自販機がビルと駐車場のすきまにある。 ぴったりである。
ぴったりだよなあ、ぴったりだよなあ、と思いながら夢中でシャッターを切った。 自販機を見てほしい。 街中にある自販機よりもかなり小さいものだ。 そしてすきまを見れば、こちらも狭い。 こんなものが入るのかと思えばこれがまあ、あんた。 ぴったりなのだ。 すきまに自販機、すばらしいぴったりである。
人はぴったりに弱い。 なぜあなたがそのセーターを買ったか、その靴を買ったか。 それはあなたにぴったりだったからだろう。 なぜあなたがその大学に通ったか、その会社に勤めているのか。 入ってみるとぴったりなことに気づいたからだろう。 ぴったりに出会った瞬間、人は止まる。 止まって「ぴったりだあ‥‥。」とぴったりにひたる。
バカだろう。 だが心配しなくてもいい、みんなそうだ。 ぴったりの前ではみんな平等にバカだ。 そういう意味では平和でもある。 ぴったりは平和である。 ジョン・レノンである。 オノ・ヨーコである。 そして二人はぴったりである。 ジョンとヨーコがぴったりだったから「‥‥平和。」とか言い出したのである。 ジョンとヨーコの言う「‥‥平和。」とは「‥‥ぴったり。」と言い換えることもできる。
写真のぴったりを見てみよう。 そしてジョンの歌う"imagine"(「ぴったりを想像してごらん」と歌った名曲)にならい、ぴったりの瞬間を想像してみよう。
この自販機を設置したときの光景を思い浮かべてほしい。 ジュース会社の担当者と土地所有者の間にはさまざまな駆け引きがあったことだろう。
渋谷という一等地、しかも目抜き通りに自販機を設置するのだ。 これは営業マンにとって大きなチャンスだといえる。 しかし土地所有者にとってもすきまとはいえ大事な土地だ。 マージンについて譲れない部分があったことだろう。
「7掛けでいかがでしょう。」(以降すべて妄想です) 「いや、あんた6いかないとさ、ほら、ジュースの入れ替えもあるでしょ。」 「いやいやいや、補充はこちらでやります、専任の者がいるのです。」 「だとしても文句言われるのはこっちだよ、予備のジュースもどこかに置かないと。」 「いえ、補充に関してもこちらはプロです。切らすことはありませんし何かあっても電話一本で駆けつけます。」 「じゃあそれはいいよ、切らしたらぶっとばすってことでいいよな。けどこのすきま見てよ。あんた普段の半分のサイズでいくって言ってたよな。そしたら単純に考えて半分しか売り上‥‥」
ズシーン。
設置間際までこんな会話がなされていて、そして設置である。 土地持ち、営業マン、設置業者。 3者の目がすきまに注がれ、時間が止まる。
ぴったりの瞬間である。
まずはビールで乾杯しよう♪ サンバのリズムで踊りだそう♪
ミュージカルが始まる。
ピーピーピピッ、ピーピーピピッピー♪(サンバホイッスルで) オアオオオアオオオアオオオアオオ♪(穴に棒を抜き差しする変な楽器で)
そんな感動のカーニバルがあったことを私たちは知らない。 しかし世のぴったりにはそんな感動がある。
※文中のジョン・レノンについての記述には嘘が多いので気をつけて。 ( 2007/01/24 08:00:00 )
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