会場まで送り届けたあとは、教室が終わるまで時間をつぶさなくてはならない。いつもならなんということのないひとときだが、今日の場合はちょっと違う。ずっと笑顔でいなくてはならないからだ。
私の無理やりな笑顔を素直を受け入れてくれていた妻ではなかったが、それでもやはり一人になると状況は厳しい。笑顔というのは人に向けてこそ、その意味や大切さが現れてくるのだと思う。
大事なことに気づいたような気がしていいものだろうか。やっているのは一人で笑ってるだけ。やっぱりばかげてる。
トイレの鏡で笑顔のチェック
証明のしようはないが、今回の試みでは一人でいるときでもとにかくずっと笑顔。ぼーっとしていると緩めた頬をうっかり戻してしまいそうになるが、それじゃいけないと再び笑う。
自分で決めたことはやり遂げたい。自分に嘘はつけない。
すでに自分の心に嘘をついている気もするが、なんとか持ちこたえなくてはならない。手品教室、早く終わらないだろうか。
●シーン3:笑顔でショッピング
ようやく時間が来て、妻をまた迎えに行く。
一人じゃないってすばらしい
当然笑顔で迎える私なのだが、妻は「そんな顔されても、私は笑えないわ」と冷たい反応。それでも一人でいるよりはずっといい、買い物があるというのでスーパーに向かう。
もちろん笑顔はずっとキープしている私。時間も経ってきたためか、この顔でいることにもだいぶ慣れてきた。もうそれが自分の標準的な顔にもなってきた気がする。
いや、それはそれでまずいのではないか。休日でお客の多い店内、「この人なんなの」といった顔ですれ違う人もいるように思えてくる。
笑顔が原因で生じる疑心暗鬼。なんでこんな気持ちに。
手で不自然に顔を覆ったり、なんとなく伏目がちになったりしながら店内を歩く。そんな私に妻が「衝撃的なことをしてあげるわ」と告げた。
好物の高級板チョコを5枚も買物かごに投入。この間も買ってたじゃん、しかも5枚って多すぎるだろう。
と、言いながらも笑顔をキープする私。なんなんだこれは。
妻は「そんな顔で言ってもちっとも迫力がない」と、どこ吹く風。笑顔でいることがまずい状況を引き起こすという場合もあるんだと思う。