犠打の世界記録に挑戦
犠打とは……
自分はアウトになって味方のランナーを進塁させるバントのこと。送りバントとも呼ばれている。
今年の8月20日、当時読売巨人軍に在籍していた川相昌弘内野手(38)が通算512個目の送りバントを決め、犠打世界記録を達成した。21年に渡るプロ生活の中でコツコツと積み上げて来た大記録だった。
その後、シーズン終了時まで川相選手は2つの犠打を追加し、今の犠打世界記録は514。今回、その514犠打超えに挑戦する。
某日、午後2時。錦糸町のロッテ会館6Fバッティングスタジアムにやって来た。ここが世界記録挑戦の舞台となる。
平日という事もあり、バッティングスタジアム内は閑散としていた。
これから世界新記録が生まれようとしているのに、何か物悲しい雰囲気が立ちこめている。が、これでいいのだ。
自分はアウトになって味方のランナーを進塁させる。そんなチームプレーに徹する精神こそが犠打の醍醐味であり、そこに脚光はいらない。
ただ黙々と打球を前に転がす事だけを考えればいい。
受付で1枚1000円のプリペイドカードを7枚購入した。
カード1枚で4ゲーム80球プレイ出来る。7枚だと28ゲーム、560球という事になる。その中で世界記録の515を達成するには、92パーセントの成功率をキープしないといけない。
バントに関して素人同然なこの僕が、そんなに高い成功率を保てるのか?
そもそも560球も体力がもつのか?
技術面、体力面での不安を抱えながら、僕は打席に向かう。
ロッテ会館のバッティングマシンは「ピッチング映像システム」を導入していて、プロの投手が投げる映像が写し出され、その動きに合わせて球が飛んでくる仕掛けだ。
僕の選んだマシンには巨人軍の上原投手の映像が流れる。
打席に入りプリペイドカードを挿入し、球速を選択する。時速70kmから130kmまで選べるが、一番遅い70kmにした。560球も受けなくてはいけない、衝撃は少ない方がいい。
左手には数取器を持ち、バントが成功する毎に数をカウントアップしていく。
こうして世界記録挑戦の舞台が整い、無謀ともいえる515犠打への挑戦が始まった。
|