1日で30〜40万稼ぐ
「猿は1日で30〜40万稼ぐから」と社長は言う。 「東筑波ユートピア」は場所の問題であまり人が来ないそうだけれど、営業等に出かけるとそれくらい稼ぐらしい。「人間は1カ月でもそれくらい稼げない人もいるでしょ?」と社長は続ける。それは僕だ。半分も稼いでいない。猿に負けた。完敗だ。
今いる従業員のほとんどが「専門学校」を出た後に入塾したそうだ。専門学校と聞いて「モード学園?」と思っていたら、動物園・水族館の飼育員やトレーナーになるための専門学校があるそうだ。その後、ここにやって来るわけだ。
助野さんは専門学校でイルカの調教師を目指していたそうだ。ただイルカの調教師はとても倍率の高い職種らしく、ここで働くことになったとのこと。
なんでここに? と聞くと「動物園と聞いていて…」と苦笑いしていた。ここに来て初めて猿芸を学んだのだそうだ。今では「東筑波ユートピア」のエースだ。
助野さんは26歳。 「東筑波ユートピア」のエースで結婚していて最近子供も生まれたそうだ。先に書いた「猿は仲間という感覚」と言ったのは助野さんだ。確かにこのまま海にドライブに出かけそうなほど仲がいい。
ちなみに僕は25歳。 何のエースではないし、結婚もしていない。この差はやっぱり猿だろうか。僕も猿を仲間にすればその差はなくなるのだろうか。ジョン アーヴィングの小説「ホテル・ニューハンプシャー」では結婚するには熊が必要と書いてあった。日本では猿なのかもしれない。
熊VS猿のはなし
敷地内に「猿芸塾」と看板がかかった建物があった。 ここに窓の無い部屋があって、そこで猿に芸を教えるのだそうだ。それも夜、薄暗い電灯の下で1対1で行う。それが一番猿の覚えがいいらしい。
また「厳しく」教えるだけでは、猿も気を病むらしく、その辺のテクニックに企業秘密があるのだろう。ちなみに僕は褒められて伸びるタイプだと思っている。
社長は、猿は気を抜くと襲って来る、と言っていた。 「え!」と思う。それ怖いじゃん。でも、芸を一度覚えさせるとずっと覚えているそうだ。逆に熊はすぐに忘れるらしい。「熊は全部忘れて襲って来る」としみじみと言っていた。なら断然猿だ。
助野さんは「自分が担当の猿は襲ってこない」と言う。 でも、他の調教師の猿に自分が近づくと噛まれることもあるそうだ。猿なのに猫をかぶって担当の調教師の前ではいい子なのだ。でも、調教師がいないと悪い子。怖い! そりゃ、鬼を倒すはずだ。
努力の結晶を見る
猿と信頼関係を高め、根気よく芸を教え、ようやく一人前の調教師となる。「東筑波ユートピア」では一日に数回猿芸を行っていて、努力の結晶ともいえるステージを見ることができる。
そういう話を聞いてから見るステージは、最初に見た時より輝いて見えた。怠け者の僕には眩しすぎて直視できないくらいだ。