
写真はリズムで撮る~写真展「ポートレート」トークイベント書き起こし~
編集部安藤です。2020年の9月3日から10日まで、毎日5枚の写真をはげます会専用コミュニティのイベントページにアップする写真展をやらせてもらいました。タイトルは「ポートレート」。
今回はイベント最終日に行ったギャラリートークの文字おこしをに少し編集を加えて掲載します。
写真展に行こう
安藤:僕は毎年どこかで自分の写真を展示していまして、やっぱり写真って撮るとどこかに出したいという欲が生まれるんです。今まではリアルな場所、たとえばカフェとかお店だとかを借りてやったりしていたんですが、今年はそれがやりづらい状況だったので、だったらオンラインをやってみようかなと思って。ところで橋田さんは写真展って行ったことありますか?
橋田:ないかも。
安藤:絵は見ますか?
橋田:見ないですね。
安藤:なんで行かないんですか。でもまあだいたいの人は写真展とか行かないですよね。でも見に行くとですね、これがすごくいいんです。絵とか写真って生で見るとすごくいい。
特に写真っていうのは、写真を撮るところと、それをプリントするところっていう、盛り上がりの山が2つあるんですね。写真は写真の、プリントはプリントのプロが互いにタッグを組んでやるわけです。で、このプリントの部分が実はすごく大切で、写真ってプリントによって大きく変わります。
実際生できれいなモノクロプリントなんかを眺めると、すごくいいんですよ。僕はもちろんプロじゃないので自分で撮影して、自分で現像して、自分で手で焼いていました。
橋田:自分でぜんぶやってたんだ。
安藤:やってましたね。モノクロだと家でもできるんです。僕はキッチンで現像もプリントもやっていました。
というわけで、写真って生で見なきゃだめだろうと実はずっと思っていたんですけど、こんな時代だからというか、今はとくにリアルに集まりにくいので、それならばオンラインでやってみたらどうかなと。で、やってみたらわりとこれがおもしろかったですね。
オンライン写真展のいいところ
まずオンライン写真展のよかった点として、リアルな写真展だと引き伸ばすから大きな写真が必要なんですよ。デジタルカメラだと大きなデータが必要だし、フィルムだと元のネガが必要。そんなもの僕は整理整頓ができないので整理してとってない。
デイリーで「デジタルリマスター」って記事があるじゃないですか。昔の記事の写真が小さいから大きくして出しなおしているんですけど、僕の記事がないのは写真をとっておいてないからないんです。
その点オンライン写真展って、元の写真がなくても小さな写真でも、わりと見られちゃう。最初の方に出したフィルム写真って、もうネガすらどっか行っちゃってないんですよ。あれを写真展に出そうとすると、ちっちゃな写真になるか、ガサガサなものを伸ばしたものになるので、ちょっとそれは悲しい。でもオンラインだったらまあ見られるんです。そこは今回やってみてよかった点です。あとはお金がかからないのもいいですね。僕はヒカリエでインドのおっさんの写真展をやったことがあるんですが。
橋田:コメントでもいただいてますよ。ヒカリエの展示よかったって。
安藤:ありがとうございます。あのときはたぶんプリントだけで15万円ぐらいかけてます。巨大な写真を印刷したので、1枚2万ぐらいかけて伸ばしてるんですよね。きれいにプリントしようとするとそれぐらいかかっちゃう。でもあのときは場所代がかからなかったんです。場所は編集部で借りてたから。
橋田:自分でやると場所代もかかるんだ。

安藤:そうです。だからリアルで写真展をやると、ものすごくお金がかかります。
橋田:みんなびっくりしてますよ。たけーって。そんなに高いんですねってコメントいただいてます。
