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ロマンの木曜日
 
ダムの形式を解説します(人体で)

アーチ式コンクリートダム

見た目にも派手でかっこよく、ダム好きにもそうでない人にも人気の形式だけど、もし、たまたまバーのカウンターで隣り合った女性に「ダムの構造を言葉で説明するとしたら、どれがいちばん難しい?」と訊かれたら、僕は間違いなくこの形式を挙げるだろう。もちろん銭湯でおっちゃんに訊かれても同じだ。


日本最大のダムもアーチダム ハードな構造物だけど曲線美で和む

アーチダムの構造をWikipediaで調べると、

主にコンクリートを主要材料として使用し、アーチ止水壁にかかる水圧を両側面の岩盤で支える型式のダム。

とあって、まあ頭の中で何となくイメージはできるけど、人に分かるように説明するのは苦労する。

僕もかつて、「ピンポン球を1/4に切った形」と言ったら「そんな小さくないですよね?」と言われたり、「プラスチックの下敷きは平らだとペラペラだけど湾曲させると固くなるじゃないですか」と説明したら「でもダムはコンクリートじゃないですか?」と言われたり、もう完全にお手上げ状態なのだ。

だけど、こうしたらものすごく分かりやすくないだろうか。


アーチダム参上!
見事にアーチ&オーバーハング!
水圧を左右に分散してやり過ごす!

ここでも役割は重力式と同じ。


石川
コンクリート
工藤
コンクリート
安藤
コンクリート
橋田
貯水池の水
萩原
ダムマニア

解説すると、工藤さんが受けた水圧はスクラムを組んだ安藤さん、石川さんに伝わって、さらに安藤さんの右手右足、石川さんの左手左足から、その横にある(であろう)岩盤に伝えられる。3人とも水圧に足で対抗することはなく、両脇の岩盤にもたれているだけなのだ。


この合成が思いのほかうまくいったので大きくした

アーチ式コンクリートダムも中空重力式と同様、コンクリートの量を減らすことでコストを下げるために生まれた形式。一見して分かるように、ダム本体は重力式とは比較にならないほど薄く、コンクリート量は圧倒的に減らすことができる。


下に行くほど分厚くなる重力式に対して アーチはほとんど厚さ変わらず

それならみんなアーチにしちゃえばと思うけど、自らの重さで水圧を支える重力式に対して、アーチ式は水圧を両脇の岩盤が受け止める。つまり水圧に耐えられるかどうかは岩盤にかかっているわけで、とても強固な岩盤の場所でないと建設できないのだ。実際、アーチダムの歴史の中では岩盤が水圧に耐えられず崩壊、支えを失ったダムも倒れて大きな災害になった事故も起きている。

そして、日本ではもうアーチダムが造れるような固い岩盤のダム候補地がなく、残念ながら現在計画されているダムの中にアーチ式は存在しない。しかし、この地震多発国で培われたアーチダム設計、建設技術は世界でも屈指で、このまま歴史に埋もれてさせてしまうにはあまりにも惜しい。

誰かアーチダム、造りませんか。


重力式アーチダム

その名の通り、重力式ダムとアーチ式ダムを合体させた形式で、外観もそのまま重力式をアーチ型に曲げたような形。


アーチしてるけど下に行くほど厚くなる 重力式以上にどっしりと安定感がある気がする

この形式のよくある説明としては「水圧を重力式の堤体で支えながら、アーチで両側の岩盤にも伝えることで、純粋なアーチ式ほど岩盤の強度に依存せず、重力式に比べてコンクリート量が削減できる」という、そんな都合のいい話あるのかよ、と言いたくなるもの。

実際、日本で造られたのは少数で、一般的な形式とは言えない。アーチ式も重力式もそれぞれ熟成されている形式なので、アーチ式を造れるならアーチ式、造れないなら重力式とした方が話が簡単だったからじゃないかと思うけど、どうだろう。

あと関係ないけど、僕はこの形式が大好きだ。


好きすぎてダムの真下に入れてもらって写真を撮らせてもらった

ここまでで、それぞれの形式が理解できていたら必要ないかもしれないけど、いちおう身体で表すならこんな感じである。


一見重力式に見えるけど
若干アーチしている
水圧にもすっかり余裕が出てきた

もちろん役割は重力式やアーチ式と同じ。


石川
コンクリート
工藤
コンクリート
安藤
コンクリート
橋田
貯水池の水
萩原
ダムマニア

解説するまでもなく、そのまま重力式をアーチ型に曲げた形。さっきのアーチがやや前のめりだったのに対して、片足を前に出すことで抜群の安定感。身体で表すダムでは、これがいちばん水圧に強そうだ。心なしか3人の表情にも余裕が見てとれる。

ただずっと水圧係で押し続ける橋田さんに申し訳なくなってきた。


バットレス式ダム

ダム好きでなくてこの形式を知っている人がいたらちょっと驚く。というくらい珍しい形式。


下流から見ると外観は格子状 この1枚板が水をせき止めている

これもコンクリート削減のひとつの結論なのだけど、あまりに構造が複雑で、建設もメンテナンスも手間がかかるため、昭和初期に数基造られただけで現在は開発されていない形式だ。

具体的な構造はWikipediaによると、

複数の扶壁を連ね、上流面の遮水壁を扶壁が支えることによって水圧に耐えるという構造を有する。扶壁は河床に垂直に立てる他、垂直扶壁を支えるための扶壁を水平に設置する。従って格子状の外観となる。

とあるけど、これはまったく分からないと思う。「扶壁」自体がどういうものか普通は知らないだろう。

簡単に説明すると、

  • 鉄筋コンクリートの1枚板で水を受け止め
  • その板をいくつも並べた柱で倒れないよう支え
  • 柱と柱は梁でつないで格子状の外観に

というわけで、やや悩んだ末、こう表現してみた。


フュージョン!...ではなく無理矢理バットレス!
工藤さんは水をせき止める1枚板
前の2人がどこまで耐えられるかが勝負

ここで初めて役割が変わる。


石川
扶壁と梁
工藤
遮水壁
安藤
扶壁と梁
橋田
貯水池の水
萩原
ダムマニア

これはちょっと難しかった。扶壁をどう表現したらいいか迷った挙げ句、いちばん遠そうなフュージョンポーズにしてしまったけど、あとから考えるとバットレスダムの例で写真を出した笹流ダムに似せたかっただけだ。

でも1枚板をいくつかの柱が支えている、というこのダムの基本構造は伝えられたかな、と思っている。


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