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はっけんの水曜日
 
おしえて、おじいさん

■まためげそうになるが


一人で座ってるおじいさんは割と見つかります(イメージ写真)。

 頑張ろうと思ったのだがやはり厳しい。無言で断られたりが続いた。でもAさんとの会話ですっかり僕は「開いて」しまったので全然へっちゃらだった。そして何人目かに声を掛けたMさんが話をしても良いと言ってくれた。

「こんにちは、ライターの(以下同文」

「でも何を話したらいいの?」

「ありがとうございます!!例えばこれまでの人生で思ったことや仕事で大変だったこと、あと今の日本に対して思うことなどを話していただけたら助かります。」

 

■日本は平和な良い国だよ

「日本はね、良い国だと思うよ。第一、平和でしょ。上を見たら判らないけどさ、食べ物にも困らないし戦争も無いし、欲を言い出したらキリが無いじゃない。」

Aさんもそうだったけど、Mさんも日本に満足しているらしい。

「確かに平和って凄いことですよね。」

「そうだよ、平和が第一だよ。その点、日本は良い国だよ。」

「そういえば石原知事が再選しましたが、どう思われますか?」

「どうもこうも、対抗馬がいないでしょ。慎太郎以外に選びようがないんだもの。慎太郎はさ、初志貫徹で頑固な所は好きだな。でも最近肌のつやも良くないし、おかしくなってきてるんじゃないの?言うことも変になってるよ。」

「都知事って命を削るほどに大変なのかも知れませんね。石原さんの兄弟って昔から人気あるんですよね?」


上野の寛永寺にいた猫 その2。

 

■石原兄弟について

「そうなんだよ。慎太郎の『太陽の季節』は衝撃的だったなぁ。当時中学生だったけど、映画は18禁で見られなかったもの。今見ると大したことないんだけど。」

「アレですね、陰茎で障子を破るっていう。」

「そうそう。石原兄弟は弟の裕次郎も凄い人気でさ。死ぬ前は太っちゃってあんまり好きじゃなかったんだけど、若かった頃はエライ男前で大人気だったんだよ。身長もあって、180cmだもの。当時としては珍しいよ。裕次郎は凄かった。凄い人気だった。」

「180cmっていったら今でも大きいですよね。」

「そうだよ。大きいよ。昔は俳優って言ったって身長は大して高くなかったわけ。あんまり大きいと他の俳優と釣り合わなくなるから。でも裕次郎は大きかった。裕次郎からだろうね、身長高いのが俳優になったのって。」

「なるほど。」


寛永寺の八重桜。満開で奇麗でした。


■最近の高校生は背が低い?

「身長って言えばさ、最近の高校生は背が低くなってると思うんだよな。気付かない?」

「低く、ですか?」

「そうなんだよ。10年くらい前は高校生の身長が大きくなった感じがして、このままだとどこまで行くんだろうって思ってたんだけど、ここ最近は小さくなった感じがするんだよな。」

「へぇー!そうですか!全然気にしてませんでした。」

「これからは気にしてみると良いよ。小さくなってるよ。これがアジア人の限界なのかも知れないね。半世紀前に戻ったみたいに小さいのばっかりいるよ。」

 この説には驚いた。身長だけじゃなくて体全体が細くなったのかも知れないが、若い人の身長が低くなっているという観察は面白い。これからは気にしてみてみようと思う。

 

■昔の食べ物事情は酷かった

「昔の中高生は体が小さかったよ。食べ物がないからみんなガリガリでアバラが浮いてたし。栄養が無いと鼻水が出るみたいで、子供なんてみんな袖がテカテカ光ってたよ。服だってそんなに持ってないし毎日洗わないから。みんな袖がテカテカ。」

「テカテカ!食糧難についてもう少し聞かせて下さい。」

「戦中戦後は本当に無かったよ。そこらじゅうの山、東京中の山を開墾して芋を育ててたよ。この辺(上野公園)でもイモ育ててたんじゃないかな。米も無いからイモとか大根、麦で量を増やして炊いたんだよ。とにかく量を増やすのが大事だった。」

「昔はそうやって、食べ物に困ってた時代だから。肉なんて全然食べたことなかったよ。だから肉を食べるっていう習慣がない。今でも肉はあんまり食べないよ。小さい頃の食習慣ってずっと影響するよね。教育でもなんでも、小さい頃身につける物は大事だと思うよ。」

 小さい頃の食生活や教育は大事だと力説するMさん。そうですね、とうなずく僕。会話が楽しい。知らない人の話を聞くのがこんなに楽しいとは思わなかった。

 

■肉に命を取られる

「肉とか脂っぽい食べ物は体にも良くないと思うね。私が知ってるだけで何人も大腸ガンで亡くなったけど、みんな肉が好きだった。中華料理とか脂っぽい物も好きだったんだよ。農耕民族なんだから、体にあった食べ物を食べなきゃダメだよ。」

「そうですね。やはり和食がいいですか」

「そう、和食が良いよ。伝統的な食べ物が体に合ってると思う。育ち盛りの頃は肉を食べて体を作るのも良いけど、体が出来たら肉や脂は控えた方が良いよ。『肉に命を取られる』よ。」

「それ良い言葉ですね。」

 

■まんじゅう食うか?

