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特集


チャレンジの日曜日
 
勝手に議事録
会社では議事録をたくさん書いています。苦手だけど。
会社勤めをしたことのある人ならば、誰でも一度は「議事録」をしたためたことがあるだろう。会議の内容を簡潔に分かりやすくまとめ、出席者およびそのほか関係者に配布することで情報共有をするために作成されるものだ。

たいてい若手にまかされることの多いこの議事録。これがどういうものか知らない人がいたとしたら、あなたは幸せな人です。

「いつもお世話になっております」「前向きに検討したい」「訴状を見ていないのでコメントできない」など組織の中で定式化された言い回しの例に漏れず、議事録にもまた独特のフォーマットがある。

ぼくは議事録作成が苦手なのだが、この「いかにも議事録風な文章構成」には常々ぐっとくるものを感じていた。仕事と関係なかったらけっこう楽しめるんじゃないだろうか。

人と人の会話があるところに、議事録の成立する余地あり。会議は会議室だけで起こるわけではない。ほんとか。

今回は街へ出て人の会話を聞き、そして勝手に議事録を作成してみた。人はこれを盗み聞きという。

(text by 大山 顕



国会や地方自治体の会議など政治の世界における議事録は基本的に「会話をそのまま記録していく」という形式だが、一般企業で作成される議事録は、要旨をまとめ極力簡潔に表現し読解力のない偉い方々にもやさしい形であることが望まれる。

少ない言葉数で要点をまとめつつ、上下関係に配慮し、同時に「いかにもちゃんとした文書然」たる雰囲気をかもし出すべくつむぎ出されたコトバたちは、そこに独特の作品世界を展開する。たとえばこんな具合だ。




●実際の発言:
A 「あのですね、担当からメールでアナウンスされてると思うんですが、仕様が変更されていまして、スケジュール前倒しで切り直したいんですけどー」
B 「(その仕様変更は)もうフィックスですか?」
A 「ほぼぎまりです。営業部隊からの要請でして。すいませんね」
B 「現場レベルの問題なんで私からはアレなんですけど。開発陣と揉んでみます」

●議事録の表記:
仕様変更に伴う開発スケジュール変更を要請(A)
 →了(B)


ポイントは矢印使いと「了」だ。あと、この議事録はA側の人間で作成されたことがうかがえる。「揉んでみます」=「検討してみます」と言っているのに議事録では「了」(了解した、の意)だ。

このような議事録の「協議結果の捏造」的側面を持つ点も見逃せない。

以上のような議事録作成上の留意点をおさえつつ、いろいろな会話を議事録にまとめさせていただこう。


■地下鉄線内での60代女性3人の会議

まずは腕試し。しばしば会議には声が小さくて聞き取りづらい人がいて議事録係を困らせたりするものだが、本会議参加者は、ノイジーな会議室の環境に配慮してか、大声での発言を心がけていたようだ。その点、出席者の方々には感謝申し上げたい。ていうか、うるさいよ。

実際の発言は以下のような感じであった。



活発な議論が行われていた


(略)
「次じゃない?ここどこ?新橋?」
「どこで降りるんだっけ?」
「やまちゃんのところねー、こんどねー」
「どうぞー」(飴をとりだす)
「あら、ありがと」
「あー」
「これなに味?」
「えーと」
「やまちゃんところのせいちゃんがね」
「梅だってよ。梅」
「あら、やっぱり新橋だわ」
「やまちゃんところの、引越しするらしいのよ」
「あー」
「ねえねえ、傘持ってきた?」
「あら、雨降るの?やだ」
(略)

いきなり難易度の高い会議である。各人の思惑が入り乱れた乱調子な発言のやりとりに議事録担当もやや困惑気味だが、せいいっぱいまとめてみた。なお、出席者の名前は仮に黒沢、村上、大島、とさせていただいた。他意はない。



「勝手議事録」最初のトライとしては少々ハードルが高かったが、どうだろうか。

冒頭の例でもご覧いただいたように、議事録に記録される発言は実際の発言よりもより堅いニュアンスで表現することが要求される。その点、「やまちゃんとこのせいちゃん」という言葉を議事録風にアレンジできなかったのが悔やまれる。今後の課題としたい。


■百貨店化粧品売り場での売り子とお客さんの会議

女性の友人が化粧品を買いに行きたいというので同行した。以前古賀さんが書かれていたが、コスメカウンターは見知らぬもの同士のうわっつらな会話の宝庫。「うわっつら」は会議を構成する要素としてはメジャーなものだ。期待が高まる。



スムーズに会議が始まったかに見えたが…


「いらっしゃいませー」
(マスカラをあれこれ手に取る。ひとしきり物色)
「なにかございましたらどうぞー」
(ひとしきりあれこれマスカラを見てみた後)
「あのー」
「はい、いらっしゃいませー」
「あのー、ちょっとお伺いしたいんですけど」
「はーい」
「この『ロングラッシュマスカラ』っていうのはどういう感じですか?」
「ここに書いてございますように、これは長く見せたい時用ですねー」
「はあ」
(見ると種類ごとに「長く」「ボリューム」「カール」などと書いてある)
「どういう風になさりたいとお考えですかー?」
「ボリュームを出したいんですけどー」
「それでしたらこちらですねー」
(と言いながら、なにやら展示台にとりつけられた電球が消えかかっているのが気になりだしたようで、接客上の空で電球をいじり始める)
「あのー、これはどういう感じですか?」(べつのものを指して)
「そちらに書いてございますようにカールさせたいときですねー」(電球から一瞬目を離し、また電球に一生懸命)
「ウォータープルーフでボリュームは…」
「ウォータープルーフと書いてございますものになりますー」(電球に夢中)
「…」
「…」(電球)
「…どうもありがとうございました」
「ありがとうございますー」(電球をいじりながら)

期待に反して物別れの会議である。メイクとかやってもらわなければだめだったのか。


これらの電球に夢中。客そっちのけ。


H社サイドが会議中に電球に夢中になってしまったようだが、実際、会議の相手がメールだかなんだかに上の空、というのはよくあること。これを議事録にすると次のような感じだろうか。



ポイントは「特記事項」である。会議中感じた、言わずにはいられないことを「特記事項」の名を借りてコメントするのは議事録担当にだけ許された特権。

ただ、この技は濫用すると会議出席者からひんしゅくを買うことが多いので注意が必要だ。ただ、なんだかうやむやに終わってしまった会議後、多くの出席者が「今日の会議は何だったんだろう」とくすぶっているところに的確なコメントが記された議事録を送付すると感謝されることもある。配慮しつつ、大いに活用していきたい。ていうか、ちゃんと対応しろ。


 

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