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はっけんの水曜日
 
宇宙エレベーターへの第一歩!競技会を見てきた

トライ&エラー、その果てに光はある

各チームとも、持ち時間は45分。その間にクライマーはバルーンまで昇り、しかるのち安全な速度で降下してこなくてはならない。この「安全」ということが、最重要課題のひとつだ。

トップバッターは「チーム奥澤」。チームとあるが、2名のみの社会人チームである。アジア初のSE競技会、その最初の挑戦者とあって、プレッシャーも相当だろう。報道陣も間近でカメラ構えてるし。


テザーをクライマーにかませる。ネジ止め等、いろいろやることが多そうだ。
よってチェックシートを用意してあった。さすがの手筈である。

このテザーのしなり具合、素人目には心配であるが・・・。


スタートは快調。だいたい半分くらいの距離までするすると昇って行き、会場からもどよめきが起こっていた、のだが。途中からは、高い位置な上にバックが白い空のせいか、進んでいるのかいないのか非常にわかりづらい状態に。

本部では双眼鏡で検分していて、「まだ進んでいます!」など実況が聞こえてくる。が、やがてその動きも止まってしまったようだ。


操縦もずっと真上を向いたままで、本当に大変である。

ここまで行っていたのだが!(バルーン近くの黒い点がゴール、下方の黒い点がクライマー)

帰らせる指示を出すも、それも効かず降りてこないクライマー。最後はテザー自体を皆で引っ張り下ろし、クライマーを回収した。

あとで奥澤さんに聞いたところ、「テザーがくるっと折り込まれたところにローラーが食い込んでしまい、降りるにも降りられなかった」とのこと。しかもそこで動かし続けたため、モーターも焼かれてしまっていた。


こんなふうにローラーが噛んでしまっていたのだ。
焼き切れたモーター。

奥澤さんは、過去に10回ものロボコン出場を経験しているツワモノ。それでも襲ってくる不測の事態。「5月からこの大会に向けて制作してきましたが・・・6千円のモーターが痛いですね。食費削らなきゃ、はあー・・・」

SEの発展をに貢献したい、見届けたい、という思いで今後も参加していくそうだ。しっかり食べてがんばってください!

次のチームは名古屋大学工学部。しかし今回は、スタート時から困難を極めた。


調整はなかなか思うように進まない・・・。
自分の調整をしつつも、気掛かりげな他のチームたち。

「5分経過しました」「10分経過」と本部からカウントされる。最初のうち私は「まあ45分あるんだから、そのうち準備も整って晴れてスタートだろう」と気楽に考えていた。が、「20分経過・・・」「30分・・・」と進むうち、あれ?どうしたどうした?

どうやら、テザーを昇るローラー部が滑ってしまうらしかった。材質の違うローラーに取り替えたりと、さまざま試みていたが・・・なんとタイムアウトに。

持ち時間45分あっても、またいろいろな場合を想定し尽くしたとしても、実際の現場に立つと、こういうこともあるのかと、厳粛な気持ちになった。


いっぽうで、完走を見ることもできた。日本大学理工学部チームのクライマーは、当初なかなか発進せず、これまたトラブルかと思われたがスタートしてみると、着実にテザーを上昇していく。すみません、動画を撮るのは失敗してしまいました。


テザーのテンションとの戦いがしばらくありつつも・・・。

ゆっくりではあるが、かなり安定して動作している。

ゴール後、日大の方にもお話を聞いてみた。今回のクライマーのポイントは?

「機体を分割できるようにして、テザーの端からでなく途中からでもセットできるようにしました。また、回転軸そのものにモーターを内蔵しているため、中継するギアがない。そのため効率よく動ける、というところですね」


中央のテザーを挟むようにして、手前と奥とに分割可能。
ローラー(右の褐色の部分)の軸(中央の黒い部分)にモーターを内蔵。個人的にも勉強になる。

構造をシンプルなものにする、それはすごく知恵を使うし難しいのだが、最終的には最強のものができあがると思う。自分も、物を作るときはシンプルに行きたいものだと思う。

昼休みを挟んで、午後の部に入ると状況が変わった。風が強くなってきたのだ。テザーが、大きくたわんでグラウンドの外にまで広がろうとしていた。

競技が開始されないまま、1時間、2時間たとうとしている。


えらい角度である。

私はてっきり、今日の競技はもう中止で明日に延期かと思った。だが、午後の部開始からずっと、役員の方がテザーを引っ張ったり、支え用のロープをより遠くまで引いて、なんとかテザーがまっすぐ立つようがんばっているではないか。

結局午後の1チーム目は、半分の距離のテザーでトライアルを行う、ということになった。ここから何かを感じ取らねばならない。

つまり、「無風でテザーがまっすぐな、良いコンディションでないと作業できない」ということではダメなのだ。悪いコンディションでも昇れるような開発をしていくのが理想なのだから。そして当たり前といえば当たり前だが、こういう地味な積み重ねが科学の発展を支えている、ということを目の当たりにした気がする。サイバーでフューチャー、なんてイメージで言ってる場合じゃない。

宇宙エレベーター、なんとプロジェクト開始後25年(テザーの材料開発は省く)で実現可能!?という試算もあるくらい、現実味を帯びたものとなっている。が、まだいろいろな問題(太陽からの電磁波・隕石などの地球外的要因、 ジェット気流・地磁気など内的要因、航空機事故やテロなど)も山積している。

今回の大会を見ても、機械と電気、それにコンピュータが組み合わさり、センサを内蔵したり事故や環境の変化に耐えうる機構を備えたりすると、制限内でのクライマーの作り込みは確かに難しいそうだ。

答えはない。探すのみ。だから、誰にでもアイデアを出す余地はある。もしかしたらハッとするような解答を、読者の誰かが持っているかもしれない。

宇宙エレベーターの実現に向け、この競技会は毎年行い、研究基盤を作っていきたいということだから、次回は君も挑戦してみないか?!

***

宇宙エレベーターについて、詳しくは協会のサイトへ

一般社団法人 宇宙エレベーター協会
https://www.jsea.jp/

学校向けに、レゴを使った「宇宙エレベーター実験キット」を販売しているそうだ。5mのテザー付きで、クライマー制作ができる!私も欲しい!と思ったけど学校限定らしいので一から作るしかないな。

キットのお問い合わせも、協会にて絶賛受付中だそうです。


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