコ
タコを見つめるタコ
そんな痛みを癒してくれるが、この公園にもう一体あるタコ。先ほどのタコがすべり台という遊具の機能があるのに対して、こちらは純粋タコだ。機能を削ぎ落し 、タコであることだけで勝負しようとしている。

リアルな造形はすべり台と共通。そうでありつつ、頭部のハチマキ的なループと謎のVで子供心に歩み寄る姿勢もある。
初対面とは思えないなれなれしさで
初対面とは思えないなれなれしさで
昔からの友達かのように
昔からの友達かのように
暑さ故、ゆでダコにも見える
暑さ故、ゆでダコにも見える
この遊び方でいいんだろうか
この遊び方でいいんだろうか
ただタコでしかないそれは、遊び方を向きあう者に問うているようにも見える。にじり寄りながらポーズを決め、最終的には頭部へよじ登る。写真によってタコの表情が違って見えるようであれば、それは気のせいだ。

これでいいのかという自問に対して、私の心から聞こえてきたのは「タコに登ると楽しいね」という答えだった。

静かな路地の奥
静かな路地の奥
ここから発射
ここから発射
続いてやってきたのは新宿区。神楽坂あたりの路地を入ったところにある公園だ。左の写真、左下に見える入り口を入っていくと、右の写真のようなすべり台の搭乗口にたどり着く。

そしてこのすべり台、下から見るとこんな感じになっている。
なぜだか本気度高め
なぜだか本気度高め
住宅街の中、唐突に現れるゾウのすべり台。顔が二段になっていて、鼻部分が連続したスロープになっている。
鼻のつながり具合が新鮮
鼻のつながり具合が新鮮
野生を感じる表情
野生を感じる表情
造形的には真剣ムードが漂う作風で、子供に媚びるところのないデザイン。大人向きと言ってもいい雰囲気が漂う作品であり、今回のテーマにもぴったりだ。すべってみようではないか。
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喜びと悲しみが交錯するすべり台

その達成感はなんだ
その達成感はなんだ
行きまーす
行きまーす
上に来ただけでなぜだか楽しいこのすべり台。日陰であるのもおっさんの健康に優しい状況だ。下に向かっていく緩やかなカーブのスロープも激し過ぎず、ほどよい期待が膨らむ。

それでは出発だ。それー。
ビッグサンダーマウンテン的リアクション
ビッグサンダーマウンテン的リアクション
うーん…
うーん…
ズルズルとじっくりすべっていく自分。写真を見ると期せずしてジェットコースターに乗っているかのようなポーズを取っているが、そういうスピード感はない。

上にいたときは楽しい気分だったはずなのに、下まで来た時の表情は暗い。尻への摩擦が思ったよりもハードなのだ。

気持ちの落差に打ちのめされていると、公園の奥から人影が現れた。大人だ。
すべり台使えばいいのに
すべり台使えばいいのに
奥からこちらに下りて来るようだが、階段を利用するこの方。移動に必要なエネルギーや時間を考えると、すべり台は移動手段として価値のあるものだと思うが、あくまでそれはスルー。

確かに実際にすべった者としては、それで妥当な判断だと思う。ここは変に子供心を持たないほうが体のためにもなる。

すべり台求めてたどり着いた楽園
すべり台求めてたどり着いた楽園
人の気配が少ない園内
人の気配が少ない園内
ここまでは一般的な町の公園を訪れてきたが、続いて紹介するのは茨城県石岡市にある「フラワーパーク」という施設。チケットを買って入るタイプの公園だ。

その名の通り、園内にはさまざまな花が植えられていて美しいが、来訪日は猛暑だったこともあってか人影はかなりまばら。すべり台目的で来た私には、ライバルとなる子供たちがいないことが期待される。
距離がすごいことになってる
距離がすごいことになってる
埼玉の自宅から遠いところまでわざわざやってきたのは、ここのすべり台は長さに特徴があるからだ。「滑走距離800メートル」との表示が自慢気でもある。

ブレーキ操作やスピードの出しすぎに対する警告にも本気度が感じられる。そういう意味でも大人のすべり台だ。
ブレーキに自信のない奴は乗るな!
ブレーキに自信のない奴は乗るな!
親子搭乗時のブレーキ操作図が気になる
親子搭乗時のブレーキ操作図が気になる
距離が長いこともあり、最高時速は40km/hほどにもなるというこのすべり台。すべり台と名乗ってはいるが、それってもう一般的な領域を超えてるんじゃないだろうか。

横断幕でも繰り返しブレーキ操作について注意が促される。果たして自分のブレーキ技術は大丈夫だろうか。自問していると、親子で乗るときの乗り方イラストが目に入る。

ブレーキスティックの位置と形状はそんな感じですか。心が少しなごんだところで、すべってみよう。
人の世話になるタイプ
人の世話になるタイプ
照れくさい大人一人旅
照れくさい大人一人旅
400円の料金を払って、係の人に搭乗を申告する。「あ、大人一人なんだ…」と思われてるんじゃないかと想像してしまうなど、心理面での葛藤も有料タイプのならではの味わいだ。
頭の中は「ブレーキ…ブレーキ…」
頭の中は「ブレーキ…ブレーキ…」
このすべり台はそりに乗ってすべるタイプ。まずはワイヤーで引かれて、丘の上のまで行ったところからが真のスタートだ。