安藤:プリントはサイズとかクオリティによって値段もピンキリなんですけど、手焼きって言われるやつ、ネガに光を当てて伸ばす方式だと、やっぱり高いです。手でやるので。その点オンラインだと負担が少ないですね。
橋田:手間もお金もかからない。
安藤:そうです。それがすごく良かったです。あともう一つオンラインのいいところは、コメントをもらえるところですね。
写真展に行くと感想ノートが置いてあったりするんですが、みんなあまり書いてくれないので。せいぜいギャラリートークでお客さんと話をするぐらいだったんですけど、オンラインだとわりと気軽にコメントを付けてくれるのがすごくうれしかったです。
橋田:写真にコメントという組み合わせもわかりやすかったですね。
撮りたいものとリズムを合わせる
安藤:せっかくなのでちょっといただいたコメントみてみましょうか。
橋田:山田さんからコメントいただいています。 「友達があまりいないのと、知らないひとに声をかけるのが難易度高いのでポートレートは好きなんですが、あまり撮る機会がありません。安藤さんはどうやって撮っていますか?」ということですが。
安藤:興味があるものを撮ればいいと思うんです。人を撮るのが難しいという人が多いんですけど、僕は逆に建物とかを撮るのがすごく苦手で、うまく撮れない。
人物写真は声をかけて撮るときもあるんですが、海外とかだとカメラを構えて「撮りますよっ」て格好を見せます。で、嫌な顔をされたら撮らない。「OK!撮って!」みたいな感じならシャッターを切る。書類を持っていって「撮っていいですか、問題なければここにサインしてください」とかはしないです。
以前は許可取りしてたときもあったんです。でもそれだと向こうも構えちゃうし、リズムが崩れるんですよね。
前もどこかで話したかもしれないですけど、写真を撮る時って撮りたいものとリズムを合わせるんです。たとえば歩いてる人を撮る時に三脚を立てて撮らないでしょう。こっちが止まってて、相手が歩いてるじゃないですか。それだとリズムが合わない。逆に古い城とか大きな山なんかを撮る時は三脚をたてます。向こうがどっしり止まってるから、こっちもどっしり構えるんです。写真って瞬間を切り取るので互いのリズムが違ってるとちぐはぐになっちゃうんです。
わざとちぐはぐにすることもあるんですけどね。例えば江ノ島くんと一緒に御飯を食べに行くじゃないですか。本来なら彼とリズムを合わせて撮るべきなんだけど、そんなことできないんです、あいつ食べるの速いから。そうすると江ノ島が食べてる顔や手がブレるんです。僕とリズムが違うから。でも、それはそれでスピード感が出るんですよね。生々しく食べてる感が出るんです。
そうやってリズムが違う違和感をわざと使うこともある。同じように渋谷のスクランブル交差点で三脚立ててる人は、自分はとまってるけど、周りは流れてるみたいな写真が撮りたいんですよね。僕はこれわりと気にしていて、歩いてる人を撮るなら横を歩いて同じリズムで撮ります。
あと僕は鼻歌を歌いながら撮ることがよくあって、周囲のリズムに合わせながら撮るんです。街が動いていたらその動きに合ったリズムで鼻歌を歌いながらシャッターを押していく。
橋田:そういうのって習ったんですか?安藤さんだけがやってることじゃなくて?
安藤:誰かに聞いたんだと思うんですけど、忘れました。すごい昔に仕事でちょっと撮っていたことがあって、その時に教えてもらったんだと思います。戻りますけど、だからポートレートも撮りたい人に歩調というかリズムを合わせてみるといいんではないですかね。
フィルムカメラのこと
橋田:次の質問いいですか。フィルム写真をどうやってデジタルにしていますか、とのこと。
安藤:僕はフィルムスキャナーでやってます。
安藤:このへんはネガなんですよ。
橋田:昔のネガをスキャンしたってこと?
