マンションなどでは、建物の一階部分に住人全員分のポストが集まっていると思う。僕の住んでいる建物もそうなっていて、各ポストにはそれぞれの部屋番号が書かれ、その横には手書きで苗字を書き込むようになっている。
「203鈴木」「309大田」「405地主」といったように書かれたポストがズラリと並ぶわけだ。ちなみに僕は「地主」という苗字だ。
いつだったか僕の部屋に「ピンポ〜ン」という音が響いたことがある。 僕の部屋のベルを鳴らすのは、大体において「Amazon」ということになっているのだけれど、その時は頼んだ覚えも無く、一体誰が何の目的で鳴らしたのか全く見当がつかなかった。
不思議に思いながらも、「ハイ」と玄関のドアを開けると、20代前半くらいの女性が立っていた。彼女は落ち着いた雰囲気で、10人聞けば7人は綺麗と答える女性だった。僕もその7人に入るのだけれど、彼女には見覚えは無く、なぜベルを鳴らしたのかは分からなかった。
「部屋を見せて欲しいんですけど」と彼女は言う。 僕の「お、意味が分からないぞ」という気持ちが、口にこそ出なかったけれど、顔には出たみたいだった。彼女は「これってこの建物ですよね」と僕の住んでいる建物の間取りが書かれたチラシを差し出した。
そのチラシは間違いなく僕の住んでいる建物だったけれど、なぜ僕の部屋を見たいのか分からず、頭上に「?」と灯しながらその旨を聞いた。彼女の頭にも「?」は灯っているようで「一階のポストに『地主』と書かれていて、『大家さん』ですよね」と言った。
やっと意味が分かった。 一階のポストに書かれた「地主」という僕の苗字を見て、ここの主と思ったようだ。確かに「地主」と言うのは「大家」っぽい。ただ実際の僕は単に借りているだけだし、実家にいた頃だって、転勤族で一回も「持ち家」になんて住んだことが無い。だから、彼女に事情を説明して帰ってもらった。
その後、彼女が引っ越してきた様子は無かった。 彼女が引っ越してくれば、この華のない建物も少しは明るくなって幸せになれたと思うのだけれど。
しかし、「九州産高菜」を食べて上記の時は手に入らなかった幸せを手に入れた。 高菜のシャキシャキとした歯ごたえに、思わず背筋が伸び、その絶妙な辛みは白御飯自体の甘みを引き出している。白御飯と高菜が出会うことが出来て良かったと心から思う。いつまでも変わらぬ味でいて欲しいと願ってやまない、おにぎりだった。 ( 2010/11/22 21:00:00 )
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