●人んちうどん地帯・富士吉田
続いて訪れたのは、富士山もその姿が大きく見える、山梨県・富士吉田市。
稲作には向かない気候であること、富士山麓で水がおいしいことなどから、この地ではうどんを食べる文化が発展してきたらしい。人口に比べてかなりの数のうどん屋があると言われているようだ。
さらには、改まった店としての構えを持たず、ほとんど民家のままにうどんを出す店が多いらしい。人んちうどんの聖地とも言えよう。
そんなわけで、まずやってきたのはこの店。
だいぶ人んちスタイルのうどん屋にも慣れてきて、いちいち不安になることはなくなってきた。明らかに家だが、うどん屋なのでもあろう。
実はこの「のぶ」という店、建物は本格的に民家だが、壁にしっかりとうどん屋であることを表示してくれている。そういう意味では不安なくうどん屋として入っていくことができる。
だからと言ってそれは、人んちっぽさを損なうわけではない。玄関まで行けば、そこはやっぱり人んちだからだ。
食事をする部屋も、やっぱり人んちだ。テレビや窓際の置物、鉢植えなどが渾然一体となって人んちをかもし出してくる。いくつか置かれたポットや割り箸立てが店っぽさを主張しているようでもあるが、人んち感には追いつかない。
タッパーに入っている漬物類は自由に食べてよいとのこと。店としてのサービスも、人んちルールを垣間見たように感じられてくる。
キャベツを添えて出てくるのが富士吉田のうどんの特徴であるらしい。うどんそのものはかなり歯ごたえがあるタイプ。のどごしを楽しむというよりも、噛んだ感触と味わいで勝負するうどんのようだ。
そういうわけで、一生懸命食べる。うーん、うまい。そして、食べ終わったら眠たくなってしまった。
人んちっぽさも眠気を誘う。このまま後ろに倒れて寝てしまえば気持ちいいだろうなあと思う。いや、あくまで店だと自分の理性が言うのに従い、次の店を目指そう。
続いての店、建物もさすがに民家だが、これくらいで驚かない自分になっていることに気がついた。いろいろとめぐってきた中で、人んちっぽさに耐性がついてきているのだ。
しかし、これまでの店と違うのは、のれんや看板がない点だ。はっきりうどん屋と名乗るものは目につかない。
それでも玄関の雰囲気で、この「白須うどん」が人気店だということはよくわかる。たくさん並んだ靴は寄り合いでも始まっているかのようだ。
中に入っても人んち度爆発。広間の雰囲気からしてそうなのだが、掛け軸や習字、日本人形といった各種アイテムたちがどんどん人んち感をヒートアップさせる。
個人的にこんな感じの親戚の家があったわけではないが、ここは誰にとっても親戚の家ではないだろうか。
親戚系の人んちどあふれる中、うどんをいただく。先ほど店よりもさらに強い歯ごたえがあるうどんだ。キャベツといっしょにもりもりいただく。
あたたかいのもおいしかった。うっかりしすぎくらいのくつろぎ感。人んちっぽさは、うどんのおいしさにも寄与しているような気がする。
どの店もおいしく、そして人んちだったうどん屋めぐり。うどんという食べ物のもつ雰囲気とつながっている部分もあるのだろう。
外食なのに外食ではない気がするというのが新鮮な食べ歩きでした。