安藤:そうです。これはGR1っていうカメラで撮っています。同じカメラを2回なくして、これで3つ目なんです。もうボロボロになってるんだけど、よく旅行してた頃はこれをずっと使ってました。最初の最初は写ルンですだったんですけど。
橋田:やっぱりスタートは写るんですなんですね。
安藤:写ルンですは大人になっても使ってましたよ。大学の頃も写るんですで撮ってたし、あ、でもコニカのビッグミニも使ってたな。その後にこのGR1を買って、それからはずっとGR1を持ち歩いていました。
次の写真はまた別のカメラですね。
大学の頃にアパートの近くにカメラ屋さんがあって、店先にペンタックスのスーパーAっていう古い一眼レフが置いてあって、たぶんレンズ込みで5000円ぐらいだったと思うんですけど、それを買いました。
その時は全く使い方がわからなかったんです。シャッタースピードもわからないし、絞りなんてのも知らなかったので、どうやって撮ったらいいかわからなかった。そしたら店主のおじいちゃんが次の週末に来なさいって言うんです。言われた通り行ってみたら初めから教えてくれました。それが写真を習った最初ですね。
そこで絞りっていうのを変えると写真が変わるとかそんな話を聞いて。でもわかんなかったら絞りを8にしておきなさい、と。そうすると、ペンタックスのスーパーAというカメラはそれに合わせてシャッター速度を自動で変えてくれるから、君はシャッター押すだけでいいよ、と。そのカメラで撮ったのがこの男の子ですね。
安藤:トルコだったかな。絞りはたぶん8です、他を知らないから。
安藤:これもそうですね。ペンタックスの一眼レフで撮ってる。
安藤:中東に行ってた時にはずっとそれを持って歩いていて撮ってました。このカメラは旅先で落としたか何かで壊しちゃって、どこかの国で同じようなペンタックスのカメラを買ったんですよ。ボロいやつを。98年とか99年じゃないかなって思います。これは50mmの1.4というレンズが付いていて、すごく良かったです。
コメントもらってますね。イスラエルの情勢について。その頃のイスラエルはいまよりずっと平和でした。テロもなくて、隣のシリア、ヨルダンとの仲も、まあ良くはないけど国境はあいていたので旅行者は行き来できました。僕は宗教に興味があったのでヘブライ大学という学校に行って授業を受けたりしていたんです。
橋田:そんなことできるの?
安藤:ちゃんと申し込んでですよ。そういうの受け入れてもらえるぐらいは平和でした。街で写真を撮っても叱られることはなかったです。
安藤:これはエジプト。ペンタックスのカメラですね。このぐらい暗いと普通だったら絞りの値を小さくするんだけど、それを知らなかったのでずっと絞りは8のままで撮ってました。それぐらい何も知らなかった。
一眼レフより写ルンです
次の写真のインドはこれは写ルンですだと思います。
橋田:誰かに撮ってもらったってことですよね。
安藤:覚えてないんですよね。たぶん初めてインドに行った時なので、友達がいたんだと思います。
橋田:現地の人に頼んだのかと。
安藤:現地で友達になった日本人だと思いますよ。写ルンですでこれだけキレイに撮れる。写ルンですはすごく良くて、一眼レフカメラってあれはすごくキレイに映るし、使いやすいんですけど、僕はなんとなく合わなかったんです。
未だに僕は一眼レフというのがちょっと性に合わなくて、なんでかというと、一眼レフはその名のとおりレンズを通して見てるんです。レンズからの光がそのまま見えてる。そうすると何が起きるかと言うと、ピントがあっていないとぼやけてしまうんです。ぼやけたままだと人はシャッターを押さない。今のカメラはピントが合うとピピッとか言って、合わないとシャッターが押せないやつもありますよね。
でも写ルンですってピントなんかないじゃないですか。あれはピントが固定で絞りが8になってるから、合わせなくてもだいたい写るんです。でも一眼レフだったらボケてたら押さない、押せない。それって撮りたい瞬間を逃してしまう。
橋田:押したい瞬間があるんだ。
安藤:そう。ピントが合ってなくても押していいんですよ、本当は。人間の目でもぶれてる時あるじゃないですか。とにかく押したほうがいい。ピントがあってなくても露出があってなくてもとにかく押すべきときってあって、一眼レフだとそれを逃しちゃうんですよ。
コンパクトカメラとか、僕がずっと使ってるレンジファインダーっていう方式のカメラはファインダーが素通しなんです。これはファインダーに枠しかないからピントが合ってなくても押せる。それがいいんです。ピントが合ってなかろうが露出が合ってなかろうが、押したら撮れるカメラが好きです。ピンぼけでもいんですよ。
