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特集


ロマンの木曜日
多摩川の最初の一滴

笠取小屋と分水嶺


笠取小屋

作場平口から1時間半、3つ目のチェックポイント「笠取小屋」に到着した。
小屋のベンチには先客が2人いて、入山して以来初めて人間を見た。

「あと30分ほどで水干ですよ、がんばって下さい」

男性の方が僕に声をかけた。

本当は笠取小屋で少し休んでから一気に向かおうと思っていたが、この人たちと一緒に座って会話を求められたら面倒な感じがしたので、休まずに水干へ向かう。


大正10年頃の笠取小屋

「下部の温泉は切り傷に効くよ」
運転手さんは若い頃に下部の温泉で氷そうを治した。
「18度くらいの冷たいお湯だから入り方にコツがあるんだよ」
足先からゆっくりゆっくりとお湯に入っていき、水面を動かさない様に静かに首まで浸かる。ジッとしていると体から出る熱気に包まれて寒くない。
1、2時間もすると傷口から血と膿が水面に浮き、キズがすっかり治ってしまう。
「戦国時代、キズを負った兵士たちが下部の温泉で治療したんだな」
運転手さんの奥さんは下部の温泉を飲んで、胃潰瘍を治した。



笠取小屋から10分も歩くと、一気に視界の開ける場所に出る。
「水干まであと0.4km」という看板も見える。

天気は急に曇天に変わり、気温も低くなっている。
それでも勾配はなだらかだ。足取りが軽くなる。


突然、僕の携帯が鳴った。
標高1800メートル、ここは圏外じゃないのだ。見慣れない番号だが嬉しくて出る。

「ああ、つながった」

運転手さんだった。
僕の安否を心配して携帯を鳴らしてくれた。

「もう少しで着きそうですよ」
「ああ、本当に。それは良かった」

4時の約束を再確認して電話を切った。
やっぱりこの人はシャイニングの黒人料理人だ。
でも、あの黒人は助けに来たらすぐにオノで殺されてしまうんだった。あの黒人の役目は雪上車を持ってくる事で、シャイニングは何よりもあの奥さんの顔が恐い。


ちいさな分水嶺

水干まであと少し。
小高い丘の上に「分水嶺」というものがあった。この場所を境に、水系が3つに分かれるらしい。多摩川、荒川、富士川の3つ。

もう間もなく到着だが、ここでひと休み。
そんなにお腹は空いていなかったが、買って来たおにぎりを食べた。
気温はかなり落ち込んでいて、すっかり寒くなっていた。
それでも缶チューハイを飲む気にはなれなかった。


分水嶺のある丘で昼食


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