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フェティッシュの火曜日
 
「普段づかいの古文書」づくり

 

あれから1週間

ノートをいろいろな液体に浸した日から、1週間が経った。


浸した直後のようす
梅雨の性でなかなか乾かなかったため、翌日は浴室乾燥に移行

気がついたら妻の手によりキッチンに仲良く並んでいました
日が出たら日光浴を忘れずに

いろいろ場所を移し替えることによって、梅雨時ながらなんとか一通り乾いた。少しは日にも当たった。それぞれのノートは古文書になれたのかどうか、順に見てみよう。


 

表紙はちょっと色がくすんだ程度

筆者イチオシ、紅茶

1ページ目とは順番が前後するが、ここは成績がよかったものから順に見ていきたい。

なんといっても完成度が高かったのは、紅茶とコーヒー。クオリティは互角だが、個人的な色味の好みで、紅茶を最初にあげたい。

 


どう、この堂々の古さ
このガサガサした感じ

真っ白なページも、この味わい

すごいクオリティ。色といい、変形具合といい、申し分ない。あとはもうちょっと端のほうをボロボロにしたりすれば、古文書として差し出されても普通に信じるレベルだ。

全体に漂う枯葉みたいなカサカサ感。触ったら崩れそうなこの感じ、博物館でガラスケースに入れて大切に保管したい気持ちが湧いてくる。そうか、それが古文書か。

このページでは、古文書としての完成度の指標として、年代で表していこうと思う。これはだいたい280年くらい前の文書だろうか。(数字にはまったく根拠はなく、ほぼインスピレーションです)。

 


古文書レベル…280年前の文書

この古文書が書かれた頃のできごと
・ベーリング海峡(アラスカとシベリアの間)発見(1728)
・徳川吉宗の要望により、長崎に象が運び込まれる(1728)
・J.S.バッハ、ザクセンの宮廷音楽家に(1736)

 

表紙まで派手に汚れた

力強く古い、コーヒー

紅茶と並んで高い完成度を見せたのが、コーヒー。紅茶とコーヒー、どちらも小道具などで古文書を作る際の定番の材料である。

そして今回の実験、定番がその名前どおり、なんの波乱もなくトップを取る展開だ。「ノウハウ」という言葉に隠された滋味を思い知る。

 


紅茶よりさらに年代もの
火で焼けたかのような黒色

この点々が粉のあと

さすがのクオリティ。色づきは紅茶より濃く、さらに年代が経った感がある。力強さすら感じる。側面は黒く変色しており、火災などの被害にあった可能性もにおわせる。いろんなピンチを乗り越えて、現代まで受け継がれてきた文書なのだ。

そして粉を散らした部分。黒点でクッキリ残るかと思われたが、いい具合ににじんでうすくなり、それっぽいムラになっている。

紅茶よりは確実に古く、年代でいえば320年物くらいとしよう。

 


古文書レベル…320年前の文書

この古文書が書かれた頃のできごと
・松尾芭蕉、『奥の細道』の旅を終えて江戸に帰る。(1691)
・元号を元禄に改元。(1688)
・ドニ・パパンが初めての蒸気機関エンジンを試作。(1695)
・アイザック・ニュートン、重力の概念を提唱。(1687)


 

この時点でもう匂ってます

かおりたつ古さ、醤油

そして醤油。色で言えばコーヒーと紅茶の中間といった感じ。見た目はかなりいい感じである。

しかし大きな問題がある。あれだ、匂いだ。

この古ぼけたノートを手に取ったとたん、急に誰かがせんべいを焼き始めるのだ。むかし何かのイベントで匂いつきの映画というのを見たことがある(花の映像と一緒に花の匂いがしたりする)が、これは匂いつきの古文書である。当時の匂いをそのまま再現した…というこじつけもできないことはないが、正体は僕が先週塗った醤油だ。(もっといえば、妻の実家から送ってきてくれた醤油だ。)

ただやみくもに、おなかのすく匂い。ノートとしての実用性を考えるなら、午前中の打ち合わせを早く終わらせたいときには有効かもしれない。


ビジュアル的には申し分ないのだが
表紙の裏もこのとおり、いい色なのに…


古文書レベル…300年前の文書(当時の匂いつき)

この古文書が書かれた頃のできごと
・イングランド王国とスコットランド王国が合併、グレートブリテン王国に(1707)
・富士山噴火(宝永大噴火)(1707)
・徳川吉宗、徳川幕府8代将軍となる(1716)

 

 

下にあるのは新品のノート。ベージュに変わってるのがわかるでしょうか

ナチュラル派のあなたに、コーラ

「浸透後に酸の反応が進んで変色するのでは」というもくろみは見事に外れ、最初に浸したときとさほど変わらない色。

この色、経年劣化と言うよりは、ナチュラルな味わいのベージュ。生成りの布みたいな、なんというか「エコ色」である。目にも優しそう。もう少しムラがなければ、元々こういう色のノートだと思えたかもしれない。

