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ひらめきの月曜日
 
パチンコ屋のある風景を切り取って

気づいてほしいと小さく叫ぶ奇跡

角度を変えると違ったものが見えてくる。考え方のヒントとしてしばしば言われるフレーズだが、今回の記事で言いたいのはもっと具体的なことだ。 言葉とは切り取り方で別のものに生まれ変わる。これはもう小さな奇跡と呼ぶべきものではないか。

独特の書体の「GINZA」の文字がまず目に飛び込んでくる写真。かっこいい。そういう印象でとりあえず正しいはずだ。

そんなかっこよさを醸し出しつつ、写真左上に見切れる縦長の看板の文字は親しみやすい丸ゴシック体。大きく表出したかっこよさ の片隅で、小さくフランクさが同居する一枚だ。

左上の文字の色が赤であるのは、小さいながらも内にたぎる血潮を暗示しているからだろうか。つるんとしたテクスチャに隠された内面には、熱いものが迸っているのかもしれない。

 

このページの冒頭で述べたように、今回はいわば小さな奇跡たちを紹介しているわけだが、この写真は奇跡が二重に起きている珍しい 例だ。

一人に一つでいい物が、ここには二つある。天は二物を与えたのだ。

風景の切り取り方も不自然なものではなく、黙っていればどこにでもある街の風景にしか見えない。そうした点もこの写真の奇跡性をより高める。

書体、色づかいともクラシック。主張がありながらも奇を衒うことはない。ありふれた街に潜む、奇跡の二乗。

 

湧き立つような夏の空気と異なり、秋の空には決して過剰に陥らない青さがある。自分の中にある詩心を無理に発動してそんなことを書いてみたが、 それとは全く関係なくこの写真も文字列が見切れている。

これと言った特徴もない一枚。青い空と見切れた文字。せめて言えば、悪景の代名詞のように言われる電線も、五線譜のように見えはしないだろうか。

見えたとしても、見切れた文字とは関係がない。

女心と秋の空、その変わりやすさは昔から言われること。そんな警句ともまるで関係なく、文字列は見切れ続ける。

 

改めて言うまでもなく見切れている文字は、太いゴシック体。こうして見ると、やはりこの書体こそが読み取れる文字列の意味とのイメージ に重なりやすい。

力強く太いゴシック体で、はっきりとチンコ。男かくあるべき、と無言で語っているようにも見える。

本当にそう見えてきている人は騙されているだけなので、気をしっかりもった方がいい。

陰部という呼ばれ方もあるように、それは世において秘され、隠される。そんな後ろ暗さを拭い去ろうとしたかのようにあしらわれた花鉢。 さらに後ろには雄大な自然の風景も見える。

しかしそれで、小さく見える文字列の意味を打ち消すことができるだろうか。無駄な抵抗でしかないのではないか。

頭の中にはそんな否定的な解釈も湧いてきてしまう。もう一度、遠景から順に確かめよう。緑豊かな自然、花冠を戴いた花器、そして左上のCHINCO。

混沌と均衡とが溶け合ったような一枚。いよいよ言ってることがわからないのは、心に和解が訪れたからだと解釈して、この旅を終えることにしよう。

日暮れに遅れてやってきた秋夜の闇。自転車置き場の白い光と対照的なチンコデー。

これまでずっと気になってきたことに決着をつけるべく行った心の旅に、最後まで付き合ってくれた読者へ感謝を述べたい。いや、感謝というよりもそれは、どちらかというと「すみませんでした」という謝罪に近いものかもしれない。

この記事を読んでくれた全ての方に、これからパチンコ屋の前を通るたびに余計な気持ちが起きることを祈念し、筆を置きたい。


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