受賞の挨拶を考える
そろそろ6時になるが、まだ連絡は入らない。携帯電話でニュースをチェックしても、まだ発表されていないようだ。選考が難航しているのかもしれない。「北官能」の部分でもめているのだろうか。官能小説が芥川賞を獲った前例は恐らくない。でも、「アリスの花」は官能小説ではなく、あくまでも北官能小説である。
ネガティブな発想はやめて、受賞した際の言葉を考えたりする。
本来なら「作品に込めた想い」みたいな事を語るべきなのだろうが、正直、想いなんてないのだ。林さんから500字で小説を書くように言われたから10分で書いた。経緯はそれしかない。しかし、そんな事言える訳がない。ぼんやりした表現で逃げよう。
例えば、「アリスはあなたであり、あなたでない」とかはどうだろう?
アリスはあなたであり、あなたでない…、 それに続く言葉を考えていると、
林さんの前にポテトフライが届いた。いつの間に頼んでいたのだろう?
「お腹が空いちゃったんで、頼んどきました」
差し入れである。
そうか、こういう時は何かをつまみながら待つのがいいのだ。空腹だとお互いイライラしてしまう。
新しい文体の提案
6時半を過ぎても林さんの携帯は鳴らない。 暇を持て余した林さんが、最近読んだという携帯小説を見せてくれた。
「あたし彼女」という携帯小説で、こういう文体のまま400ページくらい続くらしい。
「住さんも次回作は、こういう風にしてみたらどうですか?」
アタシ
スミ
来年で
40才
もう
オッサン
みたいな
てか
アタシが
欲しいの
芥川賞
これで
獲れる?
たぶん
ムリ
行数は稼げるが、この文体で芥川賞を獲れる気がしない。 石原慎太郎さんに怒られそうだ。
慎太郎
怒る?
それは
怖いから
いや
この文体
限界?
と、その時!
林さんの
携帯が
鳴った!