橋田:オートフォーカスの性能をカメラメーカーは売りにしますよね。
安藤:絶対にピント合わないとダメってなると同じような写真ばかりになりますよね。あといまだいたいのカメラに手ぶれ補正がついてるんですが、あれもいらない。スマホですら手ぶれ補正がついているんですけど、これだとブレた写真がとれなくなっちゃってるんです。
ブラしたいときってもしかしたらあるかもしれないじゃないですか。たとえば寒くて震えてますとか、目の前にライオンがいて怖くて震えてますとか、手ブレしているほうがリアルだと思いませんか。それは主に報道写真とかスポーツとか、あるいは戦場で撮ってる人とかに限られるかもしれないんですが、一瞬を撮らなきゃだめな人って、とにかくシャッターを切るんです。
そのときのブレに撮った人の気持ちが出たりする。でも今のカメラはブレないんですよ。押せばピントが合うし露出も完璧、手ブレもしない。それはそれで楽でいいんだけど、僕はぜんぶ自分で設定するのが好きで古いカメラをわざわざ使ったりしています。
橋田:それ大変なのでは。
安藤:でも楽といえば楽なんですよ。とにかく押せるから。さっきも言ったけど一眼レフだと押せないんです。僕は写ルンですが好きなのはそういことで、巻けば押せるでしょ。押せば写っているんです。だからいいなと思って。
安藤:コメントに答えなきゃダメですよね。「フィルムのカメラの面白さや楽しみは?」
今言ったみたいな理由もあってレンジファインダーっていう古いタイプのカメラが好きなんです。なんというか、原始的でいいんです。わざわざフィルムで撮るからにはデジタルにはない面白さみたいなものがあるといいですよね。プリントするのも面白いです。
インドのおっさんはかっこいい
安藤:これはインドです。インドのおっさんはどう撮っても映える。あっちから撮られにくるんですよ。
橋田:いい笑顔が多いですね。
安藤:インドではおっさんはポージングしてくるし、子どもは撮ってくれって寄ってきます。インドほどおっさんをかっこよく撮れる国はないと思いますよ。
橋田:安藤さんはおっさんを撮るのが好きなんですよね。
安藤:人を撮るのが好きなんです。インドは人口も多いから人だらけなんです。町のリズムも速い。車はクラクションをバンバン鳴らすし、人も牛ものらいぬもひしめき合っている。そういう独特のリズムが面白いんです。
この時はキャノンの5Dっていう一眼レフを使ってるんですけど、ピントはマニュアルで撮ってます。オートフォーカスはあまり使わない。ピンぼけでもとにかく撮りたい時に撮りたいので。
インドも撮影の許可取りはとくにしてないけど、カメラを構えると撮ってくれて感じで寄ってくるので、それはもう許可だとみなして撮っています。カメラを向けて、ちょっと嫌だなと言う顔をされた時はごめんって片手で合図してすぐにおろします。
橋田:撮らないよって。
安藤:そう。撮っちゃったとしても謝ります。嫌な顔をされた時はごめんごめんって。観光客っぽさを前面にだして謝ります。でもあまりないかな、そういうことは。
橋田:みんなそういうやり方があるんだって、知れてよかったって。
安藤:決まりはないので、けっきょく撮られた人が嫌な気持ちにならなければいいのかなとは思いますね。こっちが偉そうに撮ってると嫌な気持ちになると思うので、できるだけ下手に出て「撮らせてください」っていう姿勢で臨みます。
橋田:そうですね。撮らせてくださいっていう感じの方が感じいいですよね。
安藤:これは電車に乗って遠くまで行くときに隣りに座っていた人で、スリランカからインドに通ってるのか、インドからスリランカに通ってるのか、どっちか忘れちゃったんですけど、どっちかの学校で宗教を学んでる人でした。 いい顔ですよね、かなりかっこいい。
次の写真はゴミ掃除の人たちです。
橋田:これもいいですよね。 みんなこっち見てる。
安藤:インドって道がゴミだらけなんですが、ゴミを片付ける人がちゃんといるので、ゴミがなければ片付ける人の仕事がなくなっちゃうだろう、という文化らしいです。
なので道にはどんどんゴミを捨てていい。捨てることによって仕事が生まれるから。破壊と再生ですよ。町がキレイになったら掃除する人の仕事がなくなっちゃう。
しかもみんな楽しそうなんですね。正面から撮ると目線をくれたりします。この時のカメラはシグマのDP1っていうコンパクトカメラです。これすごく使いにくくていい感じなんですよね。
カメラを買う理由
橋田:カメラってどのタイミングで買うんですか?壊れてないのに買うってことですよね?
