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はっけんの水曜日
 
箸が転がり、M字開脚するカラクリ人形

「好き」を仕事にする

やがてある人から薦められた本が、日本のオートマタの第一人者による「摩訶不思議図鑑―動くおもちゃ・オートマタ 西田明夫の世界」というもの。これは面白い!とさっそくボール盤と糸鋸を買い、本のとおりに作ってみたそうだ。私も買ってみたのだが、作例通りの型紙が載っているとはいえ、木材と工具を買って作り始めるのはなかなかの決意だ。

原田 「できた作品を、ご本人のところに持っていったんです!で、ほめてもらって。今後も西田さんの作例を全部作ろうと思っていたんですが、『どうせならオリジナルなものを作れば?』と妻に言われて、そりゃそうだなと」

その初の作品を、お爺様である二三(にぞう)氏にあげたら喜んでくれ、そのお爺様の名前をとって「二象舎」と名乗ることにしたという。おっと、思いがけずいい話が出てきた。


奥様と。奥様は「酵母スイーツ」(共著・学陽書房)という本を出されている。手作り夫婦だ。

オートマタ作家・原田和明の誕生である。さあやっとオートマタの話が出てきた!

なんと、その後会社を辞め、イギリスへ渡るのである。

原田 「西田さんから聞いたイギリスの有名な作家の作品に惚れ込み、 その作家(マット・スミスさん)に弟子入りの嘆願をメールで送ったんです」

なんという行動力か。 最初は弟子入りを断られたものの、 マットさんの住む町にある芸術大学院に入学し、 マットさんのもとへ遊びにいっているうちに弟子入りを果たす。

原田 「念願かなってイギリスの大学院に行って思ったけど・・・あんまり学校は関係ないなと思いました。 入ってすぐ辞めようかと」
乙幡 「そんなもんですかねえ」
原田 「マットさんからは色々なことを学んだのに比べると 学校の先生は、とにかく、新しいもの作れと繰り返すばかりで。 そんなに簡単にできれば苦労しない(笑)。」

帰国後すぐにオートマタ収集家の目に留まり、そこから少しづつ他に知られるようになったという。だが、国内より海外のほうがオートマタコレクターは多いんだそうだ。こんな、見た目も面白くてしかも動かせるオブジェ、知らないのはもったいないと思う。

 

ラフ・ラブ

ここでお楽しみ、作業場チェックだ。おお、ボール盤やジグソー、その他何の道具かわからないものがひしめきあって、とてもステキです…。

ところで、ぜひ見せてもらいたいものがあった。作品デザインの、ラフである。作品として完成したものも、未完成のも、他人のラフは見ていて楽しい。「描いたはいいけど、気持ちが冷めちゃって未完なもの」とか、個人的にはかなりシビれる類である。


うらやましい日常風景。

やはり絵がうまくて、かわいい。
フランケンが博士の首を締めようとするが振り向かれ、えへへと笑ってごまかす、というオートマタ。ここまで描いたけど飽きたので完成せず。

【作品名「匙を投げる」】

すごい勢いで投げられる匙。内部はあの「黒ひげ危機一発!」を分解して参考にしたという。バネを下げる動きは「ウィング式コルク抜き」もヒントにしたとのこと。いろんなものからヒントを得ている。


 

【作品名「空気の彫刻」】 

上部から下がるパイプの先っちょに注目。なるほど「空気の彫刻」ですか。



それにしても。例えば私が、こういうものがこう動くといいなー、とデザイン画だけは描けたとしよう。でも、その対象物が理想どおりオートマタとして動けるように、どう設計に落とし込むのか?そこが謎である。

原田 「『メカニズムの辞典』(理工学社)という、仕組みの図鑑、みたいな本があるんです。その作例をアレンジしたり、応用しながら考えるという感じでやってますね。最初はパソコン上で設計図を描いてたんですが、その通り作ってもうまくいかないことも多い。歯車の軸の位置をどこにするかは、きっちり計算するより、軸穴を最初にたくさん開けておいて一つ一つ試してみたりしたほうが早いんです。」

素人はどうも、“確立された権威ある計算方法”がガンとして存在し、そのとおりやらねばならぬもの!という固定観念を勝手に抱いて、畏怖して、「やっぱ難しいんだろなあ、やーめた!」となってしまいがちである。私だけか??

でも、とにかくやってみることが有効なのだと作家さんからじかに話を聞いて、気が楽になった。作りながら考えていく方法でも、いいんだ。

原田 「最近は、デザイン画も描かずにいきなり作り始めたりしちゃいますけどね。」

スタン・ハンセンか。

もちろんそれはたゆまぬ制作の結果。同じくラフも描かずにあてずっぽうに作り始める私とは性質が違うのである。


もう何がなんだか。
「基本の動き」たち。科学館での展示用に制作したもの。



これからどんなものを作りたいか聞くと、「かっこつけず、バカバカしいものを、真面目に作っていきたい」という、なんだかうれしくなってしまうような返事だ。いいぞ、二象舎!頼むぞ!という気持ちになった。


次は楽器オートマタに挑戦中。これらのデビューはいつだろう。

ダジャレとかバカらしさを題材にはしていても、確かな技術と素敵な作風。いったいどんな方なのだろうと思って話を聞きに行ったら、親近感の沸くような迷い話もあり、ブタさんやアヒルさんとか作っていながら妙に毒あるなぁという裏話も聞いたり。この面白さの一端でもおわかりいただけたら幸いである。 「完成度が高いからこそ冗談が映える」というところ、ぜひ見習わせていただきたいと思う。


・二象舎さんのサイト https://www.nizo.jp/
ここで紹介した以外にもたくさん、作品が載っています。お金を貯めて、いつか私もオーナーに。


・二象舎さんの告知

「木もれび展」
木を素材とした、オートマタや家具、版画などのグループ展です。お近くの方はぜひ。

3月19日(土曜日)ー27日(日曜日)
午前10時ー午後8時(最終日のみ18:00まで)
山口県下松市 ザ・モール周南 星プラザ3F イベントホール
詳しくはこちら https://blog.nizo.jp/?eid=1214375


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