肩と肘の限界に挑む
中々曲がらない僕のカーブ。 高野君が僕の腕を取って更に突っ込んだ指導をしてくれる。
「肘をもっと上げた方がいいです」
ん? こう? いや、もっと、こう……。
万引きした子供が店長さんに捕まった所みたいになっている。
「いいから、捕った物出しなさい」 「捕ってないですって……」
もっと、手首もひねって……。 こう? いや、もっと、こんな感じで!
言われた通り、肘を高く上げ手首の回転を強くしてみるがドラスティックな変化はない。 投げ始めてから既に50球以上は投げたので、肩と肘が痛くなってくる。
「ごめんなさい、ちょっと休みます」
グローブを弟に渡し僕はベンチに腰掛ける。
回転はいい線まできている。高野君曰く、硬式ボールだったら曲がっている。 僕たちが使っている軟式ボールは曲がりづらいらしい。 だったら硬式に変えたらどうか、と高野君に提案してみたがそれはやめた方がいいと言われた。
「肩壊します」
高野君と僕の弟は神奈川県の公立高校だった。 高校野球激選区の神奈川で、2人の学校は一度も1回戦を突破した事がない。2人が現役の時も1回戦突破の夢は叶わなかった。
「高山※ばっかりがモテてたよな」 「あいつ中居君に似てるからなあ」
甲子園ばかりが高校野球じゃない。 誰が一番モテたのか?それが一番の思い出になっている高校野球児がここにいる。
※弟と高野君のチームのエース