16ゲームを消化して、300犠打を突破した。 自打球(打った球が自分に当る事)を3回ほどくらい、足が痛い。 バントの衝撃で金属バットを支える右手も痛い。
「開始から2時間でようやく折り返しか……」 プリペイドカードはあと3枚も残っている。
疲労がたまり肩を落としていると、右隣りに男子高校生のグループがやって来た。下校途中に寄ったのだろう。ジャンケンでバッティングの順番を決めている。
高校生たちは若さに任せ、バットをブンブン振り回す。 元ヤクルト池山選手のあだ名はブンブン丸だった。思いきり良くバットを振り回す姿が印象的で、そう呼ばれていた。故障に悩まされ引退したが、痛む足を引きずりながらも、最後の最後まで強振する姿にファンは涙した。川相選手とは対極な、強振一本やりの野球人生だ。
そして高校生たちは、10分もしないうちにバッティングに飽きてしまい、ボクシングゲームを始める。
今の彼らに犠打の心を説こうとは思わない。思いっきり振り回す事が重要な時期だってある。 それでも、いつかは気付いて欲しい。 クリーンヒットだけが人生じゃない、時には「送る」事も必要なのだ、と。
高校生たちが帰っていき、スタジアム内を再び静寂が支配する。 ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ……。 勢いを殺された打球の音だけが響き、かえってそれが静寂を際立たせる。
ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ……。 残り100個という頃になり、僕は完全にバントマシンと化していた。 時には一塁線ギリギリを狙い、時には逆をついて三塁線。あらゆる状況を想定しながら適確なバントを繰り出していく。
「えー、本当ですか?」 背後から今回の取材に同行していた女性スタッフの声が聞こえる。
「ええ、ここの線の数で結婚運が分るんですよ」 林さんが女性スタッフの手相を見ている。
「他にはどんな事が分るんですか?」 「いやー、色々分りますよ。健康運とか仕事運とか」 「凄いですねー」 「いえいえ」
いや、照れてる場合ではなく、いよいよ残り100を切りました。