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フェティッシュの火曜日
 
700kgの鉄のソリを引くレース〜ばんえい競馬を見てきた


 

舞台裏を見よう

 ばんえい競馬の舞台裏が見られるバックヤードツアー。レース開催日には毎日行われていて、今回のような取材でなくても、誰でも参加することができる。


一般のお客さんに混じって参加

ここに連れてこられると、馬はレース前を察知して興奮し始めるそうだ

装鞍所

 最初に訪れたのは、装鞍所とよばれるところ。レース前に馬が連れてこられるところだ。

 ここでは、レースに出る馬が本当にその馬かどうか確かめる、実馬照合という作業が行われる。毛の色や、顔の模様、つむじの位置なんかで判断されるそうだ。

 実馬照合が済んだ馬から、馬具一式を装着される。


実馬照合中。手際よし
これが馬具。オーダーメイド

 

見渡す限りソリ、ソリ

調教場

 そして次にやってきたのは、馬の調教場。

 練習用のソリがどっさり並んでいて、その数800ほど。重いソリで筋力トレーニングを、軽いソリで心肺機能のトレーニングを、という具合に使い分けて馬を調教していくのだという。練習には専用のコースがあり、そちらで行われる。

 奥にある厩舎では馬と調教師の家族が生活している。馬は800頭近くいるそうだ。

 

夏は77kg、冬は75kgに決まっている

検量所

 そして検量所。騎手の体重は事前に決められていて、ソリに乗る前にその数字ぴったりに調整しなければいけない。そのためにここで騎手の体重を量るのだ。

 もちろん全員がその数字どおりの体重になるようにダイエットしたり、太ったりしているわけではない。体重を量って、たりない分の重さはどうするか。「弁当箱」と呼ばれる重りを入れた箱があり、それをソリに積んで重くするのだ。


これが「弁当箱」と呼ばれる箱
けっこう重いです(騎手次第ですが)

たりない分の重さはこの板を入れて調整

 

 

バックヤードツアーの見学コースは馬もとおる道。雪解けのぬかるみに足跡がたくさん。
道中、レースのコースを正面から見ることもできます

 

こうやって馬が片付けをします

ソリを運ぶトロッコ

 検量所のあとは、いつもは入れないコースの裏側から、レースを観戦。これもまた大迫力。その後、ゴール地点で後片付けの見学だ。

 ゴールの向こうには、使い終わったソリをスタート地点に戻すためのトロッコが待機している。レースで走り終わった後、トロッコにソリを乗せて、はじめて馬は解放される。走るだけでなく、後片付けまで馬の仕事なのだ。


ソリを乗せたトロッコはふたたびスタート地点へ

 

 そのほか、競馬場に設置されているロードヒーティングの話(これのおかげで冬季もレースができる)、写真判定の話(不正やハッキング対策のため、あえてデジタル化しないで現像している)などの説明を聞き、30分ほどの短い時間ながらも、ばんえい競馬の裏側がよくわかる充実したツアーでした。

 

 

小泉さん。冒頭でスープを配ってた人です

ここでバーベキューは確かに贅沢

ばんえい競馬場オリジナル、ばんばカレーうどんなんてのもありました(2/28まで限定!)

帯広ではけっこういたるところでばんえい競馬を見かける。空港でもこんな馬がお出迎え

小泉さんの熱い語りは、ばんえい競馬愛にあふれていました

ばんえい競馬インタビュー

 ツアーを引率してくれた広報の小泉さんに、ひきつづきお話をうかがった。

 京都出身だという小泉さん、それまでは特に競馬に興味があったわけではなかったが、ばんえい競馬を見て一気にその魅力の虜になってしまったのだそうだ。そしていまではこうして、競馬場の職員として働いている。(小泉さんの発言は、少し関西なまりに変換してお読みください)

石:レースのおすすめの楽しみ方みたいなのはあるんでしょうか?

小:馬とならんで一緒に走ってみるのがおすすめです。人間の小走りくらいのスピードですし、距離も200m、時間にすると2分くらいですから、けっこう簡単について行けます。最初から最後まで間近で見られて、臨場感が楽しめますよ。

 あとはやっぱり競馬ですから、馬券を買ってみてほしいですね。馬に対する思い入れというか、見てて興奮の度合いが全然違いますから。

石:レース中、特にみどころなのはどのあたりですか?

小:第2障害物前の平地ですね。ここで騎手は馬を止めてもいいことになっているので、険しい第2障害に備えて、馬を休ませてペース配分をするんです。ここで馬の特性や土の状態、レースの状況なんかを考えて、遅れすぎないように最適な休ませ方をする。この駆け引きが面白いところです。

石:お客さんは、観光客の方もよく来られるんですか?

小:ええ。ここ数年、特に増えていますね。そういった方にもより楽しんでいただけるように、夏場はバーベキューセットを用意して、レースを見ながらの焼肉なども行っています。

石:遠くからのお客さんにおすすめのシーズンは?

小:夏場でしたら、10月頃ですね。旅行シーズンも過ぎて、少しゆったりとレースを見ることができます。

でも本当は、帯広競馬場のメインシーズンは冬なんですよ。特に一年で最大のレース、3月のばんえい記念。これは遠地からもたくさんのファンの方が来られます。

 そう、帯広競馬場のメインシーズンは冬なのだ。レース自体は年間通して行われているのだが、こうして「メインシーズン」なんていわれるのには理由がある。そこには、ばんえい競馬のおかれている現状と深い関係がある。

存続の危機

 実は今、ばんえい競馬は存続の危機に瀕している。以前はレースは北見・岩見沢・帯広・旭川の4つの競馬場で開催されていた。季節ごとにこの4つの競馬場をめぐり、帯広では冬にレースが行われていたのだと(これは帯広競馬場にはロードヒーティングがあるからだ)。これが、冬が帯広競馬場のメインシーズンといわれるゆえんだ。

 ところが金銭的な理由により、帯広以外の3つの競馬場は2006年に次々とばんえい競馬の廃止を決定。それ以来、ばんえい競馬は年間通してこの帯広競馬場で行われることとなった。

 帯広競馬場だけは廃止を免れたものの、毎年毎年、次の年もレースが存続されるかは綱渡り状態だそうだ。ひとまず来年度の開催は決定。しかしそれ以降はまだまだ先が見えない状況だという。

ばんえい競馬の魅力とは

石:ばんえい競馬の魅力ってなんですか?

小:北海道の馬の歴史が凝縮されている、というところですね。ばんえい競馬は北海道の開拓時代、馬と人間の共同作業の中から生まれたものです。

ルールひとつ取っても、たとえばばんえい競馬の場合、ゴールの判定は馬の鼻先ではなく、ソリの一番うしろで決まるんですよ。これはばんえい競馬がただのレースではなく、「荷物を運ぶ」競争だからです。馬と人が協力して北海道を開拓した、そんな歴史の名残ですね。

 ばんえい競馬はただのギャンブルではなく、北海道の歴史を伝える文化でもある。そんなばんえい競馬の存続のため、小泉さんはじめ職員の方々も、日夜がんばっているのだ。

 

 

 
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