「あ、腹減ってない?まんじゅう食べる?」

「え、まんじゅうですか?」

「谷中通ってきたんだけど、谷中の商店街にまんじゅうで有名な店があるんだよ。そこで20個買ってきて、この周りにいた子供とかにあげたんだけど、まだあるから良かったら食べなよ。」

「ありがとうございます。折角ですからいただきます。」


右下に写ってるのがMさんの手。左のは僕の手。

Mさんは横に止めてあった自転車のカゴからビニール袋を取り出すと、小さなまんじゅうを僕にくれた。

「これが1個10円でさ。遠慮しちゃダメだよ。1個じゃなくて2個食べなよ。」

「すみません。いただきます。あ、美味しいですねこれ。」

「10円でこれならいいよ。100円で10個でしょう。100円のまんじゅうを1個買うより良いよ。最近は甘い物が好きになったから谷中に行ってはこれ買ってるよ。若い頃はまんじゅうなんて全然食べなかったけどなぁ。」

 Aさんも年を取ってから甘い物が好きになったと言っていた。Mさんも同じように甘い物が好きになったという。こういう味覚の変化ってみんな同じなんだろうか。

 

■浅草まで自転車で行っちゃうよ

「谷中から上野って自転車でどのくらいですか?」

「谷中だとすぐだよ。家は田端なんだけど、ここまで30分くらいだから。浅草まで自転車で行くこともあるよ。上野は近いもんだ。」

「浅草は距離ありますね。浅草はよく行かれるんですか?」

「最近はそうでもないな。たまにふらっと行く程度。浅草はさ、半世紀くらいなんにも変わってないよ。新しい物なんてなんにも無い。建物も街もそのまま。昔の方が賑やかだったけど。演芸場があったり映画館とか芝居小屋があったんさ。小さい頃親に連れて行ってもらったなぁ。最近は寂しいね。」

 Mさんは64歳。Aさんよりも若いが、これまた年齢通りには見えない若々しさだ。Aさんの散歩がそうだったようにMさんの若さの秘訣はサイクリングにあるのかもしれない。適度な運動はやはり大事なのだろう。


Mさんの愛車。これでどこへでも行くとの事。

 

■最近の人や世の中についてなにかありますか?

「そうだなー。私らが若い頃だって、今とは違うけど派手な格好をしたりしてね。誰でも通るハシカみたいもんでさ、親とか社会に反抗する時期ってあるじゃない。今の若いのだって同じように普通に育ってると思うよ。特に言いたいことはないかな。あ、でも一つ気になる事があるな。」

「どういう事ですか?」

「テレビとか見てると、話をするときに『うん』って挟むじゃない。」

「あ、言いますね。『うん、日々の練習が大事だよ。うん。それが今日は生きた。うん。』とか言いますね。『はい』って挟む人もいますね。」

「そうなんだよ。あの『うん』が気になる。誰に向かって『うん』って言ってるんだ、って思う。あれはないな。言葉で気になるのはそれだけだな。あとは、言葉じゃないけど携帯。飯食う時くらい電源を切っておけって思う。」

「そうですね、食事中に電話は嫌ですね。」

「せせっこましいよ。変な音楽がチャランチャラン鳴ったりして。私は携帯電話は持ってないけど、全然困らないよ。今の人は電話を持ちすぎるし使いすぎると思う。昔は電報で十分だったんだから、今だって、仕事で忙しく使う人は別としても、学生まで電話を持つ必要なないと思うな。」

「確かにそうですね。僕もあんまり電話使わないんですが。掛かってこないし。」

「私らの世代だと携帯電話持ってるのは半々くらいかな。これからも私は持たないと思うよ。」


取材後、寛永寺を散歩。Mさんお勧めのスポットです。

 

■今は良い時代だよ

「携帯電話とか『うん』とか小さい気になることはあるけど、今は良い時代だし日本は良い国だよ。昔は家族が戦争で死んだって悲しんだら非国民になったんだからね。平和で豊かで良い国だと思うよ。」

 実際に戦争を、戦後を、高度成長を、幾多の好況と不況を体験してきたMさんの言葉には重みがあった。今日は本当にいい話が聞けた。僕は脳みそをパンパンにし、Mさんにお礼を告げて上野公園を後にした。

■とても勉強になりました

論語の中では「七十而従心所欲」、つまり「70にして、心の欲するままに行動しても道徳を外れなくなった」と言われている。確かにAさんとMさんからは、そういう雰囲気が感じられた。「最近の若いもんは」と言うわけでもなく、世の中をあるがままに受け入れている余裕のような物を感じた。僕もそういう風に年を取りたいと思った。

こんなにじっくり、おじいさんと話したことがなかったので新鮮だった。物の考え方や人生観など、ここに書いてないこともためになる話が多かった(大分要約してます)。今日一日で随分勉強になったと思う。これからも話をしてくれるおじいさんに出会ったらじっくり話を聞かせてもらいたいと思った。

良い体験でした。それに、楽しかった。


 
 
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