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はっけんの水曜日
 
丸い石が集まる町がある

いたるところに石がある町

町を歩いていると、この地域には丸くないまでもいたるところに石がごろごろしていることに気付く。石文化なのだ。


町のいたるところに石があります。
お、なかなか丸い感じの石がありましたが。

そのへんに落ちている石を指して吉城さんに訪ねてみる。あれは表面がつるつるしていますが、丸石神と見ていいんですか。

「あれは違います、あれは石です。」

吉城さんはただの石と丸石神とをいっぱつで見分ける。


あれは違いますが、こっちは丸石神です。

「たとえばほら、そこにあるの、あれは丸石神ですね」

なんと。僕の立っていたすぐ後ろを指さされた。振り返ってみてもどこに神がいるのかわからない。

もしかして、これ?


石で組んだちょっとしたほこらの上に。
ちょこんと鎮座する丸石神。

丸石神はお地蔵でもなければ石碑でもない、ほとんどのものは字も彫ってないのだという。

「見た目はただの石なんですよ。つまり人が奉るか否かで神になるかどうか決まっちゃうんですね。」

自由だ。それにしてもこれでは近所の子供がいたずらして持って行ったりしないのだろうか。ちょうどいい大きさだろう。

「お地蔵さまみたいなものですからね、地域ではちゃんと敬われているんですよ。」

「あれなんてわかりやすいですよね。大きいから。」


どーん。

対比する物がないと大きさが伝わらないですよね。
このくらいでかいです。

確かにこれはでかい。

「この付近にある中で、二大巨石と呼ばれる(私が呼んでいる)うちの一つです。周りの小さい石は増えていっている気もしますね。」

丸石神は実に様々なのだ。

ん、ちょっとまてよ、増えてるってどういうことですか。

「そこらで丸い石を見つけると便乗して置いていくこともあるんですよ。そういうとき、地元の人は石が子供を産んだ、といいます。」

そんなわけで丸い石はこの地域に徐々に増えているのだ。


一見すると日傘を差して優雅に歩く女性。でも目的は石探し。

それにしてもこの丸い石、いったいなぜ丸いのだろう。

「人工的に丸くしたという説もあれば河原で転がって自然に丸くなったという説もあります。火山活動の影響で丸い石が生まれたという説もあるようですが、つまりよくわからないんですよね。」

見たところ自然にしては丸すぎるし、人口にしては自然すぎるように見える。丸石文化というのは日本に限らず世界中で見られるとのことだが、その多くは今でも謎な部分が多いのだとか。


これが二大巨石のもう一つ。
見つけるたびに手を合わせてから撮影させてもらいます。

「あの子は4年前から変わらないですね。」

吉城さんは丸石神に興味を持ってからというもの、定期的に石を見に山梨を訪れているのだという(1人で)。そのくらい好きなのだ。「あの子」という呼び方からも石への愛が感じられる。

「何年か前の年末年始には4泊5日で来ました。やっぱり年末年始は石も飾り付けされたりするので見に行くにはいいシーズンなんですよ。」

その年は暮れから年明けにかけて石の分布密度の高い場所に宿をとり、5日間ずっと歩いて石を探していたのだという。

「山梨には何度も来ているのですが、ブドウとかほうとうとか、観光地もぜんぜん知りませんでしたね。石を探していると観光とかしてる暇なんてないですから。」


一見ごろんと置かれているだけのようにも見えるのだが。
この台座は丸石神のためのものなのだ。

こんな吉城さんにしても丸石神にはまだまだわからないことが多いのだという。

「石が単体で奉られている場合もあれば、石がお供え物として置かれている場合もあるんです。」

お供え物?

「たとえばお地蔵さまとか、なにかを祈願した石碑とかありますよね。そうするとお供えものとして丸い石が置かれている場合があるんです。」

下の写真がそのよい例だという。確かに石碑と丸石神が混在している。


碑が先なのか。
丸石神が先なのか、わからない。

日本では山梨以外の土地でこのように石を信仰している場所はないのだろうか。


この丸石神は以前と比べてずいぶん様子が変わったのだとか(以前はこんなふうにコンクリで固められていなかった)。

「石信仰というのは山梨だけでなく全国にあったようなんです。いわゆる道祖神信仰ですよね。でも山梨のように単に丸い石を、となると他にはあまり見られないようですね。」

「私は専門家じゃないので」と付け加えていたが、いやいや吉城さんは完全に専門家と名乗っていいと思いますよ。なにしろここまで情熱的に丸石神を研究している人は他にはいないだろう。吉城さんがいかに丸石を愛しているのかをうかがえるエピソードが他にもある。

かつて奈良の遺跡発掘現場から巨大な丸石が出土されたことがあったのだとか。しかしその価値が認められず、工事の邪魔になるということで

「残念ながら爆破されてしまいました」

吉城さんは悔しそうだった。




 

 


 
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