型抜き屋のウラ側見せます
お客さんがまだ来ないので、今のうちに型抜きについてもう少し解説しよう。何といっても重要なのが、型抜き菓子である。「菓子」というからには食べられるものだ。原材料はデンプンや砂糖、寒梅粉(米粉の一種)。
私はこれが食べられるなんて知らなかった。小さいころに型抜きをやったとき、何となく口に入れたことはあったが、なんだかレンガみたいな味がしたのを薄っすら覚えている。
レンガの味を知っているのかどうかは置いといて、形状から「スポロガム」(これもまた懐かしい型抜き状のガム)を連想し、それくらいうまいものだろうと勘違いしていたのだ。
1枚6円。それを100円で買い、見事掘り抜けばその形に決められている配当がもらえる。上の配当表では1番高配当なのは10000円、団子状のものだ。もっと難しそうなものもあるけどもっと安いぞ・・・などと思ってはいけない。どれも同じくらい難しいのだ。
今冷静に見れば、もうまさしくギャンブルだ。親に怒られるのももっともである。 でも、掘り抜いた先に元手の何倍ものお金が・・・と思うと、やめられないんだなこれが(小学生の私・談)。
さて、まず私がやってみることにしよう。
なんだ、この難しさは。手先は決して不器用ではない私が、何枚か試したがぜんぜん進まない。破綻はあるとき突然訪れる。なんの前触れもない。たまらん。硬い砂糖菓子の、何の割れ癖も読めないまま終わってしまう。
有也さんは最高10秒で抜いたこともあるほどの猛者で、ちょっとしたものなら最初は手で割っていってしまうし、必ず抜ける必勝法も築き上げているという。でもその方法がまったく想像できない、それほどに難しいのだ、型抜き。
ちなみに、「濡らす」、「他の場所で掘って持ってくる」のは禁止。ハイトルクルーターも禁止です。
ひとおおり説明を聞いて、もじもじと迷っていたが、後でと言って友達と去っていった。
ここで有也さんから営業のアドバイスが。「迷ってるお客さんにはあまり熱心に声をかけず、気のない感じでいいんですよ。品物を売るのでなく型抜き自体に魅力があるので、それで十分。配当という欲望の対象もあることですし」
商売の基本を、型抜き屋で教わるとは。人生何事もやってみないとわからないものだ。
しかし、日曜のここ井の頭公園は、なんていいところだ。この世のヘブンだ。
隣のおじさんたちとも店同士で適当に会話しながら、遊歩道を眺める。日を浴びてほろ酔いの人も通り過ぎていく。美大の文化祭のように、おのおのの活動の発表の場でもあり、それらの出店を見て回るだけでも楽しい。犬も猫もたくさん笑顔で通り過ぎていく。