公園へ
アパートの下におりて空を見上げる。
追いかけるなら街の中が楽しいだろうなとは思ったのだが、電線があったり、交通があったり、もちろん家々があったりして、遊ぶにはいろいろと危険だし迷惑だ。 というわけで、あまり人のいない公園に移動することに。
ところで風船につける写真だが、本気度をさらに増すため裏面に、
これで新しい韓流スターと勘違いされる心配もなくなり、より一層、他人に拾われたら困るものになった。
さて、ここで風船から手をはなすわけだが、はっきりってサイン入りのポーズキメキメ結婚写真を間違っても遠いお空に飛ばすわけにはいかない。それゆえぼくは、卑怯ではあるのだが、自宅にいるうちに、写真をぶらさげた場合にはその重さで風船がたいして浮上しないということを実は確認しておいた。そう、確認しておいたはずだった。
余裕である。なんなんだそのおどけたポーズは。そしてこのあとぼくはカメラを持った妻に、 うっかり飛んでいっちゃいそうになった風船をジャンプでつかまえて「危ね〜」っていう感じのシーンを撮りたいから。 と頼んで、手をはなした。そうしたら、
自分のジャンプ力の無さをみくびっていた。そして、あんまり浮かばないはずの風船は、風にあおられグングン上昇していった。 そう、室内と屋外はぜんぜんちがうのだ。陸上競技の室内参考記録とか、そういうものの意味がこの瞬間にすべて理解できた。
山のほうへ飛んでいく風船。どうしたらいいのかわからない。追いかけるという記事の主旨を忘れてしばらく茫然と眺めていたぼく。アッと慌てて駆けだした。
そう、冗談じゃない。恥ずかしいポーズでしかもサイン入りなのだ。 川の対岸で自動車の中から釣り人を眺めていたおじさんの視線も、今や赤い風船に釘づけである。
ぼーっと眺めていたうちに風船はかなり小さくなってしまっていた。ヤバい、人の脚では追いつけないかも。車だ、車で追跡しよう。 風船を追いかけるために自動車を出動させる。子供時代とは追跡のスケールがちがうのだよスケールが、ふははふはふ。
顔をひきつらせて笑いながらエンジンをかけたものの、時すでに遅し。 ぼくの目にうつったものは、
動揺
とりあえず車を走らせ風船が消えた方向へと向かってみたが、びっくりするほど全然みつけられない。成層圏とかまでいってしまったのではなかろうか。
風船はあっさり飛んでいった。ぼくの恥ずかしい写真をのせて。 ヘリウムガスの前にはたとえ大人であっても無力だということがはっきりした。甘くみすぎていたのだ。相手は故フランク永井の低音さえもおびやかしたという、あのヘリウムである。
歌っている場合ではない。 もはやあの写真を回収することが叶わない以上、ここは気持ちを切りかえて企画を進めなくては。