安藤:このカメラは特徴的な写り方をするので買いました。
買う理由としては、単純に欲しいからというのがもちろん一番大きいんですけど、そのカメラを使わなないと撮れない写真があるかないかで判断しています。超広角でめちゃめちゃ広く撮れるとか、超望遠で月の凸凹が撮れるとか。シグマは色が特殊なんです。色というか、写り方が生々しくてリアルな感じ。
橋田:写真の写りはカメラによって違うの?
安藤:カメラによって違いますね。だからこのシグマのカメラはすごく使いにくいけどよく使っています。ピント合わせが絶望的にやりにくいし、撮ったデータもでかくて扱いにくい。デジタルなのに現像しなければならないんです。jpgじゃなくてLAWデータってやつで撮るので。すごくめんどくさいんですけど、そのかわりにすごく写りがいいです。
橋田:LAWってデータがでかくないですか?
安藤:でかいですね。1枚何十メガってあります。でも旅行に行くときはシグマをいつも持っていきます。
安藤:これもインドですね。シグマで撮っています。ジャイナ教というインドの宗教の聖地です。
橋田:信仰してなくても行けるんですか?
安藤:観光地みたいになっていて、信者じゃなくても山のてっぺんまで登れます。次はドバイですね。
安藤:ドバイのおっさんもかっこいいです。ドバイのおっさんはインドのおっさんよりもビジネス寄りというか、小ぎれいです。
橋田:スーツ着てる人いますね。
安藤:ビジネス街なのでみんな真面目な顔をしています。高いところから見ると町中が砂で真っ白なんですけど、すぐそこが海なんです。狭いところに密集してビジネス街がある。
モノクロ写真について
安藤:この辺のモノクロ写真はライカですね。
安藤:最初はポジフィルムと言ってスライドフィルムを使ってました。ネガって色が反転してるじゃないですか。スライドフィルムはそのままの色で見られるんです。空は青い。それがすげーと思って撮っていました。
あとネガから写真を焼くときって色の調整はプリンター任せになるんですよ。デジカメもそうで、そもそもjpegにする時にカメラ任せになっていて、レタッチが上手い人とかだと自分でワイトバランスやコントラストなんかを好きに調整するんですけど、僕はそれが苦手でして。
ポジってそのままの色なんで、レタッチしなくていい。細かいこと言うとフィルムによって違うんですけど、ネガよりうそがないかなと思って僕はポジを使ってました。でも難点があって、ポジって高いんですよ。いま1本1500円ぐらいするんじゃないかな。
橋田:それで何十枚しか撮れない。
安藤:36枚ですね。現像も1000円以上するので、一本撮って現像すると3000円ぐらいかかります。昔はもうちょっと安かった気がするんですけど、今そのぐらする。僕は中判っていうでかいフィルムを使っていたのでさらに高い。撮れる枚数も少ない。これは破産するぞと思って、モノクロにしました。
モノクロは安いんですよ。缶に何十メートルもフィルムが入っていて、それを自分で詰めて使うとめちゃくちゃ安い。一本100円とか。現像も自分でやるし、プリントも自分でやるので、とにかくバンバン撮れるんです。苦手な色の調整もしなくていいですし。
橋田:カラーとモノクロはカメラで分けてるんですか?
安藤:なんとなく決めています。旅に行くときはだいたい2台。メインのカメラとわけのわからないカメラを1台持っていく感じですかね。レンズをたくさん持っていって途中で変えたりはしないです。
橋田:同じボディでレンズをいろいろ付け替えてる人もいますよね。
安藤:そういう人のほうが多いと思いますよ。カメラバッグみたいなのを持ってですね。アウトフィットって言って28mm、50mm、75mmか90mmの3本ぐらい持って、加えてズームレンズを1本持っていたり。
そうやっていろんなレンズを持ち歩いてる人が多いんですが、広角で撮りたい日って望遠は使わないんです、結局。僕は望遠使いたい日は90mm1本しか持っていかない。極端です。広角の日はずっと広角。ずっと15mmで撮ってます。
フランスの時はずっと15mmだったのかな。
橋田:質問が来てます。「インスタも拝見させていただいているのですが、日本で写真を撮るときってどういうタイミングで撮ってますか?私もカメラを買ったは良いのですが、なかなか出すタイミングが掴めずホコリをかぶってしまっております…」
安藤:いつもだいたい何かしらのカメラを持ち歩いていますね。コンパクトか、なんか一台カバンに放り込んであります。僕は原稿書くときもカメラ触りながら書いてるんですよ。
橋田:メモってこと?
