藤原、こんなところで根性を見せる
作業開始から4時間30分経過。この1時間ぐらい僕も藤原も黙って作業を進めている。僕はときどき休んでいるが藤原はまったく手を休めない。
藤原がときどき指をなめているのでなにかと思ったら、指から血が出ていた。針で指を刺したらしい。鬼気迫る雰囲気である。すべてはモテるため。この根性をスポーツに向けたらどんな大会でも優勝できるだろう。でもスポーツには向けないのだ。
これでモテなかったらどうしよう。モテてくれ。僕も本気でそう思う。
「いま縫いながら、モテたときのこととか考えてる?」
(無言でうなずいて)「…どうしよう……。」
なにか藤原の頭のなかでは大変なことになっているようだ。女の子に追いかけ回されたりしているのだろうか。
「でも、着ぐるみで女の子が寄ってきたとして、それからの展開はどうすんの?」
「名刺を渡します」
それはまるっきり青山ブックセンターでのZくん2時間店長イベントだ。藤原はあのイベントを目の当たりにして、「着ぐるみ=モテる」と思ってしまったようだ。責任を感じる。
「でも、ここまでやって誰も相手にされずに放置だったら…」
やはりときどき不安になるようだ。「いや、そんなことない、きっとモテるさ」と言おうと思ったが、そんな気もするのでやめといた。
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