流れを読む猿
ステージでは調教師が猿にあれして、これしてと口で言う。 猿に言葉が分かるわけが無いのに、猿は言われた通りにやる。言葉が分かるのか、と不思議に思う。そんなはず無いのに。
分かっただろうか? 同じ輪投げでも取った後に、腕にかけるか、首に入れるかを猿が理解している理由が。僕はステージを見ている時は全く気がつかなかった。言葉が通じている、という説得力さえそこにあった気がする。でも、キチンとサインがあるのだ。口で猿に伝えるのはあくまで演出なのだ。
僕なら見過ごすようなサインだ。 答えを知ってから見ると確かにそうなのだけれど、ステージではその差には一切気がつかなかった。教えてもらった時に「へぇ〜」と自然に発してしまった。もっとも腕だろうが、首だろうが輪投げすること事態すごいのだけれど。
ただサインだけが全てではないそうだ。 長く一緒にやっていると、流れを読んだり、次はこれだろうと猿から動くらしい。たとえば椅子片付けて、と猿に言うと当たり前のように片付ける。僕が弟に「明日電話ちょうだい」と留守電を入れても弟は全然電話くれないので、猿の方が賢いと言える。
かわいい!
先の写真を見てもらうと分かるように、僕が調教師役をやっている。このお猿さんは人間で言うと中年で芸暦が長く、隣に調教師がいることなどで、僕の指示でも芸をしてくれた。
これがなかなか気持ちがいい。 本来僕は動物が怖いのだけれど、「かわいい」と抱きしめたくなった。一目ぼれの経験が無いのだけれどこういうことなんだろうと思った。お猿さんに一目ぼれだ。
猿の手をマジマジと見せてもらった。 ここでは誰でもステージの後で猿と握手ができる。僕は初めて猿の手を握ったのだけれど、温かく柔らかいその手にますます「猿かわいい!」と思った。初めて女性の手を握ったとき柔らかいと思ったのだけれど、猿の手の方が全然柔らかい。赤ちゃんの手のようだ。
先にも書いたようにこのお猿さんは毛づくろいが好きだ。 いくら好きでもステージ中は「毛づくろい」はしない。しかしステージが終われば猿の自由にさせるそうなので、毛づくろいが始まる。そして、その毛づくろいの対象は猿だけでなく、調教師だったりする。
僕は動物が怖くて怖くて仕方がない。 それがこのお猿さんとはまるで友達のように接することができた。友達が一人もいなかった高校時代にこういう友達が欲しかった。休み時間になると、一緒に輪投げをして、毛づくろいをするのだ。素晴らしい高校生活だ。そんなことを考えるぐらいなので、僕の「動物怖い」は治ったのかと思ってしまった。