はじめての鹿肉の刺身
21時30分。
お母さんが外の冷蔵庫から鹿肉の塊を持ってくる。
冷凍されているので解凍してお刺身でいただくらしい。
住「鹿肉のお刺身って初めてです」
お父さん「この辺には野性の鹿が多いんだよ。すぐその辺を歩いてるから」
お母さん「今年の鹿は味が悪いって言ってたけど、どうかしらね」
お父さん「どうかな?イマイチかな、日光の手前」
ダジャレだ。(今市は日光の手前の駅)
お父さん「うーん、凍ってて味が分らないな」
お母さん「まだ早いですよ」
お父さんはせっかちな面があるらしい。林さんがまだ小さかった頃、家族旅行の前日の夜、お父さんは待切れなくなって、夜のうちにみんなを連れて出発してしまった。
お湯割りの六調子で更に調子が上向く
お父さん「住さんが持ってきてくれた焼酎、飲んじゃおうか」
お母さん「もう、飲むの?」
お父さん「せっかくだもん。ねえ、住さん」
住「ええ、是非、飲んで下さい」
六調子をお湯割りにしてお父さんは更に饒舌になっていく。
以下、お父さんのお話をダイジェストで。
・延岡の雇用率は県内で一番悪い
・宮崎県の県民所得は全国でブービー賞
・自動車重量税の不当性
・入射角と反射角の関係性について
・2ブンのmvの2乗というエネルギーの法則が人口衛星を飛ばす
22時20分。
僕の左隣でお酒を飲んでいた林さんの気配が薄くなる。
林さん?林さん?
落ちている。
お母さんが心配して林さんに声をかける。
「雄司、少し休んできたら」
「いや、大丈夫。でも、ちょっとトイレに……」
林さんがトイレに立ったが、それからしばらく復帰してこなかった。
そして24時。
ストーブの上のおでんが煮え立ってしまう。
お父さんは「ジョハリの4つの窓」という心理学の話を聞かせてくれている。自分と相手、既知と未知。4つの窓から新しい自分が見えてくる。
お母さん「住さんも遠い所から来て疲れてるから、ねえ。そろそろ休みましょうよ」
お父さん「そうだな。今日は本当にありがとう。住さん」
住「いえいえ、こちらこそ楽しかったです」
お父さんは六調子のお湯割りを空けた。
僕も梅割りにしていた六調子を空けた。
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