安藤:精神安定剤です。
橋田:持ってると落ち着く。
安藤:いじりながら書くといいというか、カメラいじりながらじゃないと書けないぐらいに依存してしまっています。だいたい机の上に一台置いておいて書いては触ってを繰り返しています。なので写真を撮るには、すぐ撮れる場所にカメラを置いておくことですかね。
橋田:ネコを膝に置いて撫でるみたいな。
安藤:そうですね。コレクターの人とかってピカピカに磨いてドライケースに入れてしまいこんじゃうんですけど、僕はドライケースって持ってないんです。カメラとかレンズは100台くらいたぶんあるんだけど、無印良品の衣装ケースに乾燥剤といっしょにぶち込んでます。ガシャガシャいいながら探してきて触っています。
実家でも撮っています
橋田:この写真は名古屋ですね。
安藤:名古屋です。うちの父親がボケてからよくライカを持って実家に帰っています。
橋田:さっきもコメントあったんですけど、写真についてるコメントがすごく良かったって。
安藤:ありがとうございます。きっと写真のプロは写真の説明をしないんですよ。僕は写真家じゃなくてライターなので、文章と写真を組み合わせて考えています。
2年前ぐらい前に父がボケて、一時期毎週愛知に行っていたんです。今は施設に入ったのでだいぶ落ち着いたんですけど、家にいると転ぶし、行方不明になるし、母も一人じゃ何もできなかったので、これはまずいぞと思ってちょくちょく帰っては写真を撮っていました。実はその後コロナ騒ぎで施設が面会できなくなってしまったんですが。
安藤:父は写真を撮られることがすごく嫌いだったんです。ボケるまでは撮らせてもらったことはたぶんない。何かの記念写真とか、並んで家族写真とかはあるんですけど、父の単独の写真ってあまり見たことがないです。
ボケてからはわかってないみたいなので正面から撮っても嫌な顔しなくなりました。僕が誰なのかももはやわかっていないと思います。だから元気なうちは、というか、すでに元気じゃないですけど、とりあえずずっと撮っていこうかなと思ってますね。
あまりこういうプライベートの写真って出したことなかったんですけど、クローズドのイベントなのでいいかなと思って出してます。実はものすごい数撮ってるんですよ。
橋田:ご自宅に行くときもカメラを持っていって。
安藤:一台は必ず持って行きますね。ずっと父ばかり撮ってます。だから父も慣れちゃったのかもしれないですね。コメントに何枚ぐらい撮るんですかってありましたけど、数えてないですね、すごく撮ります。
フィルムだと本数が決まってるじゃないですか。今日はフィルム5本しか持ってないからペースを落とそうとか、2泊の旅行なら10本持っていこう、とかあったんですが、デジタルってほぼ無制限じゃないですか。せっかくだからと思ってものすごい数撮ってます。
あと自転車が好きなので自転車の写真をよく撮っています。自転車というか自転車の人が。車って、ほら車の写真撮る人は専門でいるんですけど、自転車は人がむき出しだから好きなのかもしれない。表情が見えるのがいいですね。
橋田:人が好きなんでしょうね。
安藤:人が好きですね。人が写ってるのがいいですね。中国も人だらけで、中国とインドはとにかく人がいっぱいなんだけど、大きな違いは中国の人はポーズを取らないんです。
写真を撮っても嫌な顔はしないけど、無視されます。だから目線もとくにくれないし、おれのこと撮ってくれ!っていうインドみたいな熱意もない。だから撮りやすいけど、インドとはまた別ですね。
安藤:いただいたコメントで拾えてないのがあったりとか、質問とかきてますか?
橋田:感想というか、写真を撮るリズムの話がなるほどねってみんな言ってますね。
安藤:リズムね。絶対じゃないと思うんですけど、やってもらうとわかると思います。街ってリズムがあるんですよ。たとえば東京のリズムは速いけど田舎に行くとのんびりしている、とか。田舎ってクラシック音楽みたいな気がしませんか?
