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ちしきの金曜日
 
廃村に泊まる

火起こしにチャレンジ

持ってきた薪をかまどの側に起き、私は風呂の火起こしにかかった。 ボイラーの中に薪を組み、新聞紙に火を付け中へ入れる。


どれどれ…… お、火がついた!いい感じだ!
ちりとりをウチワ代わりに風を送る ……って、アレ?消えちゃった

う〜ん、なぜだろう。うまくいかない。 最初はうまい感じに燃えてくれていたのだが、 その後10分も経たずに火は消えてしまった。

再度試してみるものの、やっぱり途中で消えてしまう。 なかなか大きな薪に火が移ってくれないのだ。 たとえ薪に火が移ったとしても、一部が焼けただけで鎮火してしまう。 ……困った。

だが、これしきのことで諦めるワケにはいかない。 諦めたらそこで試合は終了だ、と三度目のチャレンジ。 しかし、やはり結果は同じであった。

この薪、シケってるんじゃないか? ……いやいや、私の腕が悪いだけだろう。

このままではラチが明かないので、 まずはボイラーではなく炊事用のかまどで火を起こしてみることにした。 内部が狭いボイラーよりも、かまどの方が難易度低そうに思えたのだ。


今度こそ! 竹筒で空気を送る
が、やっぱりまた消えた ……もう、諦めよう。試合は終了だ

いくら粘っても火がつけられなかった私は、 しょうがなく水を含ませたタオルで体を拭いた。 夏とはいえ、ここは標高の高い山間部。 水風呂を浴びるには少々水が冷たすぎる。

切なさをかみ締めながら背中をごしごしとやっていたその時、 どこからともなく子どもの声が聞こえてきた。 正直、びっくりした。こんな山の中で子どもの声が聞こえるなんて。

まさか、それは昔この付近で亡くなった子どもの……

「あー中に誰かいるよー!」

驚きのあまり声が出そうになった。 恐る恐る振り返ると、戸の外には小学生らしい子どもがいた。

「ほらほら、静かに。迷惑でしょ。二人ずつ順番に行くよー」
「この先行くのー?怖いよぉー」

どうやらそれは、ボーイスカウトか何かの子どもたちのようであった。 夜のレクリエーションとして肝試しでもをやっているのだろう。 この近くにキャンプ場か何かあるのだろうか。

「嫌だぁ〜!怖い〜!行きたくないよぉ〜」
「じゃぁ、ここで待ってる?」
「それも嫌だぁ〜!」

子どもって面白いなぁと思いながら、私は夕食を準備に入った。


さぁ、夕食だ

残念ながら火は無いので炊事はできない。 しかし、心配には及ばない。 こんなこともあろうかと、私はあらかじめ夕食を用意してきていたのだ。


これ以上のご馳走をあなたは作れますか?

うん、これはうまそうだ。 ワカメのふりかけご飯にサンマの蒲焼、イワシの生姜煮。 冷酒に焼酎、そしてデザートには白桃。 まさか、こんな山の中でこれほどのご馳走にありつけるとは。 準備はしておくものだ。すばらしい。

それでは、いただきます!


わびしくなんかなーいモン さみしくなんかなーいモン

なーいモン

……モン

 

冷たい清水で顔を洗う
学校跡にはテントがちらほら

朝の大平を散歩してみよう

さて、朝になった。

夜はかなり冷え込んでいた。 持ってきた衣類をすべて着込んでもなお寒さを感じるほどであった。 申込書に書かれた注意事項として「寝袋は持参」とあったが、 別に夏は必要ないだろうと思い私は寝袋を持ってこなかったのだ。 しかしそれが間違いだった。

また、夜中はたびたびスコールのような雨が降った。 一時的にザーと降って、ぴたりと止む。 そんな雨が何度か繰り返され、その度に私は起こされた。 おかげで寝不足である。

集落の中を流れる冷たい清水で顔を洗った私は、 せっかくなので周囲を散歩してみることにした。 朝霧がかかる静かな集落を、テクテクと歩いていく。

ふと、国道沿いにやや大きめの木造建築があるのに気がついた。 門を見る限り、どうやらそれは学校であるようだ。

その学校の校庭には、いくつかのテントが張ってあるのが見えた。 なるほど、どうやらこれは、昨晩私の家屋の前を通っていった ボーイスカウトたちのテントであるらしい。 ここにキャンプを張っていたのだ。

 

八丁屋の奥は林の中へ続いている
その先には見たことないくらいワイルドな橋が

子どもたちが怖がっていた八丁屋の奥へ

そういえば、昨晩のボーイスカウトたちは、 私の八丁屋を通り過ぎそのまま集落奥へと消えていった。 私はまだそちらの方へ行ったことがない。

その先には一体何があるのだろう。 気になった私は、ふらふらとそちらへ足を進めて行った。

八丁屋からさらに奥へ進む道は、鬱蒼とした林の中へ伸びている。 確かにここは、夜子どもが歩くには辛い道だろう。 進むのを嫌がっていた子どもの気持ちも分かる。

というか、実は私もちょっと腰が引けている。ちょっとだけ、だが。

気合を入れて林を進んで行くと、突如視界が開けて目の前に橋が現れた。 それは、集落に平行して流れる沢を渡るための橋であった。

その橋は得も言われぬような異様さを放っていた。

コンクリートの橋の上は、草がもっさりと生い茂っていた。 いや、草どころか木まで生えてる。膝ぐらいの高さの木が。 これはかなり衝撃的な光景だ。

 

階段の上には……鳥居
ひっそり立つ神社の拝殿

大平の氏神神社

橋を渡りさらに進むと、古びた細い石階段が見えた。 木立に囲まれた薄暗いその階段の上には鳥居が見える。 その鳥居はまるで私を見下ろしているかのようだ。

神社か……少々おっかないが、やはりここはお参りしておくべきだろう。

意を決した私は、苔むして滑りやすくなった階段を一歩一歩踏みしめ上がっていく。 鳥居をくぐってさらに湿気の多い山道を歩いていくと、 その先にはこれまた古びた神社の建物が見えた。

しかし、この神社の拝殿……戸が開いてる!

人気が無く、薄暗いその神社は非常に不気味極まりない。 ぽっかりと開いた拝殿の入口からは、わずかながら奥の本殿が見えていたる。 しかし、それ以外は暗くてよく見えない。

しょ、正直……ちょっと……いや、かなり怖い!

私は急いでお参りを済ませ、そのまま後ずさり逃げるように階段を下りていった。 後ろを向いた瞬間、あの拝殿の中からナタとか持った化け物が現れ、 襲い掛かってくるような気がした。

馬鹿げているかもしれないが、そこには確かにそんな雰囲気があったのだ。 あー怖かった。

それは人々の愛ゆえ残った町並みだった

大平宿は無住の廃村とはいえ、決して廃棄された村などではなかった。 大平宿を大事に思う方々の努力によって、今に残された文化財なのである。

一つ誤解してもらいたくないのは、 大平宿は決して旅館やバンガローなどといったレジャー施設ではないということだ。 あくまで原始生活の体験、学習の場という位置付けなのである。

大平宿の「利用しながら保存する」という保存手法は、とても画期的だと私は思う。 これからも末永く、この素晴らしい村を残していってもらいたいものだ。

当然、家屋はしっかり掃除してから返す

 
 
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