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フェティッシュの火曜日
 
漁師という仕事を体験してみてわかったこと

魚を獲る以外にもやることはある

漁師の仕事というと、魚を獲るという部分しか知らなかったが、大野さんの仕事はそれだけではないようだ。


大野

うちのところでは、獲った魚をより高く買ってもらうために、魚の販売をするための会社も立ちあげたんだ。その会社が相場をみて、築地や船橋の市場に卸したり、イワシなんかは干物加工会社と直接取引をしたりしている。

  単純に獲れたのを全部漁協へ納めるんじゃないんですね。
大野 その会社をつくったばっかりの頃は、10何時間も漁に出て、戻ってきてそのままトラックに乗って運んでいたから大変だったよね。一日何時間も寝られなかった。
  それは死ぬと思います。

網が上がってきたところで、運搬船を横づけする。網船に乗っていた乗組員数名が運搬船に移動してくる。当然大興奮。魚!魚!魚! 巻き網に入った魚を、大きな手網で運搬船へと移す。ちなみにこの手網を持っている人がものすごい力持ちに見えるが、実際はクレーンとの共同作業。

大野 最近力を入れているのが、獲った魚のブランド化。
  いわゆる関アジとか、明石ダイみたいな?
大野

東京湾で獲れた魚は本当に美味しいから、その価値を少しでも広く伝えたい。だから脂の乗った大羽イワシ(でかいマイワシのこと)に「横綱鰯」という名前をつけて市場に出したり、スズキも生きているうちに神経抜きをして、「天然無神経、人なら最悪、魚なら最高」なんてシールを張って出荷したり。

  …なるほど。今、一瞬考えてしまいましたが、確かに人の目を引くキャッチコピーですね。
大野

この時期のスズキは本当にうまいよ。洗いにすると最高だよね。


獲れた魚はすぐに種類、大きさによって仕分けされる。 運搬船の中は巨大な生け簀とクーラーボックスになっている。ここに落ちそうになりました。

大野

俺は親父が漁労長だったから漁師になったんだけど、ヒラの乗組員だったころは、友人が普通の会社で働いている中で、自分だけ海の上にいて、みんなに置いていかれるようで不安で仕方がなかった。

  完全に陸の上とは別世界ですからね(と、知ったようなことをいう)。
大野 不安だから、船の上でウォークマンで英会話の勉強をしながら、日経新聞を読んでいたよ。勉強する時間はあるんだからさ。

鮮度を保つための氷も半端でない量を使う。 最後にデッキを掃除して終了。

海の上にいると、陸のみんなに置いていかれるという感覚。この不安を今の乗組員にも常に感じてもらいたいと大野さんはいう。

さて記事内の写真では巻き網漁が終わったのだが、これで一日の漁が終わったのではない。この網を入れて、魚を獲って、仕分けして、後始末してというこの一連の流れを、このあと何回も繰り返すのである。

野球でいったらまだ一回の裏が終わったところ。私も魚を獲ることは大好きだが、好きなことを仕事にできるかどうかは、それを何度も繰り返すことができるかどうかだよなと思った。

 
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