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はっけんの水曜日
 
誕生日に人生を再起動したいの

同日18時、都内某所。
友人でデイリーポータルのライターでもあるタカセさんと、前から行ってみたかった店に行く約束をしていた。薬膳屋さん、というか、どちらかというとゲテモノ屋さんだ。



ものすごい入りにくい店がまえにひるみつつ、中に入る。

中は常連さんらしき方ばかりらしかった。楽しく厨房と談笑している。メニューはない。
……タカセさんと顔を見合わせつつ、「す、すいません、ビールを……」と頼む。

瓶ビールにコップふたつ。
仕事に疲れていたタカセさんがおもわず
「おつかれさまー」といって乾杯した。
「……誕生日おめでとう、って言ってくださいよ」
「あああ、ごめーん」

ほどなく、5段のお重が運ばれて来た。
常連さんらしき男性が「あら、きみたちご新規さん? これね、通過儀礼だからね。……でも知ってて来たんでしょ?」と声をかけてきた。
「え、ええ、まあ、はい……」



タツノオトシゴ。卵豆腐に乗ったアリ。


イノシシの生肉やらイカスミやら。



カンガルー肉を使ったにこごり。ひょうたんの酢漬け。そして、サソリ……。

ふたりでおそるおそる、箸をつける。無言。
ばりばりばり、ぼりぼり。
タツノオトシゴは、うなぎの骨の空揚げみたいだった。
アリはすっぱかった。
というか、全体的に、すっぱいものと、にがいものばかりだった。私には、ちょっとした拷問レベルであった。我慢すれば食べられる。
タカセさんは「すっぱいもの好きだから、美味しいわ〜」と喜んでいた。大人の味覚の持ち主だ。


完食証拠写真。

大将が声をかけてきた。年齢、職業をきかれた。きみたち背が高いね、この店はゲイの人が来るのが多いんですよ、と言われた。
ああ、もしかして、タカセさんとカップルだと思われてるのか……と思った。

「うーん、きみは埼玉出身? そうか、埼玉のほうには、よく日本刀を買いに行ったよ、むかし」
「え、えええ、日本刀?」
「あっちのほうって、セメント屋さんとかあるでしょう? いい砂鉄のとれるポイントもあるんですよ。だから日本刀作ってる人がいるんですよ」
「へえ〜」
「日本刀って、取り決めで、年間2本しか作れないんだよね」
「え、ひとりの職人さんが? そりゃ高いですね……」

日本刀を買ったことのある人に、初めて逢ったなあ、と思いながら話をきく。

「前々から不思議に思ってたんですけど、日本刀って運ぶときってどうするんですかね? 普通に持って歩いたら、銃刀法違反ですよね?」
「あれはねー、許可証みたいのが出るんですよ。どこからどこに運ぶって申請して」
「へえ〜」
「日本刀はいいですよ。油ぬってねえ…」
「油?」
「油ぬって手入れするんですよ。で、ときどきとり出してながめる」
「へえ〜…」

大将の話は大変に興味深かったが、私たちの修行が足りないせいか、くつろげることは出来なかった。

メインディッシュの焼きはまぐりを食べ、


お会計をすると、ひとり5500円であった。

ふたりで新宿に戻って、安居酒屋・三平酒家で飲みなおした。ここでもタカセさんは1杯目に「おつかれー」と言った。

「……だから、おめでとうって言ってくれってばさ!」
「あーごめん、おめでとー。……で、今日は、なんか再起動がテーマだそうだけど、再起動出来た?」
「いやー無理!」
「ひゃひゃひゃひゃ!」
「慣れないことはするもんじゃないや。でも、やってみないと分からないことも多いので、別に反省はしてない!」
「そうそう、薬膳だってさあ、劇的に身体に変化が出るわけないと思うもん」
「ていうか、来年の誕生日にむけて、じわじわ頑張りますよ! まず男の子に祝ってもらいたい! きー!」
「はいはい、がんばってねー」

家に帰ってミクシイを見ると、誕生日祝いのコメントとメッセージが、たくさん届いていた。言葉だけでも嬉しい。
これからは他人の誕生日を、がんがん祝おう、と誓いながら寝た。
皆さんも自分の誕生日はジタバタするより、ぼんやりしていたほうが、いいと思いますよ。はい。



 

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