初めての箸づくり
まずは木材売り場へと向かった。せっかく作るからには、材質にもこだわりたい。たとえ形はいびつでも、いいものを作りたい。
箸は口に入れる物だから、化学合成された漆ではなく、天然のものを使いたい。しかし漆については「カブれる」こと以外、知識はゼロだ。
そこで対応してくれた店員さんに、漆の塗り方など、ここぞとばかりに聞きまくった。
店員「ところで、何に塗るんですか?」 私「えーっと、…口に入れる物に使います」
なぜか「箸を作るんです」とは言えなかった。たぶん笑われるのがイヤだったのだと思う。
それがですね、
買ってきた太めの角材を2つに分断したのち、それぞれを削って箸にしよう、という計画だったのだが…。
自分の能力を過信してたとしか思えない。
一本の太い棒から箸を削り出すことは、私にはムリだった。出来たとしても、何年かかるか分からない。今回ばかりは職人の偉大さがよーく分かった。無茶だ。無謀でした。
ただ、買ってきた漆がムダになるのは惜しい。
そこで、割り箸を好きな形に削り、漆を塗り込んでいくことに予定を変更。そういえば子どもの頃は、鉛筆をカッターで削るのが好きだった。それくらいなら、私にも簡単にできるだろう。
そういえば「銀座夏野」の高橋さんは「塗った漆を乾かすには湿度のある所がいい。段ボールの中にゆるく絞ったタオルを置いて、その中に入れておけば大丈夫」と言っていたが、今回はそれさえもパスすることにした。まぁ、なんとかなるでしょう。
日課と化しました
漆は何度も重ねづけするといいらしい。毎日、漆をせっせと塗り付けてから寝る日々が続いた。
―― 漆でカブれたことある? 「いや、私はないけど、カブれた人なら山ほど知ってるよ」 ―― どういう症状が出るの? 「もう痒くてたまらないらしい。で、掻きむしって皮膚がボロボロになって…。ヒドい人になると、漆の木を見ただけで体が痒くなるんだって。でも、なんで漆のことなんか聞くの?」 ―― うん。いま、家で箸に漆を塗っててね。 「はぁ? とにかく1度目は無事でも、2度目で反応することがあるから気をつけなさい!」
「気をつけなさい」と言われても、もう手遅れな気がするほど漆まみれになってしまった。ちなみにコレ、何度石鹸で洗っても落ちない。
仕方ないので、カブれなかっただけでもありがたい、と思うことにしました。自業自得です。
ついに完成
漆を塗ること一週間。 まだまだ塗り続けたかったが、「もうこれ以上は色が濃くならないだろうな」と判断し、作業を終了することにした。
色がまだらなのも「オリジナル感」というか「味」というか、まさに「私だけの一膳」を引き立てる結果となってくれた。
大変に満足です。
あまりにも身近な存在すぎて、いままで箸をじっくり観察することがなかったが、いやー、箸っておもしろい。これからは、もっと意識的に箸と付き合っていきたいです。
箸の店も楽しかったが、箸作りもとても楽しめた。次回は当初の目的どおり、じっくり木を削り出すところから作ってみたい。