15秒間の熱いドラマ
一応、自分の中で「男子渋谷スクランブル」のルールを以下のように決めた。
・走ったら負け ・早歩きでなければならない ・走ってる人がいたらそのレースはあきらめる
青信号になった途端、一気に走ってしまえば1位になれる可能性はかなり高い。しかし、僕が求めている1位はそういう1位ではない。あくまでも早歩きで勝ちたいのだ。勝手に競っている分、フェア精神を忘れたくない。
スタートラインで信号が青に変わるのを待つ。
画面左上の「WR」はワールドレコードの略であるが、その記録は適当である。その下の「SR」は渋谷レコード。世界と渋谷の差は0コンマ22秒、という設定にしてみた。もちろん、何の根拠もない。
画面手前の携帯電話をかけているおじさんが若干フライング気味なのが気にかかる。もし、信号が変わる前に渡り始めたらこのレースは無効にしよう。
携帯電話のおじさんは、青に変わるまでスタートを切らなかった。むしろ、青に変わってからもしばらくその場に立ち止まっていた。大事な電話なのかもしれない。
と、おじさんに気を取られているうちに、僕の右隣りにいた赤いカバンを肩にかけた男性が僕の前に出た。身長が高いので歩幅も大きい。
強敵である。 僕も歩幅を大きくして赤いカバンに迫る。
その時!
レース開始から7秒が過ぎたころ、赤いカバンの更に右奥からいきなり小学生が登場した。スタートラインには並んでいなかったと思う。どこから来たんだ?
ここからレースは後半戦に入る。小学生、赤いカバン、僕という順番でゴールに向かう。
そして、この辺りから対岸からの人が邪魔になってくる。
対岸からの人をよけながら、なるべく最短距離でゴールを目指さなければいけない。赤いカバンの歩幅も前半より狭くなっている。その点、小学生のコース取りは順調だ。ほぼまっすぐ歩いている。
まずい、小学生に負ける。 赤いカバンも侮れない。
1位は無理か?
ゴールまであと3メートルとなった地点で奇跡が起きた。 小学生、赤いカバンの2人が急に僕側にコースを変更し始めたのだ。2人ともセンター街を目指しているらしい。僕のコースはそのままセンター街につながっている。
2人がこちら側にコースを変えている間にゴールしてしまえば、僕が金メダルである。
3人が団子状態でゴールに突入した。 タイムは14秒84。渋谷レコードを更新している。
1位でゴールしたのは、誰だ? 赤いカバンか? 小学生か? それとも僕か?
1位は僕だった。
と思う。
いや、間違いなく僕が1番だった。 最後の一歩で赤いカバンをかわした、はずだ。
こうして僕は、男子渋谷スクランブルの金メダリストとなった。