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ひらめきの月曜日
 
江戸時代の餃子を復活させろ!
230年ほど前の書物です。


写真は「卓子調烹方(たくしととのえかた)」というの古文書のコピー。江戸時代,、安永7年(1778年)に刊行された料理書です。

この料理書は中華料理に関する料理書で、日本で初めて餃子の作り方が紹介された書物とされています。

今回はこの書物を参考に江戸時代の餃子を再現した人に話を聞き、作り方を教わってきました。そのレシピも公開です。

吉成



なぜかインド料理の店で教わります

今回、江戸時代の餃子を教えて頂いたのは新宿でインド料理店の店長をされている江辺さん。


元々は中華の料理人をされていた方。野菜ソムリエでもあります。


江辺さんは以前中華料理店を出されていて、その時に江戸時代の餃子を再現されたそうです。今回はお店の休み時間に特別に作り方を教えて頂きました。

吉成「そもそもなんで江戸時代の餃子を再現しようと思ったのですか?」

江辺さん「きっかけは、ここ何年か、江戸ブームのなか、江戸検定を受けてみたり、堀川禮子さんの「江戸しぐさ」などを読んで江戸についての興味がわいてきました。自分自身、神輿が好きだったり、落語が好きだったり、自分の中の江戸的な部分を認識し始めていて、中華料理屋である私と江戸を繋ぐものが何なのかいろいろ調べてみようと思ったのが切っ掛けですかね。」


野菜が凄い速さで刻まれる。プロの技は凄い。後ろで見守るインド人もビックリ・・・したかどうかは不明です。


江辺さんが江戸時代の餃子を再現しようとして大学の図書館を訪ねて入手した資料が最初に出てくる「卓子調烹方」です。


なんと書いてあるかほとんど読めません。

これだとある程度は読める。


漢字は読めるが意味はイマイチわからない。

「長崎流」の記述


「卓子調烹方」を見せてもらったところ、内容は漢語や漢字と仮名で書かれ、後半は写真の通り読むことができませんでした。読める範囲で見たところ、各料理に関しては2、3行程度で簡単に書かれているのみ。「長崎流」と書かれているところがあり、どうやら卓袱(しっぽく)料理に関係があるようです。レシピ本というよりかはメニューの説明のような感じです。

この中には3箇所「餃子」の文字が出てきます。その中の1つがこれです。


「餃子 麥粉 具ヲ包 胡麻油ニテ 煎ルナリ 其品々ナリカツカウハ色々見合造ル」


「麥粉」は小麦粉を指します。「其品々ナリカツカウハ」の「々」はちょっと違うかもしれません。しかし、小麦の皮で具を包んで胡麻油で焼くことが分かります。そして肝心の中身。使う具は色々見合わせて造る。つまり、この書物の中には大まかな材料と簡単な手順だけで具体的な具材についての記述が無いのです。


読めない・・・多分具材的なものの記述は無いと思う。

こちらには「肉ヲ包」としか書かれていない。


では、具材はどうするか。ここからは想像の世界です。江辺さんは食材選びから開始しました。今我々が食べている豚肉、キャベツ、ニラを中心とした餃子と同じだったのか。違うならばどんな肉や野菜を使うのが適しているか。

キャベツは古くから日本に入っていたけれども葉ボタンとしてわずかに利用されたのみ。食用として普及したのは明治末期なので江戸時代にはない。豚肉は沖縄(琉球)と九州のごく一部の地域以外は流通していなかった。また、いわゆる四足と言われる牛などの動物の肉は食べられることが少なかった。他にも各方面に問い合わせたり調べたりして食材を決定していったそうです。


食材の1つ。谷中生姜。台東区あたりになります。味噌をつけて食べると美味しいですね。

こちらは小松菜。江戸川区になります。小松川付近で栽培されていたので小松菜の名がつく。


すりおろして絞った大根。大根は亀戸や練馬が有名。江東区、練馬区になります。

鴨のモモ肉のミンチ。鴨肉や鶏肉は食べられていたようです。


江辺さんが決定にあたって特にこだわったのは、亀戸大根、練馬大根、谷中生姜、小松菜、千住葱などなるべく江戸の野菜、東京近郊の「地の野菜」を使うことだったそうです。江戸の餃子だから江戸の物を使う。今のように交通が発達していない江戸時代では、地の野菜を使うことがほとんどだったと考えられます。

