特集 2011年9月1日

砂糖水バーとその考察

砂糖水バー、開店
砂糖水バー、開店
甘みの原点砂糖と飲み物の原点水を混ぜあわせた砂糖水。このプリミティブなもの。すごく簡単に作れるので僕自身は家でたまに飲むのだが、世間ではあまり人気があるようには思えない。

ぜひともみんなに味わって欲しいので、夏のデイリーポータルZエキスポの騒ぎに乗じてバーテンダーとして振舞ってみることにした。

人の好みはそれぞれだが、どんな人がどんな砂糖水を好むのか、バーのマスターとしては気になるところでもある。調べてみたい。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)


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原点に戻ろう

僕は前から砂糖水に抵抗がない。いや、あるほうがおかしいのだ。

清涼飲料水あるいは栄養ドリンクを口にしたことがない人はいないだろう。それらの成分の最大公約数は言ってみれば砂糖と水だ。

というわけで砂糖水が嫌われる理由はどこにもない。材料は「水と砂糖」だけで手軽、安全、安心なので現代人にピッタリだ。それどころか古代人にもピッタリ。

その良さを紹介しようとクックパッドにもレシピを投稿してみたこともある。
誰かにやられちゃう!と思って急いで投稿したページ。(こちら)
誰かにやられちゃう!と思って急いで投稿したページ。(こちら
このレシピを見て砂糖水を作ってくれた人も何人がいた。喜ばしいことだ。人類は分かり合える、そう思った。

しかし、そこには厳しい現実があった。砂糖水ブレイクの兆しが見えることはなかったのだ。

なんでだろう。いろいろ考えた末、一つの結論にたどり着いた。
切なさ
切なさ
砂糖水づくりは切ない。

水道水をコップに入れ、そこに砂糖水を混ぜる。このズボラ極まりない行為を家のキッチンでやるのは非常に切ない。

小麦粉にソースかけて食べるような、まだ作ってる途中のものを頂いている気分なのだ。切ないどころか情けない。

そこでひらめいたのである。

かっこいい砂糖水

砂糖水バーテンダー(プープーテレビ「かっこいい砂糖水」より)
砂糖水バーテンダー(プープーテレビ「かっこいい砂糖水」より)
自宅でひとりで作ると情けない気持ちになる砂糖水。だが、これをバーテンダーっぽい格好をした人が作ったら、素直に味だけを楽しめるのではないか。

これをイベントでの出し物としてやろう。思いついたあとは勢いに乗ってメニューも作り上げた。
書いてあることはほぼ適当である。3甘、エロティックな余韻ってなんだ。
書いてあることはほぼ適当である。3甘、エロティックな余韻ってなんだ。
5段階の甘さを用意した。5甘が一番濃い甘さになっている。ちなみに1甘、2甘の表記はカレー屋ココイチのメニューを参考にした。

味の説明はウイスキーの飲み方を参考にして書いた。……とは言え、味は大体「甘い」だけなので、説明は適当な文章を継ぎ接ぎしてみた。

ストレート シングルのレシピが水40mlに対して砂糖が15グラム。ウイスキーストレートのクッと来る感じをイメージした濃さだ。

その他の濃さはシングルを基準に水で割ったり砂糖を少し足したりしたものとなる。果たして反響はいかに。
このジガーカップで1杯42mlを量ることができる。普通はウォッカとかを量る。
このジガーカップで1杯42mlを量ることができる。普通はウォッカとかを量る。

実際味はどうなのか?

前日の「飲んでくれる人なんていないのでは」という不安をよそに、大体100人くらいの人に砂糖水を飲んでもらえた。

飲んだ直後の反応は大まかに言って不評ではなく、こんな感じ。

「 あー…うん、あ、いや! 」
「あっ、でもっ! でもっ! うん!」
「嫌いじゃない! 懐かしい味!」

……好評?

やや婉曲的な表現ではあったものの、数秒の間で自分の中で砂糖水のいいところを探し出して発見する……その過程が見て取れたようであった。

砂糖水は人にポジティブさを与えるのではないだろうか。
飲んだ後こういう顔をしていた人がたくさんいた。代表としてライターの小柳さん。
飲んだ後こういう顔をしていた人がたくさんいた。代表としてライターの小柳さん。
好き!という人も結構いたし、甘すぎてむせる人は…すこしいた。他に砂糖水の味を例えで表現してくださった方もいらっしゃった。

