バスと徒歩、雨に降られて大野見へ
トマトで人心地付いた後、バス停の前でしばらく待っていたら、大野見行きのバスがこちらに向かってやってきた。運転手は私の姿を認めると、バスを停車させて後部の扉を開ける。乗客は誰もおらず、私は迷わず一番前の席に腰を下ろした。
バスは四万十川沿いの道を走って行く。一応県道ではあるけれど、その道はかなり細い。特に四万十町と中土佐町の境辺りは極端に狭く、普通の車ですら不安を覚えそうな狭隘路。
その狭い道路を、バスはうまい具合に進んで行く。田舎のバスの運転手ほど、運転がうまい人はいないのではないだろうか。
なお、このバスの終点は、中土佐町大野見地区(旧大野見村)の中心地である大野見だが、やはり乗り物で一気に行ってしまうのは味気無い。ここでも途中の集落で下車して、そこから大野見までは、歩いて行こうと思う。
中土佐町に入るまでは、太陽が出て青空も見えていたが、四万十川を北上するにつれて次第に空模様は怪しくなり、ついには雨が降り出してしまった。しかもこれが、結構な大雨である。
雨はしばらくして止んだが、空にはいまだ厚い雲が立ち込めている。すぐにまた降り出しそうだなぁと思っていたら、案の定、雨は止んでは降って、止んでは降ってを繰り返し、私はその度に雨宿りを強いられた。
窪川からのバスが終着する大野見には、正午過ぎに到着した。大野見からは、四万十川のさらなる上流、津野町の船戸集落へバスが出ており、今度はそれに乗り換える。
しかし、やはりというか、何というか、どうやら源流域に近づくにつれ、その道のりは険しいものとなるようだ。船戸へのバスは一日二本。次のバスは14時10分と、またもや2時間近くも後である(そしてこのバスが、その日の最終バスでもある)。
ここでも私は、待ち時間を有効利用しようと、バスに先行して歩いて北上する事にした。
旧大野見村役場の前で昼食を取った後、再び四万十川に沿って歩く。途中、思わぬところで沈下橋を発見し、思わず小躍りしてしまったが、その次の瞬間、またもや土砂降りの雨が降ってきて、私は近くの資材置き場に駆け込んだ。
四万十川の上流域は、日本有数の多雨地域だそうだ。この雨が、四万十川の豊富な水量を支えているのだろう。しかし、その川を遡ろうとする者にとって、雨は辛い試練でしかない。太陽が出ていないのは、暑い季節、歩くのに良いんだけどね。
まさかこんな所に乗客がいるとは思わなかったのか、バスは私を素通りしかけた。私は慌ててバスを止め、何とか乗り込む。やはりこのバスも、乗客は私の他にいなかった。
私は、高樋集落の手前で下ろしてもらった。ここにある高樋沈下橋は、四万十川に架かる沈下橋の中で、最も上流に位置するものだ。河口付近ではあれだけ広かった川幅も、上流ではここまで狭まった。いよいよ、源流域に近づきつつある。
バスを降りた高樋集落より徒歩で6km強。ようやく私は国道197号線に到達した。国道197号線は、津野町を横断する幹線道路で、この道路と四万十川が交差する地点に本日の目的地である船戸集落があるのだ。
船戸集落を出ると、後は源流までひたすら山道を登るのみ。すなわち船戸集落は、四万十川源流点までのベースキャンプと言える存在だ。とはいえ、もう日が傾きつつあるので今日はここまで。源流点へのアタックは、明日に持ち越しとなる。
ちなみに、このコンビニには「四万十川源流に最も近いコンビニ」と書かれた看板が掲げられていた。しかしながら、河口の中村市街地を出て以来、私はコンビニの類を見た覚えが無い。中村を発って180km、まさかこのような源流付近において、再びコンビニを目にできるとは。妙に感慨深いものがある。
なお、このコンビニの前を通る国道197号線は、津野町の西隣にある檮原町から高知市までの路線バスが走っている。今日はそのバスで須崎という町まで下って宿泊し、明日の朝、再びここに戻って来ようと思う。
私の四万十川遡上も、いよいよ佳境だ。