橋田:安藤さんが沖縄から東京に来た時にも言ってた気がしますね。
安藤:歩いている時のリズムとそれに合う音楽っていうかリズムがあると思うんですよ。うまく合わせて口に出して、それに合わせて撮ると町と写真のリズムが一致してきますよ。技術じゃないですね、もうこれは。
僕はどちらかというと技術はないと思います。例えばきれいな景色をきれいに撮る人とか、鳥をすごくきれいに撮る人とかいるじゃないですか。飛行機をめちゃくちゃキレイに撮る人とか。ああいう技術が僕にはないんですよ。そんな機材も持ってないし。何に近いんですかね。ドキュメンタリー、報道とかかもしれないですね。
空気が伝わる写真が撮りたい
橋田:どんな写真が撮りたい、とかありますか。
安藤:場の感じを、空気感が伝わる写真ですね。僕はライターの江ノ島くんを撮るのが好きなんですけど、江ノ島のライフスタイルごと撮りたいんです。
橋田:へえ。江ノ島くんはそんなこと思ってないだろうね。
安藤:思ってないでしょうね。僕の自己満足が半分以上入ってます。はい撮りますよーって言って、ピタッてカメラ目線じゃなくて、「うわー、うま!うまいですね!あち!」みたいな場の空気ごと撮りたい。
橋田:取材のときもそういうふうにしてるってことですか?
安藤:取材のときもリズムは気にしてますよ。でも取材は作品撮りとはまた違うから、どうですかね。でも数はすごくたくさん撮ります。
橋田:あとで選ぶってこと?
安藤:めちゃくちゃ選びますね。ライターの取材に撮影同行で行ってもいらん写真ばかりいっぱい撮っちゃうから選んで送るのがたいへんです。そのまま送っちゃうこともあるな。
橋田:それを聞いて、江ノ島くんがぶれてるような写真は思い浮かぶ。そういうことだよね。
安藤:多少ブレてる方が美味そうに食べてるようにに見えますよね。でも一口にブレっていっても被写体のブレと撮影者のブレがあって、つまり江ノ島が美味すぎてひっくり返ってぶれてる場合と、僕が笑いながら撮っちゃってブレてる場合がある。
写真を見るときにそういうのを考えながら見ると面白くて、たとえばワニを怖がって撮ってる人と、かわいいと思って撮ってる人だと写真が違ってくるんですよ。この人もうあと一歩つっこみたかったけど、怖くて近づけなかったんだろうな、とか。写真からカメラマンの意図が見えたりしますね。
橋田:そういうところを写真展で見たらいいんですね。
安藤:いろんな見方があると思いますよ。プリントがめちゃくちゃキレイとか。
記事もそうやって見ると、地主くんの写真っていつもわかるし。大北くんもわかるかな。大山さんは絶対にわかる。撮った人がわかる。林さんもわかる気がするな。いいカメラ使ってるかはもちろんわかるし、撮り手の意図がなんとなくわかる。藤原くんの写真もきれいだからわかる気がするよ。藤原くんは無意味に背景をぼかすんだよね。最近いいカメラ買ったから。
藤原:買いました。
安藤:だからひとつの楽しみ方として、記事の写真を注意してみてみるのも面白いんじゃないですかね。
写真撮るので声かけてください
橋田:今回の写真展はトライアル的な感じで安藤さんにやってもらって、いつか他の人もっていう話でしたよね。
安藤:そうですね、地主くんがやりたがってたのでやってもらいましょう。僕もまたやりますよ。写真いっぱいあるので。定期的にやりたいですね。
橋田:いいですね。1時間を延びちゃってるんですけど見てる人がどんどん増えてきてますよ。
安藤:ありがとうございます。写真撮るの好きなので、皆さんの写真撮りますので気軽に声かけてください。撮りに行きますよ。
橋田:前も言ってましたよね。
安藤:このあいだも友達の子どもが七五三だというので撮りに行きました。結婚式でもなんでも、呼んでくれたら撮りに行くので。
橋田:歩いてるときに撮ってって言われたら。
安藤:もちろん撮りますよ。たぶんいつでもカメラ持ってるから。
橋田:という感じですが。言い残したことは。
安藤:写真展のFacebookのイベントページは今後も残るので、何かあればここにまたコメントください。写真展に限らず変なイベントをまたやりましょう。ありがとうございました!
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