「かき氷のみぞれが解けたやつ」
「こんぺいとう」
「綿あめ」

それ全部砂糖の甘さだろう、と思った。砂糖水は人を素直にさせるのかもしれない。砂糖水は歴史ある飲み物なのでそのくらいの力はあって当然だ。

より詳しく分析してみよう。
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砂糖水の濃さで顔は違うか

さて、巷で「懐かしい味」と好評の砂糖水を振る舞う一方で、飲んでもらった人の顔写真を撮らせていただいていた。

何故か? 世の砂糖水好きたち(飲んだのだからきっとそうだ)の顔を合成し、平均顔を作りたい。
60人くらいの方々の顔写真が集まった
60人くらいの方々の顔写真が集まった
前掲の通り砂糖水は5種類の飲み方があり、それぞれ濃さが違う。飲んだ砂糖水の濃さで分類し、それぞれの平均顔を作成する。(こちらの記事と同じ手順です。)

濃いのが好きな人と薄いのが好きな人では顔が違うのではないか、という想定だ。
顔パーツの位置をちまちまとマッピングする
顔パーツの位置をちまちまとマッピングする
昔のバーチャファイターみたくなった
昔のバーチャファイターみたくなった
もういちど確認。1甘から5甘まで用意して、1甘は水割りで5甘は少量の水に砂糖をたっぷりとなっている。5甘は相当甘い。

5甘を飲む人は砂糖が好きなので、おそらく砂糖が好きそうな顔をしているはずなのである。検証してみよう。

平均顔の結果は以下のようになった。
3甘と5甘の平均顔がふわっとしているのは、比較的たくさんサンプルが集まったからです。
3甘と5甘の平均顔がふわっとしているのは、比較的たくさんサンプルが集まったからです。
どうだろう。

最も濃い5甘の女性の平均顔、どことなく甘いもの好きっぽい雰囲気がするのは私だけだろうか?

どう見ても朝ごはんがホットケーキの人だ。のどが詰まるけど、そこは砂糖水で流し込むのだ。
「天ぷらにはメープルシロップかけるんです」
「天ぷらにはメープルシロップかけるんです」
翻って一番薄い甘さの1甘を好んだ女性は、どことなく甘さ控えめな方が好きっぽいように思える。

そういえば水割りはストレートで飲むより量が多い。味の濃さより量をとる人、という風に見ると頷ける方も多いのではないだろうか。
「飲むの好きです!」
「飲むの好きです!」
飲んだ砂糖水の濃さ一つ取っても、顔に特徴がよく出ているのがわかってきた。

中身はどんな人なんだろうか。より詳しく検証してみよう。

質問紙を用意した

平均顔作成用の顔写真の提供してもらうのと同時に、質問紙を用意してアンケートをとっていた。

よく考えるとアンケートとらされるバーなんてすごく嫌だ。しかし、砂糖水の甘さの度合いと、それを好むのがどんな人なのかを分析することで、今後来たるべき砂糖水ブームの動向をより深く把握することができる。むしろ必要な犠牲だ。

設問は5問、平均顔と見比べながら各項目を検証しよう。
小さいな~って言われた質問紙。確かに小さい。
小さいな~って言われた質問紙。確かに小さい。

一番人気は砂糖水オンザロック

砂糖水アンケートはイベントにて私が砂糖水を作っている間に、質問紙に書いてある質問に答えてもらう形で行った。

すると85人分の解答が得られた。設問の前に注文した砂糖水の甘さ、年齢を答えてもらった。見てみよう。
オンザロックが一番人気
オンザロックが一番人気
今、若者たちは薄い砂糖水を飲む!
今、若者たちは薄い砂糖水を飲む!
一番人気の飲み方はオンザロックだ。言ってみればオンザロック(3甘)はストレート(4甘)に氷が入っているだけのだが、ストレートを大きく引き剥がしてトップに輝いた。続いてストレートにさらに砂糖を足した5甘が2位。

砂糖水に氷を入れると心理的にぐっと飲みやすくなるのだろうか、是非試してみて欲しい。

年齢の方を見てみると、水割り(1甘)を飲んだ人の若さが気になる。若い人は味が濃いものが好きなのかと思ったが、そうでもなかったようだ。

きっと年齢を重ねるごとに砂糖の甘さのありがたみに気がついていくのだろう。
水割りを頼んだ男性「甘いの苦手ッス」
水割りを頼んだ男性「甘いの苦手ッス」
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甘さと健康の関係

設問に移ろう。5つの設問のうち、はじめの2つはこういうものだ。

Q1お酒を飲むのは好きですか?
(1とても好き 2好き 3ふつう 4嫌い 5とても嫌い)
Q2健康状態(心と体)に満足していますか?
(1とても満足 2満足 3ふつう 4不満 5とても不満)