むしろ年代を感じさせるのは、ボールペンの色移り。他のノートでも色写りはあったが、ここまでクッキリしたものはなかった。

紙が変色するほどではないけど、インクはにじむ程度の時間。5年前くらいの文書だろうか。


ボールペンの色移りは今日一番のくっきり
曲がり具合はなかなかよかったものの。


古文書レベル…5年前の文書

この古文書が書かれた頃のできごと
・山口県の養鶏場で鳥インフルエンザが発生(2004)
・アテネオリンピック開幕(2004)
・第2次小泉改造内閣発足(2004)
・ニンテンドーDSが発売(2004)

 

 

表紙は紙の痛みが少し激しいが、色はあまり変わらない

エコ&酢の物、酢

そしてコーラの方向性をもう1歩押し進めたのが、酢。紙の色がエコ色。かつ、コーラにあったようなムラがない。無印あたりの再生紙使用のノートといわれれば、信じられるかもしれない。

しかしそれも「鼻をつまめば」という条件付きだ。このノートからは明らかに酢の匂いがする。コーヒーや紅茶がそれほど匂いを発していないにもかかわらず、この酢のしぶとさはすごい。(もっとも、醤油には負ける)

一言で表すと、「先月から使い始めた無印のノートの酢の物」という感じだろうか。


これも結構ボールペンの色移りが激しい。酸が効いたのか
下が新品のノート。色は変わっているが、ムラがない分新品っぽい

古文書レベル…1ヵ月前の文書(の酢の物)

この古文書が書かれた頃のできごと
・福岡市で小中学生11人の感染新たに確認 新型インフル(6/7)
・阿修羅展閉幕 東京国立博物館(6/7)
・筆者、近所の本屋に行ったけど欲しい本がなかった(6/7)

 

表紙からしてちょっと穏やかじゃない

事件はまだ終わってない、絵の具

1ページ目で「被害者の所持品」と評した絵の具ノートだが、1週間経った今、改めて見てどう思うかというと、「事件から1週間が経った、被害者の所持品」である。

紙はくっついていて、めくるのに苦労した。空白ページに至ってはもう「血塗られた」という表現がぴったりである。

どんなにきまじめな人でも、このノートが道に落ちてたら確実に拾わないし、交番にも届けない。むしろ警察を呼ぶと思う。

 


めくるとペリペリと音がする
変な模様ができているのがまた生々しい

見方によってはいい風合いなのかも

ちなみにノートに「卵 食パン バナナ」と書いてあるのはダイイングメッセージではなく、文章素材として昔のメールを書き写していたら、たまたまこのノートで買い物メモのメールに当たっただけである。

さて、事件性を念頭に置いて見るとどうにもドキドキしてしまうこのノートだが、いったんそれを忘れてしまえば、左の写真のページなどはいい感じのムラがでているようにも見える。もしかしたら黄土色や黄色を使っていれば、もう少し違った結果になったかもしれない。

 


古文書レベル…1週間前の文書

この古文書が書かれた頃のできごと
・筆者、新品のノートを購入、絵の具に浸したら事件に
・筆者、サーバ設定の不明点を開発者に確認した
・筆者、16時から社外打ち合わせ、そのまま親睦会

 

 

酢の表紙と比較。もちろん左のテラテラ光ってるほうがオイル

キープオン油、オリーブオイル

そして最後が、このオリーブオイルだ。中山さんの例よりもずいぶん派手に漬け込んでしまったわけだが、1週間で果たしてどうなったか。

これがどうにもこうにも、1週間キッチンペーパーに吸い取らせても、未だ油漬け状態だったのだ。ノートのアンチョビである。

 


ページが全部完全にくっついている
引っぺがして開く。黄色いのは油が染みたからというより、表面にまだ油が残ってるから!

曲げたところ。紙が明らかに硬い

これでは比較にならないので、1ページずつ油を拭き取ってみる。紙がかなり変質しているのがわかる。硬さがなんだか硬くなったような気がするし、色も透明になった。ちょうどトレーシングペーパーみたいな感じだ。もっとも、この紙を使ってトレースすれば、元の紙は油まみれになるが。

この紙を見ていると、前頁のインタビューでの中山さんの「紙が強くなった」という発言の気持ちがよくわかる。

 


紙が透明になって、手が透けて見えます

トレーシングペーパーレベル…50%

ただし油ぎっている

 

 

無難に紅茶かコーヒーで

まっとうに古文書を目指したいあなたは、紅茶かコーヒー。食いしん坊なら醤油、ナチュラル派ならコーラ、サスペンス好きなら茶色の絵の具。そしてオリーブオイルについては、「こぼすのは仕方がないが、漬け込むのは愚の骨頂」だということがわかった。

そして実験がたいした波乱もなく予想通り終わってしまった今、この記事を書いたことによる僕の最大の収穫は、ベーリング海峡の位置がわかったことかもしれない。

 

取材協力:
中山晴奈さん(nextkitchen)
https://www.studionode.jp/nextkitchen/
美術館を中心にケータリングや食のワークショップを国内外で多数開催しています。

 

 

 
 

 

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