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フェティッシュの火曜日
 
街の手触りを調査する

心の切断面にシンパシー

さて、ここからは、街中の壊れたものを触って行こう。壊れたものは色々とイレギュラーな感触がして面白い。
お酒を限界まで飲んで、やっとその人の本性がわかることがある。壊れ方にこそ、その物体が持つ特性がよく出るものだ。ちなみにぼくは泥酔すると、すこし高いところ(塀など)に登りたくなる。多分、人を上から見下ろしたいという願望の現れだと思う。

それでは、まず、これ。割れてしまった住居表示。


切なくなる。決して多くを語らない表示
ざらざらして、尖った感触。けれども優しさも感じる

触るまでもなく見た目がさみしい。壊れ方にも色々あるけれど、これは住所表示の用を足せない壊れ方だ。「川口市飯」だけ見ても、いかんともしがたい。あんまりおいしくなさそうなB級グルメみたいだ。(本当にあったらごめんなさい)

この割れた先を触ってみる。金属の断面特有の鋭さだ。もう住所の表示ができない悲しみが、そのまま鋭利さに出ているように思える。ただし、鋭利だけれど、触れているぼくの手を切る程ではない。人間に例えると、乱暴な言葉遣いをするけれども、決して人に手を挙げたりしないタイプだと思う。うーん、現実のそういう感じの人も、この住居表示と同じように、過去に深い傷を負っているのだろうか。ぼくは仲良くなれるだろうか…なんだかうっかり妄想が進みすぎたか?ぼくの目の前にあるのはただの壊れた住所表示だ。ともかく、そんな切なさを想起させる感触だった。


切断された住居表示のような心を持つ人のイメージ


腐食の崩壊は、不道徳な悦楽

次は、こちら。歩いていて強烈に引きつけられる腐食具合!


これは絶対逃せない。だんだんぼくもいい感触に対して敏感になってきているみたいだ。

なんかいやらしい感じの顔になってる
20年もの(根拠のない推定)のサビをはがしちゃう。贅沢な楽しみ

  • 鉄の柵に塗られたペンキ。
  • そのサビ防止のペンキの内側からサビてしまったパターンだ。特筆すべきは、このペンキのペリペリ感!
  • 触れると、微かな抵抗を伴うものの、簡単はがれてしまう。ガハハ、ういやつめ!
  • 何年もかかって作られる鍾乳石や、珊瑚礁なんかを破壊してしまう感覚は、きっとこんな背徳の楽しみを伴うものだろうか。とにかくこれは楽しい。明日また来ようかな。

儚く脆い、毒の手触り

つづいて、もう一件面白いサビを発見!


緑青(ろくしょう)だ!
銅のサビは、細い。繊細に崩れて行く

「町」のサビだけ、うすーく伸ばした。「原」と比べると違いが一目瞭然。いや、一目瞭然にする意味はないんだが

こんな風に探していると意外なものも発見できる。
なんてことないマンションの看板。でもぼくは見逃さなかった。この表面に出ているサビは、「緑青」!銅の特有のサビ方だ。たしか、毒がある、と聞いたことがある。

一瞬躊躇するが、毒よりも手触り優先なので触ってみる。鉄サビはしっかり鉄に食い込むようにくっついているのに対して、緑青は粉みたいに銅に付着している。パウダーをまぶしたみたいな付き方だ。触ると、はらはらと崩れていった。なんて繊細なんだ!ああ、やっぱり触って良かった!そして、すぐに手を洗おう!

それにしても、こんな、毒を出すものを身近に置いておくなんて、なかなか大家さんも度量が深いんじゃないか。それとも、後日ぼくが触った後の緑青を見て、慌てたりするのかな。


この後、緑青を家に帰って調べてみたら、どうやら別に毒ではないらしい。
なんだ、ぼくの出した勇気は全部自分の妄想に対してのものだったのか。
でも、こういうことって、日常的によくあることなので、気にしなこいとにする。
wikipedia「緑青」のリンク


無駄な逡巡

  • 先ほどのサビた柵といい、街中のサビって魅力的だ。
  • その金属の構造物が、ずっとそこに存在しているという証だからだろうか。
  • 目につく街の景色なんて、1年2年くらいですぐに変わる。でもそれじゃあ、サビは付かないだろう。
  • 時の流れのはしっこに、ぼくは触れているとも言えるのだ(すごくいいことを言っているつもりです)。

こわれたブロック塀がおいしそう

サビが2件続いたので、今度はこちら、ダイナミックな破壊の手触りをご紹介。こわれたブロック塀だ。


この不規則ななゴツゴツがシズル感をかもしだす
手触りに夢中で、あじさいがきれいに咲いていることにぜんぜん気づかなかった

どうだ、この素材そのままのザックリ感!
楽しいのは、その不規則な感触。デコボコが全く一様ではなく、触っていて一向に飽きない。そして、わずかに苔むしており、雨上がりのひやっとした湿り気がいいアクセントになっている点も見逃せない。
例えるならば、畑からもぎってきたトマトを、川で冷やしてかぶりつくような「自然そのまま」の手触りである。
『美味しんぼ』のキャラクターたちだったら「なんと野趣あふれる逸品!」とか言ってベタ褒めしてくれるだろう。


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