甘党、辛党という表現を見ると酒と甘みは相反しそうだが、どうだろう。また、健康に自信がある人は甘みを求めるのだろうか。

それぞれの解答の1~5まである選択肢の平均をとってみた。
数字が小さいほどお酒が好き
数字が小さいほどお酒が好き
数字が小さいほど健康に自身あり
数字が小さいほど健康に自身あり
まずQ1。4甘と5甘群、つまりストレートの砂糖水で飲んだ人を見るとお酒が結構好きなようだ。お酒が好きな人は甘いのも好き。

海外ではチョコレートなど甘いものをつまみにして酒を呑むこともある。日本にもその潜在性は十分にあるということが分かる。

また、健康に自信がない人は濃い甘さを好むということも分かる。つまりこれは、「もっと健康になりたい人は濃い砂糖水を体が求めている」ということを意味していると受け取るのが自然なことではないだろうか?

砂漠でカラカラになった人に砂糖水を与えると元気になるという報告もある。砂糖水が健康に与える影響は小さくない。
「体から、体の方から甘みを求める声が聞こえるんです!」
「体から、体の方から甘みを求める声が聞こえるんです!」

甘さと動物

続いての質問はこちら。

Q3好きな動物は何ですか?
(1イヌ 2ネコ 3カブトムシ)


この質問にはある仕掛けがしてある。3のカブトムシにひっかかりを感じた方、鋭い。

老若男女に人気があるカブトムシだが、カブトムシは甘い砂糖水(蜜)が好きなので、甘い砂糖水が好きな人間は無意識の内にカブトムシ以外の選択肢を選んでしまうはずだ。

結果は下のようになった。
脅威のカブトムシ率の低さ
脅威のカブトムシ率の低さ

カブトムシは敵?

カブトムシを選んだ人の割合がとてつもなく低いことに、私としても驚きを隠せない。どの濃さの砂糖水を飲んだ人も共通して選ばないというのもポイントだろう。

4甘(ストレート)を飲んだ人にいたっては選んだ人はゼロである(サンプルが少ないというのもあるが関係ないだろう)。

砂糖水を飲むような人は、カブトムシという象徴に対して砂糖の確保という観点から無意識の内に拒否反応を示してしまうとでもいうのだろうか。

砂糖が白色なのに対してカブトムシが黒色というのも対照点があるのも、あながち偶然ではないかもしれない……。
4甘を飲む人「カブトムシですか…ちょっと勘弁ですね…」
4甘を飲む人「カブトムシですか…ちょっと勘弁ですね…」

砂糖水を飲むと優しくなれる

Q4新製品や新しい機能をもったモノに興味がありますか?
(1はい 2どちらともいえない 3いいえ)
Q5困った人を見たら手を差し伸べますか?
(1はい 2どちらともいえない 3いいえ)

これらは単純に砂糖水を飲む人の好奇心と優しさを調べようと思って問うてみた。
数字が小さいほど新しいものが好き
数字が小さいほど新しいものが好き
数字が小さいほど困った人を見捨てない
数字が小さいほど困った人を見捨てない

人それぞれの甘さを求めて

まずQ4を見ると、濃い砂糖水を好む人程保守的だということが分かる。(薄い砂糖水である1甘もやや新しもの好きではない方だが、それはノイズなので除外する。)

砂糖という昔からある甘さに気がついている人は、どうしても新しいものに手をだそうとしないのだろう。

一方Q5はどうだろう。

2甘群、4甘群をみると「困ったい人を見捨てないか?」と質問に「どちらとも言えない」と答える傾向がある。自分に一番あった濃さを選べる人間は(理想ではなく)よりリアリティのある解答をするのだということが分かる。

Q4,Q5では濃さよりも飲み方へのこだわりとの関係が垣間見ることができた。

生まれたばかりの赤ちゃんが前世で好きだったこだわりの砂糖水を覚えているという都市伝説もあるというが、信じるか信じないかはあなたが決めることだ。
3甘を飲んだ男性「自分、まだまだでした!」
3甘を飲んだ男性「自分、まだまだでした!」

受け入れられやすい砂糖水はこれだ

砂糖水を飲んだ経験が最近ないアナタ、もしくは砂糖水を誰かに作ってあげたいアナタのためにアンケートから導かれたアドバイスをまとめるとこうなる。

・砂糖水は人をポジティブにさせる飲み物だと知ろう。
・砂糖水に氷を入れておこう。
・お酒が好きで疲れてるなら砂糖をたっぷり入れよう。
・カブトムシがいないところに行こう。
・ゆくゆくは自分にあった飲み方を探してみよう。

皆さまにもよき砂糖水の恩寵が有らんことを。
余計な道具を使ったせいでびっくりするくらいテーブルまわりがベタベタになった。
余計な道具を使ったせいでびっくりするくらいテーブルまわりがベタベタになった。
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