裏原宿の人気ショップ
2軒目の帽子専門店に移動しながら話をする。
「僕らってヘルメットもないんじゃないですかね」
「命にかかわるね」
「映画みたいにさ、地球に惑星が衝突するから別の惑星に逃げる、とかそんなことになったとき、僕らがかぶれるヘルメットはないよ」
「取り残されるんだ。地球に」
打ちひしがれた心は想像まで後ろ向きにする。
専門店ならばいろんなサイズがあるだろう。そのことを横山さんに聞くと
「いや、専門店のほうが地獄だよ」
専門店はデザインがたくさんあるがサイズはあんまりないらしい。
サイズがない地獄。ぬるいが当事者にとっては地獄だ。
「呼んでる」帽子
いわゆる裏原宿と呼ばれる場所にある帽子専門店。専門店だけあってかっこいい帽子がたくさんある。
「この帽子、呼んでないかな?」
横山さんはかぶれそうな帽子を見つけると「呼んでる」と言う。
「ウチら業界では『呼んでる』っていうから」
『業界』って頭のでかい人業界だろうか。認めたくないが僕は間違いなくそこにいるんだろう。
幹部になってもいいぐらいだ。
「呼んでる」帽子をかぶってみる。入りそうだと声が出てしまう
「あ!」
しかし頭の途中でつっかり、入らない
「あ〜」
その繰り返しだ。「あ!あ〜」「あ!あ〜」
いちおう店員にも聞く。
「これより大きなサイズはないですか」
「いや、ここに出てるだけですね」
「出てるだけですか………」
この日、何度この「出てるだけです」というセリフを聞いたか。
目的を見失う
このショップにはターバンもあった。ターバンの巻き方が書いてある。
「横山さん、僕らにはターバンがいいんじゃないですかね。サイズないし。巻くだけだし」
「いや、ターバンは巻きたくないよ」
………そうだった。
目的を見失っていた。今回はかっこよくてサイズがあう帽子を探すのが目的だ。入ればなんでもいいという気持ちになっていた。
目標はかっこいい帽子だ。入れる学校ではなく、入りたい学校を選びなさい。担任の教師がよく言っていた(でも、僕は入れる学校を選んだんだけどね)。
|