タナベ「カメラって心の眼だと思うんだよね」 スミ「……?」 タナベ「写真を撮ろうと思った瞬間の自分の心が写るんだよ。その時に心が動いてなければいい写真は出来ない。写真の面白さはそこにあると思う。その被写体を撮ろうと思ってレンズを向けた自分、そのアングル、瞬間を選んだ自分が写るよね。その人なりの心が、それが面白いよね。常識にとらわれない価値観みたいな」
タナベ「で、自分の思い描いていたイメージと仕上がり結果の間にギャップがあるとがっかりするよね」 スミ「う、うん。がっかりだね」 タナベ「そこで、このSX-70は俺にとってそのギャップが少ないカメラなんだ」 スミ「イメージ通りのものが撮影出来る?」 タナベ「うん。このカメラの開発コードネーム、知ってる?」 スミ「いや」 タナベ「アラジン、って言うんだ。撮る人の気持ちが写りやすいからアラジンの魔法のカメラ」 スミ「へぇー」 タナベ「ウソ。本当は、写真が浮かび上がってくる技術自体が当時は魔法っぽかったかららしいんだけど」 スミ「ああ……」
タナベ「釣りキチ三平が言ってるよね」 スミ「えっ?」 タナベ「釣りは魚が教えてくれる」 スミ「……」 タナベ「おらの師匠は今まで釣ってきた魚たち、習うより慣れろってことだべ」 スミ「だべ?」 タナベ「そういう事だと思うんだ」 スミ「えっ?」 タナベ「つまり写真が教えてくれる。と」 タナベ「釣りキチ三平が習うより慣れろ、って言っているのは謙遜も入ってると思う。だって、彼は努力もしてるからね。」 スミ「努力?」 タナベ「ここからは俺の天才論になっちゃうんだけど。1から10まで努力して、その次に30、40に行ける人が天才なのよ。で、凡人っていうのは10まで努力して、その次が11とか12なんだよね」 スミ「11、12?」 タナベ「天才が9までしか努力しなくて、凡人が10まで努力したら天才は凡人に負ける。でも天才が10まで努力したら、そこからは飛躍的に伸びる。つまり、何かを伝えるためには誰しも10までの努力っていうものが必要なんだよ。凡人でも20までがんばれば秀才と呼んでもいいんじゃないかな」 スミ「……うん」 タナベ「っていう事を三平は言ってるんだよね」
彼はなんで釣りキチ三平の話を熱く(暑く)語っているのだろうか? 本番前の楽屋にお邪魔した主旨をすっかり忘れ、釣りキチ三平語録を聞かされている。
タナベ「10までの努力の中には道具を揃える、って事も含まれると思うんだ。イメージを具現化させるには技術と機材が必要だからね」
タナベ「じゃーん!そこでこの自作キットでーす」
ん?自作キット?