とんぶり、という食べ物がある。
とんぶりは秋田の名産品だ。小さな頃からとんぶりを食べて育った私は、その別名が「畑のキャビア」だと聞かされた時、あまりの大袈裟っぷりに「そんなこと言って大丈夫か」と心配になったものだ。
…だって、とんぶりの正体は「ホウキ草」という、その辺に生えている雑草の実なのだ。そう、その辺に生えている…ってことは、きっと東京にだって生えているに違いない。
というわけで、探して作ってみることにしました
(高瀬 克子)
まずは本物を食べよう
食べ物にはそれぞれキャッチコピー(?)が付いている。大豆の場合は「畑の肉」だし、アボカドは「森のバター」だ。栄養的も本家に負けない優れた食物だけに「看板に偽りなし」な名コピーだと思う。
しかし、とんぶりの場合は「畑のキャビア」だ。本家と似ているのは、黒いツブツブの集合体という外見のみ。
むかし私が感じた不安は、大人になった今も消えることがない。第一例えるものが高級すぎる。春雨を「陸のフカヒレ」と呼ぶか?(呼ぶ必要がないほどメジャーな食べ物ということはさておき)
ホウキ草は江戸時代、葉の部分を漢方として食べていたらしいが、主な使用方法は食用ではなく「ホウキとして」だったらしい。 そして飢饉のあった頃、秋田で「実も食べられるのではないか」と、加工し始めたのが、とんぶりの最初だったと言われている。
なるほど。そういう歴史を知ると、ちょっと見る目が変わってくる。厳しい環境を克服しての「キャビア」だ。ちょっと大目に見たい。
久し振りに食べたが、プチプチとした食感が楽しい。ときどき歯の間に挟まっていた粒が遅れてプチッといったりして、その時間差も含めて楽しい。味はほとんどないに等しく、極めて淡泊だ。…ああ、懐かしい。まさに故郷の味。
今回はこれを、買うのではなく手作りしようというのだ。故郷の味を自作。ああ、わくわくする。
…さて、ホウキ草は一体、どこへ行けば見つかるのだろう。
約束の地へ
時は先週にさかのぼる。バーベキューをしに多摩川の河原へと出掛けた時のことだった。
ビールをたらふく飲んで尿意を催し、ほろ酔い気分でトイレへと歩きながら、何気なく雑草鑑賞をしていた。
その時、土手でホウキ草っぽい物を見た。確かに見た。見たと思う。たぶん見た。…見たんじゃないかしら。
よしんば、あれがホウキ草じゃなかったとしても「雑草なら他にも生えているさ、ダメなら別の場所を回ろう」と気を大きくして多摩川へと向かった。果たして見つかるのでしょうか。