タナベ「カメラって普通は今を写すでしょ」
スミ「まあ、そうだね」
タナベ「でも、このカメラは未来を写しているんだ」
スミ「……？」
タナベ「つまり、197０年代からみた「今」は未来っていう事なんだけど」
スミ「……？」
タナベ「カメラから見た未来って意味なんだけど_」
スミ「う、うん」

タナベ「このカメラのレンズは116ミリでF値は8。決して明るいレンズではない。専用のフィルムも感度150だから、こちらも通常のフィルムよりも暗い。だけど、その分きめが細かいんだ」
スミ「ってことは、撮影するには相当光量が必要なんじゃない？」
タナベ「うん。その通り」
スミ「室内とかだったら、照明たかないと駄目でしょ？」
タナベ「照明？」

田辺君の目が光る。

タナベ「じゃーん！このカメラにはフラッシュも付けられまーす」

タナベ「フラッシュにもいくつか種類があるんだけど、まずはこれ。1回燃え尽き型のフラッシュバー」
スミ「燃え尽き型？」
タナベ「そう。昔の映画でローマの休日とか思い出してみて。フラッシュたく度にボッって燃え尽きるタイプのフラッシュあったでしょ。あれと同じ」
スミ「ああ、何か分る」
タナベ「これには表裏で10個のランプがついていて、それぞれ1回ずつでお役目が終わるんだ」
スミ「うん」
タナベ「まさに完全燃焼だよね、高校球児だね」
スミ「……？」

タナベ「こっちは単3電池式のUNOMAT SFX-70ね」
スミ「それは燃え尽きタイプじゃないの？」
タナベ「ううん。燃え尽きない。これは単三電池でずっと使えるんだ」
スミ「なるほど」

タナベ「さっきのフラッシュバーとこれだと光りの感じがそれぞれ違うんだよね」

いきなり部屋の電気を消す田辺君。

スミ「えっ？どうしたの」
タナベ「うん。今からそれぞれのフラッシュを使ってスミを撮影するから、仕上がりの違いを見てよ」

UNOMATとフラッシュバー、それぞれ付け替えて僕を撮影する田辺君。
フラッシュバーの方が光量が強く、眩しさで目が眩む。部屋の電気をつけ、目をしばしばさせている間に、ボラロイド写真が徐々に浮かび上がってくる。

タナベ「ね、それぞれ仕上がりが違うでしょ」
スミ「……うん」
タナベ「後ろの壁の光りの届き方とか」
スミ「……うん」
タナベ「俺は断然、フラッシュバーの儚い感じが好きなんだな、燃え尽きるみたいな。光もいいよね、暖かい感じ」
スミ「ああ、じゃあUNOMATの方は使わないんだ？」
タナベ「フラッシュバーは小さいから携帯にも便利だし、本当にいいよ」
スミ「これはいくらするの？」
タナベ「10回光って1000円」
スミ「へぇー、1回100円かあ。高いな。」
タナベ「だから、普段はUNOMATを使う様にしている」
スミ「え？」