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サークルKサンクスねぎとろわさび

サークルKサンクスねぎとろわさび
ねぎとろわさび サークルKサンクス 128円(雪が降ればいいな〜と思っています)

何年前だったかニホンザリガニを探しに北海道へと旅立った。
今になると、僕はなぜ急にニホンザリガニを探しにはるばる北海道まで出かけたのか、思い出せないけれど、連休と有給(当時は働いていた)を利用して自腹で北海道へと旅立ったのだった。

ニホンザリガニは1道3県にしか生息しない。
当時働いていた会社にネイチャー系のライターがいて、その人に聞いたら「札幌にいるんじゃないかな」と教えてくれ、それが唯一の手がかりだった。もちろん北海道の「観光協会」や「動物園」などにも電話をして、生息地を聞こうとしたが、「知ってどうするの?」と聞かれ「見るだけです」と僕が答えると「数少ないザリガニなので教えられない」と誰も彼もが言い放った。本当に見るだけなのだが、怪しむ気持ちも分からないではなかった。

札幌にいるんじゃないかな、それだけを手がかりに僕は北海道・札幌にやって来た。
東京はまだ夏の名残が色濃く残っていたが、北海道はすっかり秋で、僕の半袖という格好では寒くてたまらなかった。野宿のつもりでいたが、あまりに寒いので一本道を渡ればススキノという安いカプセルホテルを見つけ、そこを拠点に札幌の山を歩いた。

日が昇ると同時にホテルを出る。
その後はとにかく山を歩く。札幌は都会な気がしていたけれど、少し歩けば山々が連なり、さらに奥に行けば熊の出現の心配もしなければならなかった。水が少し流れるギリギリ「沢」と言えなくないものを見つけると、ザリガニを探す。そんなことをしながら、何日も過ごした。

北海道観光は全くしていない。
毎日毎日、山を歩きザリガニを探した。札幌ラーメンすら食べていない。しかしニホンザリガニは見つからない。山ですれ違う人に「ニホンザリガニ」を知らないかと聞く。ポツポツと情報が集まり、帰らなければならない前日の昼に、ある場所を教えてもらった。

急いで札幌駅近くの観光案内所みたいな所に戻り、その場所への行き方を聞いた。
「そこは熊が出るので一人では行かないでください」と案内所の女性に言われた。二人で話していると熊が人の存在に気がつき近づかない。しかし一人だと話したりしないから熊に会うかもしれないと言うのだ。

でも、僕はニホンザリガニが見たかった。
案内所の女性に「僕ひとりで話したりするんですよ」、と必要ない真実を宣言をして道を教えてもらった。その場所へ向かうバスの中でなんだか悲しい気持ちになった。この旅行も一人である。案内所の女性の左薬指には指輪が輝いていた。

着いた山の中で僕は一人話した。
この旅行の思い出、最近食べた美味しかった物についてなど、僕が話し、僕が相槌を打ち、僕が続きを話し、僕がマジで! と驚く。夕暮れ迫る山の中で僕はそんな会話を繰り広げた。熊よりも、違う登山客に会うことが嫌だった。結局ニホンザリガニは見つからなかった。この旅行で気がついたのは、一人で会話をする楽しさだった。世界一、気を使う必要がない会話なのだ。北海道の広大な大地が気が付かせてくれた「アハ体験」だったのだと思う。

そして、「ねぎとろわさび」もそんな大地を思わせる壮大な美味しさだった。
パリパリの海苔とネギトロの競演が病みつきなる味。海苔の香ばしさは他のおにぎりより抜きん出ている気がする。ご飯も多く幸せを具現化したのがこのおにぎりである気がした。もうひとつ食べたくなった。いつまでも変わらぬ味でいて欲しいと願ってやまない、おにぎりだった。 ( 2011/01/30 21:00:00 )




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