少しまえに、川の水をタライに汲んで「川沿いの露天風呂をつくる」と言いながら、実際は単に川原で遊んでいるだけだった、という記事を書いた。そのとき思ったのは、川で遊ぶのは実に楽しいということだ。子供のころ、水辺でよく遊んでいた。とくに生き物をつかまえるのが好きだった。しばしば少年の標的となったのは、サンショウウオ(オオサンショウウオではなく、小さいもの)だった。 岩手に引っ越してきて4年になるが、住んでいる場所が田舎なせいか、昔のことをよく思いだす。水辺には今も、子供のころにみた生き物がいるのだろうか。でかけてみた。
(櫻田 智也)
北海道には大きな生き物がいない
ヒグマは別として、昆虫とか、そういうものは一般に小さい。最近は多少事情が変わったらしいが、北海道にはまず野生のカブトムシがいない。あとアメリカザリガニがいない。お金を払わなくては手に入らないものだった。本州にやってきて、工場の裏の下水にアメリカザリガニがごろごろ棲息しているのをみつけ、「下水に金が落ちとるバイ!」と、度肝を抜かれたものである。そのかわり子供のころはニホンザリガニをつかまえていた。スルメを竿の先にぶらさげて釣るとか、そういうことはしない。小川の淵の泥を掘り、濁った水の中で探りあてるのだ。
そう、大雨が降った。週末の夜、たてつづけに豪雨だった。川の様子が心配だ。濁って増水していては、とても遊ぶどころではない。そう思って近所を流れる川をみにいったのだが、
しかたがないので足をのばすことにした。川で遊んでいるところを近所の人にみられるのは少しはばかられたので、まあちょうどいい。
午後には晴れるかしら。そんなことを考えながら車を走らせる。途中、田舎道にポツンと1台の自動販売機があった。コカコーラ、大売り出し中である。
池をのぞいてみる
近所(というほど近くもないのだが)の道の駅までやってきた。とくに立ち寄る予定はなかったのだが、小さな池があったのを思いだし、なにか生き物がいないか、みてみることにしたのだ。
いつもは産直コーナーなどを覗くのだが、今回はまっすぐに池へ向かう。
ところどころで水がはねている。池の淵からみおろしてみると、
鯉だ。これは多分、とると怒られる生き物にちがいない。我慢だ。 ほかになにかいないだろうか。歩いていたら、池のまわりにできた水たまりみたいなところで、水面が盛んに動いているのがみえた。
手を入れてすくってみる。
水たまりには大量のオタマジャクシがうごめいていた。気持ち悪い表現だが、「うごめいていた」がしっくりくる状況だ。もしかしたら昨夜の豪雨で池があふれてできた水たまりなのかもしれない。そうだとしたら少し不憫だ。なんとか次の雨を待って、池に戻ってほしい。
俳句募集中
ところでぼくが住んでいる町、言ってしまうと葛巻町というところなのだが、毎年恒例のイベントとして、風と恋をテーマにした俳句を公募している。
入選したことがないので賞品は知らないが、優秀作は、ここ道の駅など、町内のいくつかの場所に、上の写真にあるような句碑が建てられる。全国から募集しているので、興味のあるかたはチャレンジしてみてはどうか。
一瞬、俳句なのか迷うような作品もあったりするが、迷う時点で自分に俳句の心がないという証拠なのだろう。
町内の湧水へ
残念ながらオタマジャクシ以外、道の駅ではめぼしい生き物をみつけることができなかった。そこでより綺麗な水を求めて、町内にある湧水へと足を運ぶことにした。
いってみたら、鳥居をつくっている最中だった。これまであまりにも目立たない場所にあったので、湧水の場所を知らせるという意味で、この鳥居はかなり有効にちがいない。
町内でも、知らない人は知らないし、知っている人でもわざわざ飲みにはこないという湧水。ぼくに場所を教えてくれた人も、「場所は知ってるけど実際にみたことはない」と言っていた。どんなところかと思っていたのだが、意外にも綺麗に整備されていて、緑と清流が目に優しい。
その名も「かくれ里」
なにしろ水源の名称が「かくれ里」だから、知られる気が基本的にないのだ。それでも今日はぼくらのほかにもう1組、水をみにきた人たちがいた。
「昨日の雨で濁ってるかと思ったけど」と、笑うおばあちゃん。水は見事に澄んでいた。『大五郎』のペットボトルに水を汲みつつ、柄杓を使ってその場でもゴクゴクと飲む。おいしそうだ。ぼくも飲んでみよう。 ちょうど空になったオレンジジュースのペットボトルを持っていた。
なんだその爽やかな顔は。 ボトルのすすぎが足りなかったらしい。もういちど、今度は柄杓で飲んでみる。
さて、みんなが水を汲むために整備されたこの場所で、ザブザブと生き物をさがすのはさすがにはばかられる。ルール違反というやつだ。なんだか単に湧水を紹介しただけで終わってしまうが、やむを得ない。 葛巻にお越しの際は、ぜひ立ち寄ってほしい。案内板とかまったくないので、なんだったらご案内します。
なぜか先ほどから町のPRみたいになってしまい、自分でも軽く動揺しているが、別に裏でなにか発生しているわけではないので勘繰らないでほしい。
そろそろ川へ
いかん、そろそろ本腰を入れて川とかいったほうがよさそうだ。オタマジャクシ以外ぜんぜん水辺の生き物をみつけられていない。カニとか、河童とか、画的にほしいではないか。
河童といえばこのあいだ妻が、なにかでものすごく疲れたときに、 「尻子玉を抜かれた気分だわ」 と言っていたが、そんな比喩はないと思う。
さて、天気がいいうちに、山のほうへと移動しよう。