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はっけんの水曜日
 
ピョンヤンで、ごはん
前にテレビのニュースで、日本で売っている安売りスーツが、北朝鮮製だと知った。ちゃんとタグに、ノースコリアと書いてあった。
「国交はなくても、交易ってのはあるんだなあ〜、そりゃあるよなあ〜、北朝鮮製産の朝鮮ニンジン酒とかも売ってるもんなあ〜」
……なんて思いながら、ぼーっと見ていた。

世界はいろいろタイヘンだ。でもテレビ画面で見ていると、現実感がない。
日本人の着ている服を、北朝鮮の人がちくちく縫っている。不思議だ。どんな人が縫製しているんだろう。男なのか、女なのか。幾つくらいなのか。どんな工場で、どんなタイムテーブルで、どんなごはんを食べて、どんなお喋りをして……暮らしているんだろう?

で、最近、「東京に、北朝鮮の冷麺専門店がある」……ということを知った。

食べてみたい、と思った。

今回はそんな、東京で食べられる「行くのがちょっとタイヘンな国」のゴハンを紹介します。

参考:外務省ホームページ

(text by 大塚幸代

北朝鮮観光に行った人の旅行記(松田洋子さん著『人生カチカチ山』角川書店刊)には、「北朝鮮の冷麺マニアのこだわり方が、日本のラーメンマニアと似ていた」と書いてあった。

……なるほど。鉄道があるところに鉄道ファンがいるように、麺がある国には、麺マニアがいるんだろうなあ、と想像してみる。

たぶん、みんな男性で、こまかくノートとかとってるんだろうなあ、写真や、イラストも欠かさないんだろうなあ、と想像してみる。
イタリアのパスタおたく。
ベトナムのフォーおたく。
ああ、彼らのノートを見てみたい。

……とか思いながら、やって来ました『冷麺専門店、KORYO』。



テレビなんかにもよく出る、有名店らしい。

ゆったりとした店内は、美術館内にある喫茶店みたいに落ち着いている。
髪をまとめた綺麗な女性がにこやかに、「おひとりですか?」「焼き物(焼肉)はされますか?」などと言って、案内してくれる。
……ランチタイムに来ればよかった。年の離れたカップルや、年配どうしのカップルが、楽しそうに肉を焼いていた。わたしは女で、ひとり。冷麺だけのオーダー。浮いている。

しかしまったく、ケムリが来ない。どうしてこんなに清潔な感じなんだろう……?



ほどなく麺はやって来た。

私はソウルの安食堂で、冷麺を食べたことがある。新大久保でも、日本の冷麺と違う、どんぐりの粉の入った麺を買って、時々作って食べる。
ピョンヤン冷麺は、それらとは、ちょっと違って見えた。
蕎麦粉を使っているのと、大根キムチの汁&肉のスープが特徴らしい。

「あー、どう食べたらいいんだろう……」と思ってメニュー表を見ると、しっかりと「食べ方」が記されていた。



本場ピョンヤン冷麺の楽しい食べ方

「 1、まず、スッカラ(スプーン)できんきんに冷えたスープを数杯味わってください」

はい、ずずー。……上品な肉汁の味。正直に言うと、ちと薄い。

「2、麺の上に薬味と麺をほぐし、具と合わせ3分の1程度をお召し上がりください 味が薄いようでしたら、ピョンヤン醤油をかけてください」

乗っかっている辛いミソを、ぐじゃぐじゃと混ぜてみる。



ずずー。……お、辛い。

「3、麺にお酢を適量かけ、更に全量の3分の1程度をお召し上がりください」

酢を入れてみる。うむ、味がしまった。

「4、最後に、残りの3分の1の麺に、からしを混ぜてお召し上がりください」

うむ、さらに味がしまった。

「……冷麺のいろいろな味のバリエーションをお楽しみ頂けると思います。 次にピョンヤン冷麺をご注文された際には、お客様独自のお召し上がり方をお試しください」

……ずるずるーっと食べた。
上に載っている、肉の味を強く感じた。……というか、全体的に、非常に上品なトーンなのだ。
繊細な……水墨画みたいだ。
口を動かす。……頭の中に「律動体操」や「脱北者の書いた手記」や「映画『JSA』」や、伝統手芸の「ポシャギ」というパッチワークや……ノースコリアに対する、少ない、片寄った知識が浮かんでは消えて、いつのまにか食べ終わってしまっていた。
美味しい……のか? よく分からなかった。

でも確か私は、日本のラーメンマニアが「名店!」としている店のラーメンを、「美味しくないや」と思ったことがある。
……ますます分からなくなった。くやしい。
もう一度、食べてに行ってみたいと思う。



『冷麺専門店、KORYO』
台東区柳橋1-12-8 2F
ランチ11:30-14:00
ディナー18:00-23:30



 

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