●集中しろと自分に言い聞かせて
いよいよカカシ作り実践編。製作コーナーに置かれている竹や古着は材料として自由に使ってよいとのこと。係の方からおおまかな作り方のレクチャーを受けて、早速作りはじめる。
もぞもぞやっていると、プリントアウトしてきた住さん木像の写真を係員さんが手にしている。明らかに怪訝な顔だ。
しばらくして黙って紙を置く係員さん。はっきりとしたリアクションは特にない。
そういうことを気にしていても仕方がない。進歩的な作風というのは、時に同時代の理解を得がたいものでもある。材料として用意されていた白い袋に肉付けのアンコとして古着を詰め、骨となる竹を差し入れながら形を作っていく。
…進歩的とか言ってはみたが、自分で見るにつけてもよからぬ物ができそうな気配。
カカシの形状として明らかにおかしいよなとは思いつつも、すでに完成のビジョンはしっかり見えている。怖気づくことなく、作業を進めていくべきだ。
●沈黙の製作スペース
顔の形が整ってきたので、古着の山から木像と同じような色の服を選び出してくるんでいく。
そのタグを撮影しておいたのだが、あとから人に聞いたところによると、どうやら結構な高級ブランドらしい。
きっとおしゃれ着としての役目を果たした日もあったであろう洋服。生地がくたびれてきてからは家着にもにもなっただろうか。その任を終えた後、こんな風に使われることになるとは。
意外な展開だとは思うが、これからはしっかりとカカシをくるんでいってほしいと思う。
今日からきみはカカシを構成する一部だ。
申し訳ないとも思うが、こういうことになってしまった以上、運命を呪うことなくカカシとして歩んでいってほしい。
さて、顔のパーツも徐々にできあがっていき、製作はボディの部分に移りはじめる。いろいろな服が山と積んである古着の中に、どうにも気になるデザインの服を発見。
赤地に緑と紫のでかい蝶。一体どこで売っている服なのだろうか。
ファッションとしてどう評価するかはここでは置いておこう。おしゃれには時として勇気というものが必要な場合もある。
しかし、鳥たちの度肝を抜くという意味では、カカシ製作の方向性として間違っていないだろう。実際の住さんがこういう服を着るとはちょっと思えないが、カカシだからこそ着れる服があってもいいはずだ。
実際に着せてみると、顔そのものが持っている雰囲気に加え、ますます迫力に磨きがかかった感じがする。田んぼの稲を狙おうとする鳥だけでなく、カカシを見た者全てに何かを呼び起こさせることができるかもしれない。
カカシの枠を超えたカカシ。超えなくてもいい枠を超えた感もあるカカシ。
製作も佳境を迎え、いよいよ何かの儀式みたいな感じになってきた。
|