まだブレーキレバーを操作する必要はない。そうわかってはいても、あれだけブレーキについて責め立てられたためか、今から股間にあるレバーを握る手にも力がこもってしまう。

さあ、最高部までたどり着いた。ここからがいよいよすべり台本番だ。
ワイルドとマイルドの狭間で
ワイルドとマイルドの狭間で
ついマイルド寄りに
ついマイルド寄りに
レバーをうまく前後させて、スピードを調整。スリルと安全性の間で揺れながら、つい安全寄りに傾いてしまう。このあたりにも、子供の無謀さをなくしてしまった大人のかなしみを感じる。
微妙な速度でゴール
微妙な速度でゴール
孤独と闘いながら、今ひとつスカっとしないままにゴール。係の人に「おつかれさまでしたー」的なことを言われても、素直に受け止められない自分がいる。

このモヤモヤを正面から受け止めよう。そこにこそ、いい年こいてすべり台で遊んでいる味わいがある。
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すべり台解放区で自分を束縛

最後に紹介するのは、神奈川県横浜市にある「金沢自然公園」だ。
恥ずかしくなるほどかわいいバス
恥ずかしくなるほどかわいいバス
無料で乗るのに罪悪感
無料で乗るのに罪悪感
公園にはいくつか入り口があるが、今回利用した正面口からは無料のコアラバスに乗って園の奥まで行くことができる。大人だけで乗ると心洗われつつも、場の空気を壊していないか心配になるかわいさのバスだ。
今回はスルーする動物園の表示
今回はスルーする動物園の表示
溺れてるっぽく見えるのが心配
溺れてるっぽく見えるのが心配
入場料が必要な動物園もある公園だが、入場無料の植物区エリアの「こども広場」というスペースにすべり台があるらしい。

「こども広場」か。心にシャッターを下ろされたようなネーミング。

コンセプトはわかる。でも、できるだけおとなしくするから、大人にもちょっと遊ばせてほしいんだ。実際、かなり魅力的なのだ。
子供だったらうれしょんレベルのプレジャー
子供だったらうれしょんレベルのプレジャー
シンプルながらかなりの長さ
シンプルながらかなりの長さ
くねくねっぷりがうれしい
くねくねっぷりがうれしい
長さの違うすべり台が3つ。どれも普通の公園レベルにあるような長さではない。

しかしながら気になるのは、ほどよく曇った週末に訪れたためか、ライバルとなる子供たちがたくさん遊んでいることだ。さすがこども広場、名に違わぬ実体を伴っている。

ここまで、あえてカンカン照りの日を狙っていたのだが、ここだけはたまたまこうした状況に。心の壁を超えられるのか、試されているようにも思える。
ライバル多数
ライバル多数
状況に押しつぶされたくはない
状況に押しつぶされたくはない
まずは最も長いくねくねすべり台を味わってみたい。子供のチラ見視線を心の中で打ち消して、順番待ちの列に並ぶ。

いよいよ自分の番だ。今回のすべり台は、長いこともあってかスロープがローラーになっているタイプ。大人でもスムーズにすべっていけることが期待できる。
これは楽しそう!
これは楽しそう!
でも結局なんか痛い
でも結局なんか痛い
ワーッという気持ちですべり始める。うん、なかなかスムーズではないか。

それはいいのだが、ローラーの凹凸があるためなのか、これまでのすべり台にはない振動が体を突き抜ける。そしてそれは、体の中に眠っていたものを呼び覚ます。
新感覚その2「痛楽しい」
新感覚その2「痛楽しい」
実のところ痛み優勢
実のところ痛み優勢
婉曲的な言い方をしたが、それはつまりトイレに行きたくなるということだ。

すべり台で遊んで催す便意。子供にはないフィジカルへの影響がそこにある。ここは便秘知らずの自分に生まれ変わることができると、ポジティブに考えたい。
ローラーが太いのが気になる
ローラーが太いのが気になる
素直にアーッと思う
素直にアーッと思う
続いては2番目に長いすべり台。こちらもローラー式なのだが、先ほどのものよりも一本一本が太い。不安を覚えながらもすべってみよう。

やはりそうだ。先ほどのがドゥドゥドゥドゥ…と細かい振動だったのに対し、こちらはディグディグと尾骶骨鳴らす。
大人になった自分を体で実感
大人になった自分を体で実感
昔の自分なら、こんなことはなかったはず。実際、他の子供達は繰り返しすべってとても楽しそうにしているではないか。

もういい、満腹だ。すべり台はやはり子供たちに返そう。大人がすべり台で遊ばなくなるのには、しっかりと理由があることが心に刻まれたのだ。

出てこれる気がしない遊具
出てこれる気がしない遊具
フィジカルにもメンタルにもダメージをおよぼす、大人のすべり台。子供の心を忘れないということは、すべり台においては相当厳しいことがよくわかった。

それでも、心に去来するものには独特の味わいがあるすべり台。仕事や人生で迷った時、すべり台をすべることで「何やってんだ?」と自分を客観視するきっかけにはなるかもしれない。
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