出来上がった餃子の味を考慮して、最終的に今回教えて頂いた江戸時代の餃子では大根、小松菜(葉付き大根なら大根の葉)、ネギ、葉生姜、干しシイタケを使用しています。そして肉には、合鴨のモモ肉をミンチにしたものを使用。味付けは塩、コショウ、ごま油など。

詳しい分量や調理手順については後ほど。


業務用の分量なので結構多いです。

 

包むのは難しい

中の具材が決まれば次は包み方や焼き方。「卓子調烹方」には小麦の粉で作った皮で包むとしか書かれておらず、絵などもありません。耳のような形にしたのか、棒状に巻いたのかは不明です。焼き方に関しても「煎る」とだけ書かれていて、強火か弱火か、どのぐらいの時間なのか、フタをするのかしないのかなど詳しいことはわかりません。

このあたりに関しては中華料理人としての江辺さんの技が光ります。今回は包み方や焼き方なども合わせて指導して頂きました。


マンツーマンでの指導。

包み方のポイントを説明される。


手つきが非常にぎこちない。

遠目にみても出来栄えが明らかに違います。

 

片手でヒダを作って・・・最後に折り返して・・・と、作り方のポイントを見せてもらいながら教えてもらったのですが、実際にやるとまったくもって上手くいきません。


私の包んだ物。一応形にはなっているが不揃い。運動会の子供の行進を見ているようです。

江辺さんの包んだ物。均一。スターウォーズのストームトルーパーの行進を見ているようです。


プロと比べるのはおこがましいですが、あまりの出来の違いに愕然とします。何事も修行ですね。

そして、焼き方に関しては家庭用のフライパンでも焼ける方法を教えていただきました。今回は皮も市販品を使用。プロの技を家庭レベルで出来るようにカスタマイズしてもらっています。


コンロはプロ仕様。フライパンはテフロン加工の普通の物です。

美しい焼き目が食欲をそそります。


蒸し焼きで約3分。水を捨てて油を入れて約3分。詳しい焼き方に関しては後ほど。

江戸の餃子を食べる際にはこの「煎酒」と「七味唐辛子」を使います。


江辺さんが江戸時代の餃子を作る切っ掛けとなったもう一つにこの「煎酒(いりざけ)」と出会ったことがあります。煎酒は日本酒に花がつおと梅干を入れて煮詰めて作った調味料。醤油が貴重だった江戸時代の食卓には欠かせないものだったそうです。

濃いダシの味に梅の旨みと塩気。醤油よりもサッパリしています。一般的な醤油よりも塩分は少なく、サラダなどにかけてもとても美味しい。餃子を食べるときには浅草寺門前「やげん堀」の七味唐辛子を入れて食べるのが江辺さんのおススメです。では、早速食べてみましょう。


自分で包んだ餃子を早速試食。ご好意でビールまで頂いてしまいました。

やっぱりビールと餃子は黄金コンビだ!


実際に食べてみると、肉は入っているのですがそれほど肉感を感じず、サッパリとしています。普段食べている餃子のように肉汁がジュワッと溢れるという感じとは異なります。

しかし、野菜を含め様々な旨みが詰まっている。更に煎酒をつけることで外からも旨みが広がります。具材に味がついていてそのままでも美味しく食べられます。物足りないということは全くなく、むしろ食べ応えがある。谷中生姜もいいアクセントになって幾つでも行けそうな感じです。これは旨い!江戸時代凄いぞ!

こうしてプロからの直接指導で江戸餃子の作り方を教えてもらえました。次はこれを家で再現してみたいと思います。許可も頂いたので教えて頂いたレシピも公開です!


マハラジャピーナー
新宿三井ビルB1F
TEL 03-5321-9364

(ちなみに、お店では6月よりディナータイムに限りインド料理の他、江辺さんの作る中華小皿料理も出しています。どの料理も550円とお得な値段です。)


 江戸餃子のレシピ公開! >
 

 
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