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特集


ロマンの木曜日
多摩川の最初の一滴

最初の一滴で、手紙を出す


水干

ついに水干に辿り着いた。
歩き始めて2時間とちょっと、通り過ぎてしまいそうな場所に水干はあった。

「多摩川の源頭。東京湾まで138km」

ここの1滴が多摩川の源。まさにエキストラバージンウォーターだ。

ボカリと口を開けた岩場があり、そこで滴が落ちているはず。
穴の中を覗く。


ここに滴が……

穴の中は湿って潤っているが、ピチョン、ピチョンっていう滴の姿が見当たらない。
「えっ?ないの?」
ここまで来て最初の一滴を見る事が出来ないのか?
いや、きっと滴が落ちるまでには時間がかかるのだ。
腕を組んで穴を覗く事、数分、

「……」

ちっとも落ちない。

本来ならここの岩壁からしみ出た滴がいったん地下に潜り、60メートルほど下で沸き水として顔を出し、多摩川の最初の流れとなる。

はずなのに、落ちない。


強行措置

ここでずっと待つ訳にはいかない。
暗くなったら下山出来なくなってしまい、運転手さんの予想通り遭難してしまう。

多摩川の最初の一滴を使って、何か記念になる事が出来ないか?
切手を濡らし手紙を出そう。
そう決めて切手と封筒を持って来たが、滴がない。

仕方ない。岩壁の湿り気を利用して、目的を完遂させる事とした。

岩壁の湿り気は、切手のノリを生かすには充分だった。
こうして、多摩川の最初の一滴(の湿り気)で切手を封筒に貼る事が出来た。


記念に



運転手さんは待っていた
帰りは一気に下り、1時間半で作場平口に到着した。
運転手さんは既に僕を待っていてくれた。


記念で切手を貼ったけど、誰に出せばいいのか?
僕は切手の貼られた封筒を運転手さんに渡し、僕の住所を伝えた。

「気が向いたら、これ、僕に出して下さい」
「ああ、いいよ」
「お金入れてくれてもいいですし」
「金はねえな、何送ろうか……」

帰りのタクシーの中、運転手さんは黒川鶏冠山で昔取れた黄金の話に夢中だった。随分と良質な金が沢山取れていたらしい。


塩山駅に着くと、すっかり日が暮れていた。
帰りの特急かいじの中で、温くなった缶チューハイを2本あけた。



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