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特集


ちしきの金曜日
 
ひまわり5号にさよならを

どうやってひまわり5号の位置をわりだすか?

ひまわり5号の観測をするためには、まずその現在の位置を計算する必要がある。

その計算のやり方はぼくもまったく分かっていないのだけど、ただ一つ、人工衛星の軌道要素というものがすごく大事で、これをもとに軌道を計算する、ということだけは教えていただいた。

そして以下は、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)というところの出している、ひまわり5号と6号の軌道要素の例だ。


HIMAWARI 5 (GMS 5) ← ひまわり5号
1 23522U 95011B 05312.73560139 -.00000288 +00000-0 +10000-3 0 05242
2 23522 004.2193 077.2191 0005304 313.7720 046.1014 00.99406733038858

MTSAT-1R ← ひまわり6号
1 28622U 05006A 05311.70404677 -.00000273 00000-0 00000+0 0 3105
2 28622 000.0376 316.1858 0001658 275.2476 209.2549 01.00272215 2556


これらのわけのわからない数字には、人工衛星の軌道の楕円のゆがみ方や、傾きぐあいなどのデータが入っているらしい。

その中から一つだけ、上記で青くしめした数字の意味が比較的わかりやすい。この値は、衛星が一日に地球を何周するかをあらわしているそう。ひまわり5号は約0.99となっているから、その速度は地球の自転よりも遅い(=1日ごとに西にずれていく)ということが分かる。


上記のわけの分からない数字も、三島さんの手にかかると、

こんなふうに、

もっとわけの分からない数字になって出てくるのです。ちなみにこれは時刻ごとの衛星の現在位置をあらわしたもの(だと思います。違うかも)。

 

 

しかし見つからない

上の写真のようにして、ひまわり5号の時刻ごとの位置をプリントし、いまそこにいるはずの位置の周辺を望遠鏡でスキャンするようにして探していく。

しかし、ひまわり6号があっという間に見つかったのにくらべて、5号は探しても探しても見つからない。


現在時刻とそのときの5号の位置をチェックしては、

その方角に望遠鏡を

こんなふうにして合わせ、

その周辺をすこしづつ探す、ということを繰り返します。

 

見つからないのには理由がある

そもそも、運用のおわった静止衛星を見たいなんていうぼくの考え自体が、かなり無茶な注文なのにちがいない。なにしろ、

・現在の正確な位置がわからない。だから、発表されているNORADの軌道要素もどこまで正確かわからない。

・姿勢も不安定かもしれないし、軌道面もずれているかもしれない。

とにかくいろいろとわからないことが多すぎて、ふつうだったら観測してみましょうと言ってくれる人はいないかもしれない。そんな条件なのに、三島さんはたんたんと5号を探してくださっている。


天文台は屋根が開けっぱなしなので、室内はどんどん冷える。それでも、奥さんの持ってきた上着をはおって観測を続けてくださる三島さん。

天文ソフトによる、当日の人工衛星の位置関係。ひまわり5号は左下。すぐ上に、さいきんまでその機能を肩代わりしてくれていたアメリカのゴーズ9が、そして右上にひまわり6号(MTSAT-1R)がある。


観測開始から4時間ほどが経過し、時刻は午前0時をすぎた。

「このまま三土さんを手ぶらで帰すわけには行きません。それに半分意地もあります(笑)」といいながら、なおも捜索をつづけてくださっているのだけど、さすがにあまりにも申し訳ないし、三島さんに風邪をひかせてしまってもいけない。

そろそろ終わりにしましょう、と言うタイミングを計っているとき、「おそらく違うとは思いますが・・」といいながら、ぼくに望遠鏡をのぞくよう、手で合図をしてくださった。


中央の点が、ひまわり5号かもしれないけど、おそらく違う、という画像 (マウスオーバーで動きます)。


違うだろうというのは、位置は近いけれど、ひまわり5号にしては明るすぎるというのがひとつの理由らしい。

その後コンピュータで他の衛星の位置とあわせて確認したところ、おそらくオーストラリアの静止衛星 OPTUS B3 ではないかとおっしゃっていた。


中央やや右よりが OPTUS B3。その左下がひまわり5号(GMS5)です。

 

残念ながら時間ぎれです

その後も1時すぎまでさがして下さっていたのだけど、三島さんによると、だんだんひまわり5号の位置が、他の静止衛星の集まっているあたりに重なってきてしまったらしい。

つまり、たとえ本当に5号をみつけたとしても、それがほかの衛星でないという確証をもつことができない、ということになる。この時点で三島さんの了承をいただき、観測は終了ということになった。

 

帰るときもご夫婦で駅まで送ってくださった。

どこまでもいい人、三島さん

たしかにひまわり5号は(確信を持っては)見つからなかったけれど、もはやそんなことはどうでもいいくらいに、三島さんは圧倒的にいい人だった。

その日の夜は(じつは前の晩も)、三島さんの家に泊めさせて頂いて、三島さんと奥さん手作りの夜ごはんをご馳走になったのだった。

朝は朝でごはんを用意してくださり、昼間は奥さんの案内で市内観光、夕方は三島さんの指導で手作りロケットの作成と、いたれりつくせり。

ぼくはこの取材でひまわりを見にいったんじゃなくて、三島家にホストされに行ったというのが、たぶん正しいんだと思う。

 

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