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フェティッシュの火曜日
 
マイナス50℃体験と南極基地の食べ物事情

 

伊村さん。研究分野は南極のコケについてだそうです


1ページ目にも載せましたが、ある年の越冬隊の人数の内訳はこんな感じ。意外と観測部門が少ないんです


新砕氷艦「しらせ」。オーストラリアからこれに乗って南極へ向かいます(もちろん模型)


ちょうどライブチャット中の写真に野菜の栽培現場が写ってました。おいしそうに育ってます


作業してるとペンギンがよく通りがかって、興味深げに覗きにくるそうです


そういえば昭和基地って南極大陸じゃなくて、大陸の近くの島にあるらしいですよ!(って写真とは関係ないですがどうしてもお伝えしたかったので!)

 

南極の暮らしインタビュー

インタビューに応じてくれたのは、極地研の准教授、伊村さん。夏隊・越冬隊(あとででてきます)あわせてこれまで6回の観測隊経験をお持ちだ。

石川(以下、石)「最近南極に行かれたのはいつですか?」

伊村さん(以下、伊)「2007年の11月から、2008年の3月までです。49次隊の夏隊長をしていました。」

観測隊には夏隊と越冬隊の2種類がある。どちらも11月に日本を出て、夏隊は4ヶ月ほどで帰国、越冬隊はそこから1年間を南極で過ごして、翌年の夏隊と一緒に帰ってくる。夏隊長というのはその夏隊の隊長である。ちなみに冬の寒気を表す「冬将軍」とは語感が似ているが関係ない。

石「観測隊のメンバーはどんな人がいるんですか?」

伊「観測を担当する研究者はもちろんですが、設営系と呼ばれる、研究以外の専門家も多くいます。」

たとえば基地の建物を維持する建築の専門家や、車両の整備の専門家、医師、隊員の食事を作るコックさん、それに事務作業をする「庶務」なんて役もある。それらの専門家がみんなで協力することで、南極での研究は成り立っている。

伊「限られた人手しかありませんから、各分野の専門家がお互い助け合って、南極での研究を維持しています。」

たとえば建築。研究のためのいろんな設備の設営も必要だし、昭和基地はもう築50年以上経つので、修繕作業もこなしていかなければならない。それなのに、建築作業ができるのは夏の間の2ヶ月間しかないのだ。その時期には研究者も一緒になって建築を手伝うそうだ。ほかにも、限られた人数で生活していくためには助け合いが必須。中には調理の手伝いをするうちに料理に目覚めてしまう人など、新たな趣味となってしまう人も多いのだとか。

南極での食べ物事情

石「食べ物はどうしているんですか?」

伊「日本から持って行きます。長期保存するので材料は冷凍のものと乾き物がメインですが、公募で選ばれた腕のいいコックさんがいるので、おいしいものが食べられますよ。日本にいるよりおいしいものが食べられるんじゃないか、ってくらいです。」

極地ということで宇宙食みたいな変わった食べ物があるのかと思っていたのだけど、食べものはいたって普通、しかもかなりおいしいものを食べているようです。特においしかったものは何ですか、ときいてみると、

伊「最初のうちはコックさんが自分の腕前を披露しようといろいろ凝ったものを作ってくれるんですが、けっきょく人気メニューは日本の家庭料理に落ち着きますね。いわゆる「おふくろの味」なもの。」

そんな意外に充実している南極での食事だけど、でもやっぱり食べられないものはある。中でも恋しくなるのは、保存の利かない生野菜と生卵だとか。南極で1年過ごした越冬隊のもとには、翌年の隊員がやってくるときに一緒に新しい食料も運ばれてくる。そのときに大人気になるのが、卵かけご飯と千切りキャベツなんだそうだ。

最近では基地内で野菜の栽培をしたり、自室で趣味でモヤシやシイタケ(!)を育てて、みんなにふるまう隊員もいるそうだ。

南極つらいこと・たのしいこと

食べ物には意外に不自由しないようすの南極生活。逆に、南極生活で不便なこと、つらいことってなんだろうか。

伊「不便なのは、まったく物の補給がないことですね。たとえばパソコン。乾燥しているので静電気がおきやすく、壊れやすいのです。一度壊れると修理しようにもスペアの部品がないのでどうしようもありません。パソコンは必ず2台以上持っていくようにしています。

それからつらいのが、一年のうちで1〜2ヶ月、まったく太陽が出ない時期があるんですよ。白夜の逆ですね。その時期に生活のリズムが取れなくなって、不眠症になる人が多いんです。頭はボーっとしてくるし、食欲もなくなって…あれはつらいですね。」

どちらも極地ならではの悩みだ。

南極たのしいこと

せっかくなので楽しいこともきいてみよう。

伊「基地内にバーがあるんですよ。日本からお酒を持っていって、もちまわりでバーテンを決めて運営しています。おのおのカクテルのつくりかたを勉強したりして。そこで過ごす時間は楽しいですね。

それから週末は休みなので、お弁当持ってハイキングに出かけたり、スポーツ大会やつり大会を開いたりしますよ。長靴に防寒具を着込んだモコモコの状態で、サッカーやソフトボールをやるんです。動きが鈍くて日本でやるのとは全然違いますが、それがかえって楽しいですよ。

基本的に娯楽は何もない場所ですから、みんなでいろいろ企画して、自分たちで楽しみを作り出すようにしていますね。」

話をきけば聞くほど、自分も南極に行きたくなってくる。行きたい人は自分の専門技術を磨いて、いつか公募に応募すれば行けるかもしれませんよ。

では、インタビューの締めくくりは、伊村さんに楽しいことをきいたとき真っ先に返ってきたこの一言で締めたいと思います。

伊「いろいろありますけど、やっぱり、いちばん楽しいのは研究ですね」

 

 

研究っていいですね

こういうイベントごとにしろ普段の取材にしろ、僕は研究者に話を聞くのが好きだ。理由はもちろん専門知識のおもしろさもあるんだけど、それ以上に、自分の研究のことを話してくれるとき、みんなすごく楽しそうなのがいい。この人ほんとに自分の研究分野のこと好きなんだな、って思う。

そんな研究者の方々に触れられる機会としても、一般公開は楽しいイベントでした。来年もやる予定だそうなので、みなさんもぜひ行ってみてください。

オーロラ(映像)もきれいでしたよ

 

 

 
 

 

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